「あくまでマリア・カラス自身が望んでいたと思われる形で、彼女の真実を世の中に知らしめたい」

 

ーー本作にはマリア・カラス本人の肉声コメントも出てくるのですが、女優のファニー・アルダンさんによる手紙の朗読部分も、カラス本人なのではないかと錯覚しながら拝見していました。おそらく過去にアルダンが映画や舞台でマリア・カラス役を演じたからという経緯があったからだとは思うのですが、改めて彼女を起用した理由と、実際に収録してみて監督がどのようなことを感じたのか教えていただけますか?

 

監督:もちろん、ファニー・アルダンがマリア・カラス役を演じた映画『永遠のマリア・カラス』も舞台『マスター・クラス』も観ています。ですが、いずれの作品も事実にインスピレーションを得ているとはいえ、あくまでフィクションですよね。そういった意味では今回初めて「リアルなマリア・カラスをファニー・アルダンが演じた」とも言えるわけです。実はアルダンが手紙を朗読する際のレコーディングで、私はものすごく深い経験をしたんです。

 

先程あなたがおっしゃったように、映画の中にはファニー・アルダンとマリア・カラスの2人の声が共存しているわけですが、私自身も途中から1つの声だけになっていると感じていました。彼女はただ単に朗読しているだけではなく、カラスの言葉に込められた魂のようなものと共鳴して、リアルな存在になったのです。まさに、音楽や作曲家のために自分の才能を使って仕えたマリア・カラスと同じように、ファニー・アルダンの才能は、マリア・カラスに仕えるために備わったものではないかと思えるほどでした。

 

——それは素晴らしい発見ですね。ちなみに、今回新たに発見された膨大な素材の中から、監督ご自身が使いたいと思った素材は全て使うことが出来たのでしょうか。

 

 

監督:もちろん全部は入れることができないので、泣く泣くカットした素材もあります。さもないと40時間の映画になってしまいますからね(笑)。私は約半年間、編集室にこもって彼女の物語を紡いでいったのですが、そこで私がしたことといえば、本質的なところだけを集めてそうでない部分は取り除くという作業でした。選りすぐった素材の中でもベストなものだけを集めて、ストーリーを組み立てていったんです。

 

確かに「本邦初公開」という触れ込みは、この作品にとって大きなウリの1つではあると思うのですが、マリア・カラスのファンやコレクターではない人にとっては、集めた素材を陳列されただけでは、あまり興味を惹かれないですよね。とはいえ、映画の中にはこれまで未公開だった素材も沢山含まれているので、きっと「マリア・カラスのことならすべて分かっている」というファンの方々にとっても、非常にエキサイティングなものに仕上がっていると思います。

 

——つまり、使いたくても使用許可が下りなかったものはなかった、ということですね?

 

監督:はい。おかげ様で(笑)。

 

——さぞや交渉が大変だったでしょうね。

 

監督:何百もの素材の許諾を1つ1つ取る作業は、非常に骨が折れました。とはいえ、この映画の制作に掛かっていた5年間、人生のすべてが困難だったのですが(笑)。

 

——それは朝から晩まで?

 

監督:いいえ、夜中も含めて全てです(笑)。

 

——ははは(笑)。

 

監督:編集期間中は平日も土日も一切関係なく、夜も編集室で仮眠しながら編集作業を続けていました。こういった作品を作るには、半年間という期間はすごく短いんです。実は私は14年前に富士山に登ったことがあるのですが、作業しながらその時の辛さをよく思い出していたんです(笑)。とにかく1歩1歩前に進むこと自体が大変でした。

 

たとえば「映像はあるけれども音が入っていない」といったケースも多く、1本の映画としてスムーズに繋いでいく作業にとても苦労したんです。先程「ドキュメンタリーを作る手法にはいろいろある」とおっしゃいましたが、おそらく今回私が選んだ手法は、どれよりも大変な方法だったのではないかという気がしています(笑)。

 

 

——今まで誰も知り得なかった情報や素材を手に入れられたということは、ほかの人とは異なるアプローチの仕方であったり、ずば抜けた意志の強さなども必要だったのではないかと思います。ずばり、監督が信頼を得られた秘訣はどこにあると思われますか?

 

監督:私が「マリア・カラスに仕えるような映画を作りたい」と思っていることを、周りの方々が理解してくださったからではないかと思っています。「監督をすることで有名になりたい」といったようなエゴイスティックな理由からではなく、「あくまでマリア・カラス自身が望んでいたと思われる形で、彼女の真実を世の中に知らしめたいのだ」ということを分かってもらえたからではないでしょうか。おそらく、私自身の正直さやこのプロジェクトに対する真摯さのようなものが、相手に伝わったからではないかと思っています。

 


 

ロシア・サンクトペテルブルグ生まれでフランス育ちというトム・ヴォルフ監督。取材後小耳に挟んだ情報によれば、監督含め、ご家族そろってハーバード大学の医学部卒で、ご両親はお医者さんなのだとか。「オペラは歌いません」と否定されていましたが、過去には歌手としてポップな楽曲をリリースされていたことも判明。ジャンルは違えど「ミュージシャンであることには変わりがない!」ということがわかり、嬉しくなりました。

 

取材・文:渡邊玲子

写真:加藤真大

『私は、マリア・カラス』概要

 

私は、マリア・カラス

 

12/21(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

配給:ギャガ

 

公式サイト:https://gaga.ne.jp/maria-callas/

 

 

© 2017 - Eléphant Doc - Petit Dragon - Unbeldi Productions - France 3 Cinéma

 

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