大杉漣さん起用のきっかけと全国公開

 

——そもそも監督が「グリーン・ハウス」をテーマに映画を撮りたいと思われた理由はなんだったのでしょうか?

 

佐藤監督:2017年の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」がきっかけです。事務局から「『グリーン・ハウス』にまつわる証言映像を作って欲しい」という依頼を受けたんです。最初は20分位の短編にする予定だったのですが、取材を重ねるうちにとてもその長さでは収まりきらなくなって、勝手に長編にしてしまったんです。

 

——製作期間はどれくらいだったんですか?

 

佐藤監督:実質2か月半くらいですね。

 

——『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(岡田芳郎著/講談社文庫)は読まれていたんですか?※1

 

 

※1:「グリーン・ハウス」の支配人を務めた佐藤久一氏の人生を追いかけた一冊。映画の中でも佐藤氏のエピソードや映画愛あふれる生き様が描かれている。

 

佐藤監督:以前から読んではいたのですが、映画を撮る前に改めてじっくり読み直しました。事実関係について著者の岡田さんからアドバイスをいただいたり、写真をお借りしたり。資料を集めて取材を進めるうちに、だんだん欲が出てきてナレーションを入れることにしたんです。

 

——ナレーションを大杉漣さんにお願いした経緯とは?

 

佐藤監督:実は大杉さんとはもともと面識があったんです。当時高校生だった歳下の友人から「大杉漣主演で映画を撮るから手伝って」と誘われたことがありまして(笑)。

 

——え!? その企画は実現したんですか?

 

佐藤監督:はい。『黒いカナリア』という短編映画になりました。大杉さんは以前「グリーン・ハウス」にまつわるラジオドラマに出演されていたこともあり、「きっと断られないだろうな、フフフ」などと不届きにも大杉さん宛に手紙を書いたところ、即座にOKをいただけたんです。映画祭で上映したあと山形の「酒田市港座」という映画館で「大杉漣BAND」のライブと合わせて『世界一と言われた映画館』を上映するイベントが実施されたのですが、その企画は大杉さんの発案なんです。

 

ちょうど『ぐるぐるナインティナイン』というTV番組の「グルメチキンレース ゴチになります!」というコーナーで、大杉さんが2週連続ピタリ賞を出されたタイミングで賞金がでたんです。「これ使おうよ」って、自腹でバンドメンバーを連れて来てくださったんです。それで映画の上映とトークショーまで開いてくださいました。ほとんど大杉さんの善意で完成したような映画なんです。

 

——それだけ大杉さんにとっても思い入れがある映画だったんでしょうね。

 

佐藤監督:以前から酒田に何度か来られていたみたいで。「いつか港座でライブをしたい」と思っていらしたらしいんです。それで「ゴチになります!」の賞金200万円を(笑)。

 

——まさに運命ですね。そんな大杉さんの思いもあり、いよいよ全国公開を迎えたわけですが、今の心境はいかがですか?

 

佐藤監督:もともとは映画祭のみの上映予定だったんです。でも「せっかくなら劇場上映したいよね」と話していた矢先に、大杉さんが亡くなってしまって。「これはもう、上映しないわけにいかない」という流れになり、現在に至ります。

 

 

■次ページ:「グリーン・ハウス」とドキュメンタリー映画の良さ

 

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