
直木賞作家の道尾秀介さんの原案をもとに、劇団も主宰する戸田彬弘監督が、津田寛治さんと駒井蓮さんを主演に迎えて撮リ上げた映画『名前』が、6月30日(土)より公開中。
前編に続き、津田さんのSWAMP(スワンプ)単独インタビューをお届けします。津田さんの語る役者論を、たっぷりとお楽しみください。
「若い人たちの引っ掛かりっていうのは、何か全く違う歴史が始まる可能性をはらんでいたりするんです」
――『名前』の戸田彬弘監督は、映画監督であると同時に劇作家でもいらっしゃいます。最近は映画や演劇といった枠にはまらずに活躍されている方も多いですが、津田さんご自身はどのようなスタンスで臨まれていますか?
津田:そうですねぇ。舞台はねぇ……断っていますね(笑)。
――えぇ!? 本当ですか?
津田:あははは(笑)。
――やっぱり映画と舞台は違いますか?
津田:舞台が決してどうの、っていうわけではないんですけれど、ただ僕、外で仕事をするのが好きなんですよね。
――ロケーションが、ということですか?
津田:そうです。だから「稽古場から劇場に行って、夜は飲み屋」みたいな、そういうのがちょっと苦手で(笑)。
――同じところに一定期間ずっと一緒に居るのが苦手ということですか。
津田:そうですねぇ。地方のいろんな場所に行ったりとか、青空の下で仕事をするのが昔から好き、というのがありまして。
――なるほど~。
津田:それと、同じ芝居を何回も演じるのがちょっと苦手、というのもありますね。舞台はショーなので、お客さんが(舞台を)正面から観ているけど、映画の場合は、お客さんが神の視点というか、僕らが一生懸命やっているのを俯瞰で観ている感じがして好きなんですよね。
――へぇ~! 面白いですね。津田さんの中では、舞台と映画は全然違うんですね。
津田:そうですね、僕の中では。
――ちなみに、TVのドラマはどういった位置付けですか?
津田:現場を見ていると、「違うなぁ」と思うときはありますね。TVの現場はどうしても日常生活の中でのお仕事なので、スタッフさんも、まず何よりも自分が仕事をしやすい環境作りをちゃんとやるじゃないですか。でも、映画の場合だと「もうこれ、一生に一回しかない!」っていう、一期一会みたいなところがあるので、自分の仕事のしやすさよりも「作品のために自分を捧げる」みたいな感じで仕事をやっているスタッフさんが多いですね。
――それは予算規模に限らず、「作品に対しての向き合い方」のようなイメージですか?
津田:そうですね。「よし! この話が来たからやるぞ!!」みたいなものが、やっぱり映画にはありますよね。でもTVだと、日常のお仕事としてやっていく感じが多いですかね。
――となると、津田さんご自身が最優先したいのは映画ですか?
津田:やっぱり映画は面白いですね。TVだと、どの作品もある程度は現場のやり方が同じなんですけれど、映画ってやっぱり、監督が変わるとやり方も変わったりするので。
――津田さんはご自身でも監督をされていますが、さまざまな監督のもとで俳優としてお仕事をされていく中で見えてくるものは、やはり現場ごとに違いがあったりするものですか?
津田:違いますね。なんて言うのかな、「え!? そんなことで引っかかるんだ!」っていうようなことが、自主映画の現場では多かったりもするんですけれど、でも、そこから素晴らしいものが生まれたりするのも目の当たりにしているので、何事も「慣れればいい」ものでもないなとは、やっぱり思いますね。
――「そんなことに引っかかる」というのは、「自分だったら、とっくに解決しているぞ」みたいなことですか?
津田:う~ん、なんだろう。あんまり上手く言えないけど……靴下の色とか。
――「靴下の色」ですか?
津田:例えば、靴下の色に衣装さんがすごくこだわっていて、日替わりで靴下を変えてくれるんだけど、「それ、多分映ってないよ(笑)」って言っても、「それが私のこだわりなんです!」って仰って(笑)。
――なるほど(笑)。
津田:なんか僕は、一見些細なことでも、「いや、映らないから!」って言うより、その子のその世界観を大事にしたいなって、思ったりするところもある(笑)。
――あえて見守る、みたいな。
津田:そう、あえて見守る(笑)。やっぱり監督でもカメラでも何でもそうなんですが、最初はとにかく効率が悪いんですよね。その都度いちいち何かに引っ掛かっている。
でも逆に言えば、スムーズに進みすぎると、どこかルーティンみたいになってしまって、同じようなものしか生まれてこないんだけど、若い人たちの引っ掛かりっていうのは、何か全く違う歴史が始まる可能性をはらんでいたりするんですよね。だからそこは、大事に注目したいなとは思います。
――とはいえ、時には先輩の立場から助言することもあったりしますか?
津田:う~ん。そういうのは、ほぼ無いです。どちらかというと「一緒に作っていく」っていう感じですかね。
――津田さんが、どのようにいろいろな現場に関わられているのか非常に興味があったので、いまのお話を伺ってとても理解が深まりました。