
京都の片隅にある老朽化した架空の学生寮を舞台に、補修しながら現在の建物を残したいと考えて、不器用ながら奔走する寮生たちの姿を描いた京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』。今年7月に放送されて以降、視聴者から多くの反響が巻き起こり、ついに9月17日(祝・月)14時〜NHK総合にて再放送が行われます。そしてこのドラマから派生したトークイベントやライブ、写真展が同時多発的に開催され、多方面に魅力が拡散しているのです。
観た人を次々トリコにするドラマの秘密に迫るべく、SWAMP(スワンプ)では脚本を担当された渡辺あやさんの単独インタビューを敢行。過去作にまつわる制作秘話とともに、『ワンダーウォール』に込めた熱い想いを伺いました。
『ジョゼと虎と魚たち』と『ワンダーウォール』
渡辺さんといえば、映画『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』をはじめ、連続テレビ小説『カーネーション』や『その街のこども』といった数々の名作映画やドラマの脚本を手掛けてこられた方。「いつかじっくりお話を伺ってみたい!」と長年温めていた想いがついに実現。まずは「忘れられないあの作品」の話題からインタビューがスタートしました。
――渡辺さんが脚本家デビューされた『ジョゼと虎と魚たち』に、とてつもない衝撃を受けました。インタビュー記事を読み返していて驚いたのですが、実はハッピーエンドを求められていたそうですね。
渡辺:そうなんです(笑)。監督とプロデューサーから「映画を何回も観てもらうためには、お客さんに楽しい気持ちで帰ってもらわないとダメなんだよね」って説得されて。デビュー作だったこともあり、言われるままに何案か書いてみたんですけれど、結局は一番最初に書いたあの形に落ち着きました。
――そして一番良い形に収まった、と。
渡辺:と、私は思っているんですけどね(笑)。
――あの残酷な結末に打ちのめされた身としては、もしハッピーエンドを匂わせる展開で終わっていたら、あの映画に対する想いは全く違うものになっていたと思います。
渡辺:きっとそうですよね(笑)。
――もともと渡辺さんは、育児ノイローゼ寸前のようなところから「作ることへの渇望が生まれて脚本を書き始めた」と、過去に告白されていますよね。実は『ワンダーウォール』を拝見したときに、まさに「渇望」のようなものを感じたんです。1話完結の60分のドラマに込められた、作り手側の「燃えたぎる想い」のような、なんだか得体の知れないパワーが感じられる作品には普段なかなか出会えない。しかも今回は若い人たちと一緒に作り上げていく過程で、渡辺さんご自身もいろいろ新たな発見があったそうですね。
いま40代の渡辺さんが、20代の監督やキャストたちと一緒に作品を作り上げていくにあたり、かつてご自身が20代で『ジョゼと虎と魚たち』の脚本を初めて手掛けられた頃の気持ちと、どこか重なる部分があったのか伺いたくて。
渡辺:NHKには、地方局が独自企画で番組を制作出来る「地方発ドラマ」という枠があるんですが、今回の『ワンダーウォール』もその一環なんです。私のところにオファーが来たのは去年の12月くらいだったのですが、企画の立ち上げ当初は「大学の古い寮内の日常を描く」といったような、もう少し軽めのお話しでした。
その時既に、ある大学の寮の存続が難しい状況に置かれているという問題があったのですが、当時は「いま下手にこの話題を取り上げてしまうと、大学側を刺激してしまうことになるかもしれない」と言われていたんですね。とはいえ、私はこういうものがやりたいとお話ししていたら、その直後にこのドラマの中にも出てくる最後通告のような退去命令を大学側が出したんです。それで「もはやこういう形になったのであれば、今実際に起こっていることをテーマにするのを躊躇する必要はない」という流れになりました。