答えが見つからなくて苦しんでいる人たちに、「こういう場所があるんだ」っていうことを知ってもらえるだけでもいいんです。

 

――実は私、今日根本さんにどうしてもお聞きしたいことがあるんです。

 

根本:はい。なんでしょう?

 

――根本さんは普段、メールや電話でやりとりするより、直接会って話すことを大切にされていらっしゃいますよね。仕事柄、私も映画監督や俳優さんにインタビューをさせていただくことがあるのですが、場合によっては15分程度の限られた時間で、ほぼ初対面の方を目の前にして「いったい何が聞けるんだろう?」といつも悩むわけです。人と直接会って話すことで、果たして何が変わるのか。ぜひとも根本さんに伺いたくて。

 

根本:あぁ、なるほど。仏教には「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があるんです。

 

――「そったくどうじ」ですか?

 

根本:特に臨済禅ではよく言われる禅語なんですが、卵の殻って、親鳥が殻の外からツンツンってつつくのと、ヒヨコが内側からツンツンってやるタイミングが同時じゃないと、割れないらしいんです。

 

――へぇ~! 初めて知りました。

 

根本:それを「啐啄同時」と呼ぶんです。どっちがどっち、というわけではなくて、同時にパーンと合わないと何事も無理なんじゃないかと思うんです。互いが同じ力でぶつかり合うことによって「あぁ! やっぱりそうだよね!」って、パーッと光が見えてくる。もちろん、本を読んだり映画を観たりしているときにも、そういう瞬間はきっとありますよね。でもやっぱり人と直接会うことによって「啐啄同時」が起きやすいような気がするんです。今みたいにこうして直接会ったほうが、お互い印象に残りますよね。

 

――確かにそうですね。根本さんが取り組まれている活動やお人柄が『いのちの深呼吸』という映画を通じて世界に広がることで、映画館の中でも「啐啄同時」が沢山起きるような気がします。

 

根本:そうですね。一緒にワークショップをやっているような感覚で、一度立ち止まって「いのちを見つめる」きっかけになってくれたらいいなと、監督のラナとも話していたんです。答えが見つからなくて苦しんでいる人たちに、「こういう場所があるんだ」っていうことを知ってもらえるだけでもいいんです。悩みを抱えた人たちが生き抜くための、ヒントになってくれたらいいなと願っています。

 

根本さんに教えていただいた「啐啄同時」の文字を卵のイメージとともに筆で書いてみました。

 

 

 

ラナ・ウィルソン監督の視点で紡がれた『いのちの深呼吸』を通じて浮き彫りになるのは、もはや僧侶という役割を超えて「生きる意味を模索する」根本一徹さんの生き様。映画の中では、根本さんがここまで自らを追い込むようになった理由についても語られます。それは根本さん自身、とても身近な人物を過去に3人も自殺で失ったから。

 

根本さんは、いま目の前にいる救いを求める人たちに寄り添うことで、「彼らがなぜ死を選ばなければならなかったのか」という問いに対する答えを、ずっと探し続けているのです。

 

 

■関連記事

・どこから来てどこへ行くのかを問い続けるーー『いのちの深呼吸』で向き合う人の「心」

 

(写真・加藤真大)

『いのちの深呼吸』概要

 

『いのちの深呼吸』

9月8日(土)よりポレポレ東中野にて公開!

 

登場人物:根本一徹
監督・製作:ラナ・ウィルソン
挿入曲:クリスチャン・フェネス+坂本龍一、他
推薦:厚生労働省 後援:日本自殺予防学会
2017年/アメリカ/日本語/デジタル/87分/配給パンドラ

 

 

公式サイト:いのちの深呼吸com

 

 

(C) )DRIFTING CLOUD PRODUCTIONS, LLC 2017

 

 

 

 

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