『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(あの花)や『心が叫びたがってるんだ。』の脚本家として有名な岡田麿里さんの初監督作品『さよならの朝に約束の花をかざろう』(さよ朝)の完成披露試写が、2月13日(火)に新宿バルト9にて開催。

 

11都道府県の全国縦断試写会の最終ゴールとなった本試写会には、監督・脚本を務めた岡田麿里さん、プロデューサーの堀川憲司さん、本作で映画初主演となった石見舞菜香さんが登壇され、集まった観客に向けて上映後トークがなされました。その完成披露試写会の模様を「SWAMPER」エンタープライズ山田のレポートにて、お届けします!

 

初監督作品は「岡田麿里100%」

 

企画から5年、制作に3年が費やされたという本作。企画が始まったきっかけを尋ねられた岡田監督は、「一番初めに堀川さんから、いつか岡田麿里を100%さらけ出した作品を観てみたいと言って頂いたんですが、100%って何だろうって。アニメは共同作業なので誰かの100%はあり得ないけど、自分が100%観たい作品になら近づけるかもしれないと思い、さんざん考えて監督をやらせてくださいとお願いしました」と回答。

 

これに対し、オファーをした制作プロダクション・P.A.WORKS社長の堀川憲司さんは、「岡田さんの小説原作のアニメを作りたいというつもりだったんです」と当初の思惑とのズレを明かしました。

 

 

そこから堀川さんは「後で叱られないように(笑)」と岡田監督にその場で断りを入れつつ、監督就任が決まった飲み屋でのエピソードも披露。「今までで一番緊張していて、声もカラカラになって、醤油を入れる手が震えて机にまき散らしながら、『監督をやらせてください……!』」と言われたとのこと。

 

 

恥ずかしそうに堀川さんの話を聞きつつも、「そこまでは緊張してはいないっ!」と慌てて訂正を入れた岡田監督。

 

ファンタジー設定となったいきさつに関しては、「世代的に昔観てワクワクしていた作品にファンタジーが多かったんです。脚本だけだと感情の動きを台詞で説明しないと難しいところがあるんですが、監督をやるうえで、表情1つでも(キャラクターデザイン・総作画監督の)石井百合子さん、その場所の光源についても美術監督の東地和生さんと直接お話しできるので、シンプルな台詞でも(画面上の)繊細なところで感情が表現できるのではないかと」

 

そして、「普段とは違う型にハマらない感情を描こうとしたときに、現代劇だとリアルになりすぎるので、ファンタジー世界で地続きの感情を乗せられたら新しい作品になるのでは」と話されました。

 

脚本執筆の際には、「自分は脚本家なので、ホン読みをちゃんとしてほしいと個人的にさせて頂きました。いつもは監督やプロデューサーに提出して意見を取り入れつつ改稿していくんですが、今回は皆さん(自分が)監督だからなのか、ダメ出しがなくて、すごく不安になったんです。何度も書きなおして、内なる自分を引き出すことになりました」

 

 

岡田監督の回答をにこやかにうけとめていた堀川さん。「どんな脚本が来ても、岡田さんらしさを見つけたかったんです」と、制作にあたっての意気込みを話されました。

 

「僕が監督に求めることは、3年間作品作りに向き合ってきたスタッフが報われる作品を作ってほしいということ。スタッフが(本作が)完成して喜んでいる顔を見た瞬間、岡田監督に感謝しました」と、完成した作品への確かな手ごたえを感じるコメントも。

 

 

10代半ばの外見で、数百年の寿命を持つ「イオルフ」の少女・マキア役を務めた石見舞菜香さん。

 

オーディション時は、通常のやり方とは異なり、キャラクターの絵が分からない状態で、設定とセリフだけで感じるままに演じる形だったとのこと。具体的なセリフに関しては、「(マキアが助けた少年)エリアルに対して『どうして言うことを聞いてくれないの!』って言うシーンや、感情を爆発させるシーンが多かった気がします」と答えていました。

 

 

石見さんの声を初めて聞いた感想を聞かれた岡田監督は、(マキアを)「見つけた」とひと言その場で資料に書いたとのこと。

 

それを聞いた石見さんは「泣きそうです。本当に自信がなかったオーディションで、当日の日記にこのままじゃダメだと、反省点ばかり書いてあって」と役が決定するまでの正直な心境を話されましたが、まさに本作で「自分は本当にこれでいいのか?」と問い続けるマキアとリンクしていました。

 

P.A.WORKSの総力をあげて作り上げられた本作を観ての感想については、「映像と声と音楽がすべて合わさったら、マキアは私だけで演じたわけじゃないと感じます。作画の石井さんもキャラクターの感情になって描かれているとお聞きしました。みんなの全部が詰まっているんだと思います」と言葉を紡がれました。

 

SWAMPER's EYE!

 

「『凪のあすから』や『あの花』もそうなのですが、「時間経過が違うことで生まれる感情の物語」が好きなんです」と語った岡田監督。試写で拝見した『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、岡田監督、そしてP.A.WORKSの最高傑作だと感じました。

 

「人が生きていくうえで、何を考えて何のために生きるのか」

 

自身の存在証明であり、アイデンティティーにもなるものを問いかけ続ける「古の存在」の少女・マキアが、母親になろうとする「生き様」を、徹底的に真正面から描いています。

 

P.A.WORKSの『true tears』を初めて観たとき、ヒロインが日本家屋の階段を下りてくる様子を丁寧に描いているのを観て、「この作品(スタジオ)は、そういう仕草や芝居、生活をしっかりと描こうとしている」と感じて10年。さまざまな作品を経て、珠玉の物語が織り込まれました。

 

岡田監督が得意とする「えげつないまでの現実感」がキーポイントとなり、ファンタジー世界といえど一気に引き込まれていく『さよ朝』は、日本アニメ史に残る1作と言っても過言ではありません。アニメーションという表現で紡がれる生命の物語、ぜひ劇場にてご覧ください!

 

『さよならの朝に約束の花をかざろう』作品概要

 

タイトル:『さよならの朝に約束の花をかざろう』
公開日:2018年2月24日(土)ロードショー
配給:ショウゲート

 

【スタッフ】
【監督・脚本】:岡田麿里
『心が叫びたがってるんだ。』脚本、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』脚本、『花咲くいろは』脚本
【アニメーション制作】:P.A.WORKS
【製作】:バンダイビジュアル/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ/ランティス/P.A.WORKS/Cygames
【配給】:ショウゲート

【主題歌】:rionos「ウィアートル」(ランティス)作詞:riya 作曲・編曲:rionos

【キャスト】
マキア/石見舞菜香 エリアル/入野自由 レイリア/茅野愛衣 クリム/梶裕貴
ラシーヌ/沢城みゆき ラング/細谷佳正 ミド/佐藤利奈 ディタ/日笠陽子 メドメル/久野美咲 イゾル/杉田智和 バロウ/平田広明

 

 

公式サイト:http://sayoasa.jp/

 

 

©PROJECT MAQUIA

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