
アニメをめぐる冒険型コラム「アニメ・エンタープライズ」。
今回は京都アニメーションが誇る女性監督・山田尚子さんのお話です。
「物語」とアニメと「映画」
僕が山田尚子監督の名前を覚えたのは、2009年に放送されたTVアニメ『けいおん!』でした。京都アニメーションの作品は、『涼宮ハルヒの憂鬱』をはじめ、当時かなり好きだったのですが、『AIR』などで魅せたキャラクターの芝居演出が、とにかく素晴らしかった。
アニメのキャラクターは実在しないけれど、1つ1つの仕草を丁寧に描くことで、本当に存在しているように感じることができたんですね。石原立也監督の芝居演出は、直系ともいえる山田尚子監督にも受け継がれ、ガーリーな華やかさが加わった『けいおん!』は、理想のアニメだと思えました。とある機会に本作の脚本を読んだことがあるのですが、まさしく骨子とよべるもの。アニメ本編を観てキャラクターが可愛いと思ったカットの内容は書かれておらず、画コンテ以降の工程で演出されたものだと知りました。
しかし、『AIR』や『CLANNAD』といった作品の流れで観ていくと、回を重ねていくごとに、『けいおん!』では「物語」が描かれないことが不満だったんです。これはドラマ的な変化が起こらない『けいおん!』をはじめとする、いわゆる「日常系」と呼ばれる作品に対する不満でもありました。
今では「物語」が、必ずしもアニメに必要なものではないと思っているのですが、当時は好きがゆえに少し鬱屈していたんでしょう。2010年に放送されたTVアニメ第2期『けいおん!!』の第1話で、梓が唯たちと一緒に部活をしていくことについて、「しばらくこのままでいい」という内容の発言をして、ちゃんと観なくなったんです。登場人物たち5人のいる軽音部がこのままでいいということは、ドラマ(劇的な変化をすること)への完全否定なのではないか、と思ったんですね。
2011年に公開された『映画けいおん!』も、公開当初は観に行かなかったくらい、鬱屈とした想いを抱えていました。
山田監督は「物語」に興味がないのではないか? そう思っていたエンタープライズ山田の認識を、大きく変えた1作が、山田監督の映画第2作目『たまこラブストーリー』でした。
次回は松竹映画の真骨頂を感じた傑作『たまこラブストーリー』について、書いていきたいと思います。