
日本でリメイクされたら、おにぎり職人⁈
――『彼が愛したケーキ職人』は、オフィル・ラウル・グレイツァ監督のデビュー作だそうですね。そもそもグレイツァ監督がプロデューサーであるタミールさんのところに脚本を持ち込んだことが、映画化のきっかけだったとお聞きしました。当時まったくの無名だった新人監督の脚本を前に、プロデューサーとしての直感はすぐに働きましたか?
タミール:脚本を読むなり「これは絶対に成功する!」と直感しました。たとえメインストリームには成り得なくとも、多くの人に共演してもらえる映画に成ると感じたんです。あらゆるセクシュアリティに共通する愛の物語であると同時に、ケーキやパンといった食べ物の物語でもある。つまりみんなが好きな要素が含まれているので「これならいける!」と思えたんです。でも、そのあとなかなか出資者が集まらなかったこともあり「あれ? いける! と思ったのは僕だけ?」と、不安になったこともありました(笑)。
――資金集めが難航した理由は、どのあたりにあると思われましたか?
タミール:とある出資者からは「ゲイの男性が女性を愛せるわけがない」と言われたんです。ですが、得てして出資できない人は出資できない理由を探すものだから、もしかしたら無理やり理由を後付けしたのかもしれません。だから「No」と言われたら、そんな理由は気にせず放っておいて、さっさと次の出資先にあたるべきだと思います。正面玄関から入れないのなら、窓から入ればいいのです(笑)。
――ははは(笑)。まさにプロデューサー的な発想ですね!
タミール:イスラエル人特有の考え方かもしれません(笑)。
——グレイツァ監督は、ご自身でレシピ本を出版されるほど料理が得意だそうですね。プレス資料によれば、監督はこの映画について「人生とフードとシネマに捧げた人間賛歌である」とコメントされています。プロデューサーであるタミールさんは、ケーキや料理は本作においてどのような役割を果たしていると思われますか。
タミール:私自身は、この作品における重要なポイントは、実はお菓子ではなくパンにあると考えています。映画の中にも、アナトがトーマスの作ったパンを食べて「美味しい」と言うシーンが登場しますが、パンというのはお菓子と違って生きるために必要なものなのです。だからもし日本でこの映画のリメイク版を作るとするなら、お米がモチーフの映画になるんじゃないでしょうか(笑)。
——でも、生地を一緒にこねるシーンが重要な作品でもありますよね?
タミール:それなら、おにぎりがいいんじゃない?
——あ、確かに! それはいいアイデアですね(笑)。誰かと一緒におにぎりを作ったら、愛が芽生えるかもしれません(笑)。