
日本人なら誰もがその存在を知る岡本太郎さんが手がけたアート作品・太陽の塔。1970年に開催された日本万国博覧会(通称・大阪万博)の象徴であり、現在も会場跡地に作られた万博記念公園にて、その勇姿を見ることができます。その圧倒的な存在感は、「見る」というよりも「見られている」と言った方がいいかもしれないスケールですが、太陽の塔がいかにして作られたのか、芸術家・岡本太郎さんのどのような想いが込められているのかーー。知っているようで知らない、そんな太陽の塔をめぐるドキュメンタリー映画、そのものズバリ『太陽の塔』。現在も一部劇場で公開中となっています。
8月17日(金)に新宿シネマカリテにて行われた世界最速上映での関根光才監督舞台挨拶の模様をもとに、本作をご紹介していきます。
黄金の顔と太陽の顔、そして黒い太陽ーー
CMやMV制作を主にしていた関根監督の初長編ドキュメンタリー作品となる『太陽の塔』。本作を監督された経緯に関しては、監督を公募するという異例の条件に対して関根監督が応募したことがきっかけとのこと。さて、皆さんがイメージする太陽の塔は、ムスっとした表情のような上記の写真のものではないでしょうか。ですが、この太陽の塔は表の顔ーーちなみに中央が太陽の顔、頂部が黄金の顔という名称ーーとも呼べるもので、この裏側にもう一面があることをご存知でしょうか。
「黒い太陽」と呼ばれるこちらの表情。現在は万博記念公園の中に入らないと見られないものですが、こちらを関根監督も気になっていたようです。
「裏にある「黒い太陽」ってすごく怖いですよね。何故こんな怖い顔を日本中から家族連れが集まる万博会場に突きつけたんだろうと、岡本太郎さんの込めたメッセージが気になっていたんです。太陽の塔がどうして作られたのかは調べればわかることなのですが、僕はそれを超えて、岡本太郎さんが込めたメッセージは現代にも通じると思っているんです。(太陽の塔は)日本人とアート、現代社会との関係性ということ全体への問いかけをしている。その考察をもとに映画を作りました」
本作は太陽の塔制作に関わった方はもちろん、岡本太郎さんを知らない世代も合わせて全29組の方へのインタビューをつなぎ合わせて構成されています。岡本さんのイメージといえば「芸術は爆発だ!」に代表されるように晩年のぶっ飛んだタレントというイメージが強いですが、実際には非常に博学だった方。人文学に関する知識からの言及や、表現という魂の根底でつながるダンサーやアーティストも登場し、関係者の内輪だけではなく開かれたものとして多角的に岡本太郎という人、そして太陽の塔というアートに対する追求が行われているのです。
本作で描かれた内容に関して関根監督は「岡本太郎さんという偉大な人の作品を映画化するとき、アートなので解釈は100万通りあるじゃないですか。ご本人も亡くなっているので直接聞くこともできないですが、(太陽の塔内部にある「生命の樹」に関わられており映画にも登場する)千葉一彦さんから『これは岡本太郎さんが言いたかったことだ』とおっしゃっていただいてありがたかったです」とコメント。
「ナレーションが本作にはないのですが、自分で考えた台本のストーリーラインに乗せてしまっては、自分という枠をこえていかないと思ったんです。お話を聞かせていただいて、『ドラゴンボール』でいうところの元気玉のようにそれぞれの言葉で語っていただくことで、説得力とか厚みが出るのではないかと思いチャレンジしたんです」と言及されました。
「今の時代を生きることの難しさに対する、1つの指標としても作っています」と語る関根監督。何十年前からメッセージをアイコンとして発信していた岡本太郎さんのような存在は現代にはなかなか存在しませんが、本作を観ることでそのパワーを感じることができます。
実は、もともと岡本太郎さんに対してすごく思い入れがあったわけではないという関根監督。「岡本太郎は言葉の人だと思っているんですが、彼が考えていたことを紐解いてから(作品を)見ると見え方が変わるんです。映画を作るので第三者的に冷静に見ていたのに、どんどん気持ちがシンクロしていって駆り立てられるんですよね。そういうパワーがあると思っていますし、日本人とアートの距離感が遠い中、映画を観ることでその距離が近くなるといいなと思っていますし、岡本さんも芸術や表現は生活の一部であるというお話をずっとされていたので、映画の中でも主題となっています。普段の生活の中で無くしかけているものを取り戻せるきっかけが生まれるといいなと思います」と最後に語られました。
太陽の塔を当時万博会場で見た人はもちろん、岡本太郎も太陽の塔も知らない若い人が観ても、今の時代を生きていくヒントをきっと得られる作品です。ぜひアートに対峙した時に人が放つ生命の輝きを、劇場で体感してみてください。
『太陽の塔』概要
監督:関根光才 撮影:上野千蔵 照明:西田まさちお 録音:清水天務仁 編集:本田吉孝 本編集:木村仁 音響効果:笠松広司 音楽:JEMAPUR
製作:映画『太陽の塔』製作委員会(パルコ、スプーン、岡本太郎記念現代芸術振興財団、NHKエデュケーショナル)
企画:パルコ 制作:スプーン 助成: 文化庁文化芸術振興補助金 独立行政法人日本芸術文化振興会(映画創造活動支援事業)
2018/日本/日本語・英語・チベット語/112 分/シネスコ/5.1ch 配給:パルコ
公式サイト:http://taiyo-no-to-movie.jp/
©2018 映画『太陽の塔』製作委員会