カレーって大抵90点とか100点で、たまに120点クラスが出て来る

 

――ドキュメンタリーは「目の前で起きていること」を記録することが多いですが、フィクションの場合、まず「目の前で起こす」必要がありますよね。もちろんフィクションにおいても予期せず「起きてしまう」ことは沢山あると思うのですが。

 

三宅:そうですね。確かにフィクションは両方あるから面白いと思いますね。映画ってどんなカットも「その時にしかない瞬間を撮ったもの」だから、それ自体がすでにものすごく価値があるものなんじゃないかと思うんですよ。もはや自分が精神的に弱っているときには「何の映画を観てもOK」と思えるくらい、映画って本当に素晴らしい。その中でも特に優れているものがあるとしたら、その「かけがえのなさのレベルが高い」というか(笑)。「より質が高い」みたいな感じで。

 

これ、変な例えですけど、カレーって、ほぼ全部旨いと思うんですよ。90点以下のカレーってほとんど存在しないと思うんです。ラーメンとかだと30点とか平気であるんですけど、カレーって大抵90点とか100点で、たまに120点クラスが出て来る。映画はカレーに似ていて、基本的には「絶対うまい」。世の中の大抵の映画は面白い。

 

――もはや映画に対する「信仰」のようにも感じられます(笑)。

 

三宅:大嫌いな映画も、もちろんありますよ。でも、目の前にあるものを「リスペクトしよう」とか「愛そう」と思って撮られている映像は、もうそれだけで価値があると思っているんです。

 

――でも全ての映像が、必ずしもそうとは限らないような気もします。

 

三宅:ナイフや銃みたいにカメラを持って何かを暴くような映画もあるし、それはそれでいいと思うんですけど、僕自身は「カメラが惚れちゃっている」ような映画が撮りたい。

 

――「幸せが映っている」みたいな。

 

三宅:そうですね。でも、幸せってなかなか映るもんでもないから、「じゃあそれをみんなで作って記録しましょうよ」っていうのが、僕にとってのフィクションかな、と思うんですよね。

 

――ちなみに、三宅監督は「教えること」も仕事の一つにされていますが、そもそも「映画の作り方を教えられる」と思ったきっかけは?

 

三宅:数年前から年に1度青山学院大学の三浦哲哉先生のゼミに呼んでもらっているのですが、そこでは、最初の一時間は何本かの映画の抜粋を一緒にみながら「映画は発見の連続です」みたいなことを、まあ偉そうに(笑)、発見するためのヒントを少し話して、僕が書いた短編のシナリオを渡して「これ撮ってきて」と。そのあとは「それぞれご自由に」という形式で。で、出来上がったものがショッキングなくらい全部面白い。

 

もちろん映画を観るだけでも楽しいんですけど、それを一回自分で作ってみることによって、「映画を観る目」が明らかに変わるんです。たとえば料理とかでもそうですよね。俺、昔は料理なんて全然しなかったんですけど、自分で作るようになってからは、外食するたび「これ、何を使っているんだろう?」とかすごく気になって。そうすると、メチャクチャ楽しくなってくる。

 

――なるほど~!

 

三宅:前は「そんなこと考えながら食べても、美味しくないんじゃないか?」と思っていたけど、でも、そんな風に考えながら食べた方が、面白いし、おいしかった。「映画監督を職業にしろ!」なんてことは全く思わないし、むしろしない方がいいと思うけど、せっかく自分が教える機会があるなら「映画って面白いでしょ」ってことだけ伝わればいいな、と。

 

――今日お話を伺って、全てがつながりました! 三宅監督の中で育まれてきた「映画愛」を、ご自身の映画や講義を通して精一杯伝えている、ということなんですね。

 

 

 

映画三昧だった学生時代、かつて道元坂にあった「シネセゾン渋谷」という映画館でアルバイトをしていたという三宅監督。

 

「2006年から2011年に閉館するまで在籍していたんですが、その間、平気で1カ月くらいシフトすら出していない時期もあって。ある意味『きみの鳥はうたえる』の『僕』よりクズみたいなアルバイトでしたね(笑)」そんなエピソードを伺うと、柄本佑さん演じる「僕」と三宅監督ご自身の姿がピタリと重なる気がして、また映画を観返したくなりますね。

 

(写真・加藤真大)

 

 

『きみの鳥はうたえる』

 

9月1日(土)より新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほかロードショー!以降全国順次公開
(8月25日(土)より函館シネマアイリス先行公開)

 

公式サイト:http://kiminotori.com/

 

 

©HAKODATE CINEMA IRIS

 

 

 

おすすめの記事