
ニューヨーク・タイムズ紙ベスト10ブックなど多くの賞を受賞し、世界24か国語に翻訳され大ベストセラーとなったノンフィクション「FAR FROM THE TREE」を原作にしたドキュメンタリー映画『いろとりどりの親子』が、11月17日(土)より全国順次公開されます。
「FAR FROM THE TREE」は、作家のアンドリュー・ソロモンさんが、自閉症やダウン症、低身長症、LGBTなど親とは「違う」性質を抱えた子を持つ300組以上の親子に10年をかけて取材を行い、家族の本質に迫った意欲作。その本に深い感銘を受けた、社会派ドキュメンタリーの制作に定評のあるレイチェル・ドレッツィン監督が、新たに取材を行い映画化したのが『いろとりどりの親子』なんです。
さまざまな違いを受け入れ、互いにどう愛するかを学んでいく6組の親子の姿を映しながら、人々の尊厳と幸せに光をあてた本作は、真の多様性とは何かを観る者につきつけます。
去る11月7日(水)、映画の公開に先立ちレイチェル・ドレッツィン監督が来日。衆議院第一議員会館にて、超党派の国会議員や一般公募の方に向けた特別試写会が実施され、多様性に対する日米の考え方の違いや日本社会の現状について、国会議員とドレッツィン監督が意見を交わす場が設けられました。

▲イベントには監督・通訳の方、衆議院議員の野田聖子氏、馳浩氏(会の途中より参加)、高木美智代氏、畑野君枝氏、尾辻かな子氏が登壇。
このたびSWAMP(スワンプ)では、イベント登壇後のレイチェル・ドレッツィン監督を直撃。本作が製作された背景や、撮影時のエピソードについてお話を伺いました。
彼らの「愛」は得るのが困難であったからこそ、より一層強くて深いマジカルなものになったのだと思うんです
——まずは本作で、ドレッツィン監督とともに共同プロデューサーも務められたアンドリュー・ソロモンさんの著書を映画化したいと思った理由を教えていただけますか?
レイチェル・ドレッツィン監督(以下、監督):この本が非常にラジカルな観点で書かれているところにとても魅力を感じました。原作には、自閉症をはじめダウン症や統合失調症の方も登場しますが、普段私が彼らを外側から見ているときに想像していることと、実際に彼らが内側から見ている世界の違いにハッとさせられたんです。
もう一つ理由を挙げるなら、この本には「愛」が描かれていると感じたからです。愛にはさまざまな形がありますが、彼らの「愛」は得るのが困難であったからこそ、より一層強くて深いマジカルなものになったのだと思うんです。そこに非常に感銘を受け、映画化したいと考えるようになりました。
——ダウン症のジェイソン・キングスレーさんと母のエミリーさん以外は、映画のために新たに取材されたそうですね。
監督:原作はアンドリューが10年かけて取材をして書き上げた物語であり、本が出版されてから映画化に至るまで、さらに時間がかかっています。となると、当然そこに登場する家族の物語の多くは、既に完結しているとも言えるわけです。それよりも今まさに目の前で起きている物語を映画にしたいと思い、新たに取材を行うことにしました。
——8歳の少年を殺害したとされる加害者の両親や兄妹が出演していることに、非常に衝撃を受けました。日本では極めて考えにくい状況です。
監督:もちろん説得には時間がかかりました。彼らも最初は「自分たちがいくら発言しても、世の中の人たちの考え方は変わらない」と諦めていたはずです。でも最終的に彼らが取材を受け入れて、出演を了承してくれた理由は「世界にはきっと自分たちと同じように罪を犯してしまった子どもを持つ親や兄妹が沢山いて、中には自分たちの言葉を聞きたいと思っている人もいる」と考えたからではないかと思うんです。
映画の中に、自閉症のジャック・オルナットさんの母エイミーさんと、加害者の母であるリサさんが「子育ての仕方や妊娠中の行動に、何か原因があったのではないか」と自責の念に駆られているシーンが出てきましたよね。映画に登場する6組の家族のうち2人の母親が同じことを口にする、という事実をカメラに収めることが非常に重要なのではないかと私は考えました。いわばこの問題は、すべての親が我が身に突き付ける問いでもあると思うんです。
かつてアメリカでは、自閉症の子どもたちの母親に対して「親がしっかりと愛情を与えなかったから、子どもが自閉症になったのだ」と責める風潮がありました。子どもが重大な犯罪を犯した場合、社会は「親の育て方に何らかの原因があるのではないか」とレッテルを貼りがちです。犯罪学的にはいまだ解明はされていないけれども、実際には子育てが原因でないことも多いと思うんです。突然、子どもが罪を犯してしまうことがあるのだということを、この映画を観ればきっと理解していただけると思います。