
すべての沼は宇宙へつながる――
加藤:最後に、何かを追求している人を紹介していくSWAMPというメディアで、定番の質問がありまして……。
牛尾:はい。
加藤:牛尾さんが音楽を手掛けられていく中で、コアとして一番大切にされていることは何ですか? そして、何か辛いことがあったときに支えになっているものは何でしょうか?
牛尾:えぇ~!? 難しい質問ですね。何だろうなぁ。うわぁ~、なんか一言でカッコよく言いたい(笑)。
――ははは(笑)。例えば、小さい頃に自分が影響を受けてきたアニメだったり、音楽だったり、そういうものをまた自分というフィルターを通して世の中に還元している、というわけではないんですか?
牛尾:いやでもね……うわぁ、すっげー難しい、それ! しかも、すっげー長くなる!
(一同笑)
牛尾:あの、僕、ヒーローがいて。
――はい。
牛尾:デュシャン※1 なんですよ。 そもそもデュシャンがヤバいのって……うわぁ、これ、すっげー長くなる!
※1 フランス生まれの美術家、マルセル・デュシャン。代表作に後述される男性用小便器にタイトルをつけた『泉』などがある。
(一同爆笑)
牛尾:便器に名前を書いて「アートとは何ぞや?」って言うことって、すごくラディカルな視点だと思ったんです。デュシャンのそこに憧れるんですよ。
――すごく根源的なところって、結局そこからほとんど更新されていないですもんね。
牛尾:そう! それって音楽で言うと(ジョン・)ケージの『4分33秒』にあたるわけなんですけれど、ケージの『4分33秒』って音が無いんじゃなくて、音はどこにでもあるっていう作品なんですね。
――えぇ。
牛尾:ただ、僕がそれより好きなのが『0分00秒』って作品なんですね。この曲の初演は、聴取する場所とは他の場所に置いてあるマイクの音をアンプリファイして、爆音で聴くっていうものだったんですけれど。別にその作品の内容が好きなわけではなくて、『0分00秒』っていうタイトルがすごく好きなんですよ。 それは、音楽が唯一音楽たり得るのは、ハーモニーでもリズムでもメロディでもなくて、「時間がある」っていうことだけだから、と思うからなんですね。で、「時間がある」っていうことに対して、何がラディカルかっていうと、「時間がない」っていう作品を提示することであって、これ以上はないんです。そうやって「ラディカル」であることを志向したいので、僕は自分でソロを作っているんですけれど、これをどうポップにつくればいいのか全然わからないんです!
(……と、早口で一気にまくしたてる牛尾さん)
――へぇ~! 面白いですね! それをどうやって世の中にぶつけていくのかっていう感じですかね。
牛尾:別にぶつけるとも思ってないんですよね。たまたま自分で作っていたものが、どうやらお金になって、それで食えるらしいっていうので、やっているだけなので(笑)。
――それはすごく幸せなことですね!
牛尾:人に聴かせたいとか、表現したいっていうことは全然ないんです。
加藤:どちらかというと、自分との問題というか。
牛尾:そうですねぇ……。SFはお好きですか?
加藤:割と(笑)。
牛尾:僕ね、「コペンハーゲン解釈」ってあんまり好きじゃないんですよ。
加藤:あぁ~。
牛尾:(エヴェレットの)多世界解釈が好きで。
――え???
牛尾:「コペンハーゲン解釈」って、物理の世界認識の話の中にあるんですけれど、例えば…「湖畔で木が水面に落ちたかもしれない。でも、それを誰も見ていないときに、果たして本当にその事象は起きたのか?」という表現のことで、つまりは「観測者が必要である」という解釈なんです。
加藤:えぇ。
牛尾:そもそも僕はあんまり人間が好きじゃないというか、人間を描くことに興味がないので……。
――え”……!? でも、『モリのいる場所』では人間にフォーカスしているって……。
牛尾:そう。それはこの作品における僕なりの挑戦だからです。自分の作品で人を描くことはないです。あぁ、すげー長くなる。これ終わんないな(笑)。
加藤:多分、「観測者ありき」っていうところが違うんですよね。
牛尾:そうそう! そこには全然興味がなくて。「いや、人が居なくても木は落ちてるよ!」って思うので(笑)、僕は人が居なくてもソリッドな音楽でありたいんですよ。
――へぇ~~!
牛尾:あとそれから、アントニー・ゴームリーの彫刻作品がありましてですね……(笑)
――このお話、まだまだ果てしなく続きそうですね……(笑)。
牛尾:えぇ、まぁ、はい(笑)。自分の憧れるカッコいい人に近づきたいんだと思います……って、なんかカッコ悪いな、これ(笑)!
加藤:また続きを聞きにきます(笑)
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牛尾さんの冴えわたるトークが炸裂したインタビュー、いかがでしたか?
取材後、牛尾さんのお話を振り返りつつ、改めて「モリカズさんと私」(文藝春秋刊)をじっくり読み返していると、モリは妻の秀子さんから聞いた「音の振動数」の計算に夢中になり、なんと一年もの間、夜な夜な「音の計算」をし続けた……という記述を発見! なんだか牛尾さんがしていた音作りの話と、モリの行動とがそこで繋がったような気がして、妙に納得してしまいました。
今回のインタビューを通じて編集長と私が導き出した結論は……
「すべての沼(SWAMP)は宇宙に通じる!」
きっと『モリのいる場所』をご覧になった方なら、その真意がお分かりいただけるのではないかと思います。ぜひ皆さんも牛尾さんの手掛けたこだわりの音楽に、耳を傾けてみてくださいね。
(写真:加藤真大)
『モリのいる場所』概要
『モリのいる場所』
5月19日(土)シネスイッチ銀座、ユーロスペース、
シネ・リーブル池袋、イオンシネマほか全国ロードショー
配給:日活 制作:日活、ダブ
2018年/日本/99分/ビスタサイズ/5.1ch/カラー
監督 /脚本:沖田修一
出演:山﨑努、樹木希林
加瀬亮 吉村界人 光石研 青木崇高 吹越満 池谷のぶえ きたろう 林与一 三上博史
2018年/日本/99分/ビスタサイズ/5.1ch/カラー配給:日活
公式サイト:http://mori-movie.com/
「モリのいる場所」オリジナル・サウンドトラック
レーベル:SMALLER RECORDINGS
配信日:2018/05/19
<通常音源>
iTunes:https://itunes.apple.com/jp/album/id1382597540?at=10lpgB&ct=4542696008299_al&app=itunes
レコチョク:http://recochoku.com/s0/morinoirubashooriginalsoundtrack-disc/
Mora:http://mora.jp/package/43000001/4542696008299/
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/id1382597540?at=10lpgB&ct=4542696008299_al&app=music
<ハイレゾ>
レコチョク:http://recochoku.com/s0/HiR-morinoirubashooriginalsoundtrack-disc/
Mora:http://mora.jp/package/43000001/4542696008312/
(c)2017「モリのいる場所」製作委員会