2015年に発表されたオリジナル人形アニメーション『ちえりとチェリー』(併映:『チェブラーシカ 動物園へ行く』)は、父親を亡くした少女・ちえりと、唯一の友だちであるぬいぐるみのチェリーが織りなす物語。桜舞い命の輪廻が繰り返されていくこの世の中で、少女が1歩を踏み出して成長していく様を描いた傑作です。

 

この度2月15日(金)より本作が全国公開されるタイミングで、SWAMP(スワンプ)では中村誠監督に単独インタビュー! 2010年に公開された世界的人気を誇る人形アニメーション『劇場版 チェブラーシカ』を手がけられたほか、数多くのドラマCDTV・劇場アニメの脚本も担当されるなど多彩な経歴を持つ中村監督に、作品をともに手がけた出崎統作品の思い出や影響、そしてもの作りの根底にある想いを伺いました。

中村監督と出崎監督の物語への向き合い方

 

ーー僕はKey作品のファンでして、「電撃G's magazine」編集部在籍中もビジュアルアーツ作品に関わっていたんですが、中村監督のお名前は出崎統監督の劇場版『AIR』『CLANNAD』の脚本で覚えさせて頂いたんです。

 

中村:そうなんですね(笑)。

 

ーーそんなKey作品で名前を覚えた方が、人形アニメーション『劇場版 チェブラーシカ』の監督に抜擢されたことが驚きでした。その経緯をお聞きできればと。

 

中村:当時のプロデューサーからの指名だったのですが、『劇場版 チェブラーシカ』は人形アニメーションで制作に何年も時間がかかると予想されたので、外部のディレクターとやるよりも社内の人間にやらせたほうがよかろう、ということだったのかなと

 

※中村監督は『劇場版 チェブラーシカ』や『ちえりとチェリー』製作・配給のフロンティアワークスに所属している。

 

 

ーー2010年に公開された『劇場版 チェブラーシカ』と今回『ちえりとチェリー』と併映される『チェブラーシカ 動物園へ行く』も拝見していますが、『チェブラーシカ 動物園へ行く』の方がテンポが早く、チェブラーシカの動きもスピーディーでコミカルですよね。『ちえりとチェリー』も日常芝居からダイナミックなアクションがあり、人形アニメーションのさまざまな魅力を楽しめる構成になっていると思います。

 

 

中村:人形アニメーションの魅力というと、実際に人形が存在しているので役者に演技指導をするのと同じ感覚で演出できるんです。いわゆる(手描きの)セルアニメーションだったらカメラ位置やレイアウトも決め込んでいかないといけないので、あとから修正するのは大変なんですが、人形アニメーションの場合は3DCGに近く、背景がセットで組まれて人形も実際にいるので、俳優さんと同じように「とりあえずそこに立ってみて」という感じに立たせて、カメラを覗いて調整していくことがリアルタイムに行える。

 

レンズの絞りも実際にその場で動かせるので「このシーンはこういう芝居をさせてください」というのをアニメーターさんに頼んで作っていくことができて、そこがほかのアニメーションとは違う魅力だと思いますね。

 

 

ーーたしかに中村監督の人形アニメーションはレンズの使い方や、『劇場版 チェブラーシカ』にて奇術師が頭上に投げた球がフレームアウトして、落ちてフレームインしたら球の大きさが変わっているような画角の使い方も印象的でした。アニメーションの魅力はもちろんのこと、映画ならではのフレームワークの魅力の両方が感じられるのですが、どちらかというとカメラを通して映るものを、どう描いていくのかが中村監督の中心にあるのでしょうか?

 

中村:そうかもしれないですね。奇術師のカットは、ロシア側スタッフに描いてもらった絵コンテを修正して、滞在先のホテルにあったペーパーに絵コンテを描いて撮ったんです。具体的にどう考えてあのカットを作ったのかは、あんまり覚えていないんですけど(笑)。

 

ーーものすごくフレキシブルな修正ですね!

 

 

中村:確かにフレームの使い方は意識していると思います。アニメーションではないですけれど、黒澤明監督などの古い日本映画や白黒のアメリカ映画が昔から好きで、学生時代からどういうふうにフレームを使っているか絵コンテ本とかを買っていましたね。あとは晩年の出崎さんとご一緒させていただいて、出崎さんの絵コンテや「ここはこういう風に光を飛ばそうよ」というようなフレームの使い方を直に見ることが出来たので、けっこう意識していると思いますね。

 

ーー出崎作品と言えば光の使い方が印象的ですし、出崎さんの絵コンテは描きたいことがほとばしっていると言いますか、「こういうのを描きたいんだ!」という情熱が現れていると感じます。

 

中村:「作りたいものを作ろう」という情熱みたいなものとか、「このセリフは何を意味しているの?」とか、そういう作り方はすごく影響を受けていますね。出崎さんは脚本に対して「この行はおかしいよ」とか言う方ではなくて、すごく大きなハコで「この話っていうのは、こういう物語だよね」と端的に言うんです。だから「これってこういう話なんだから、このホン(脚本)ってちょっと違うんじゃない?」と言われたことに合わせて(脚本を)書き換えていくんです。

 

そういう物語への向き合い方の影響は受けていますが、作劇テクニックに関しては出崎さんは天才だしセンスの方なので、どうやっても真似できない。なので、僕はもっとロジカルに作っています。

 

ーー物語への向き合い方ですか。出崎さんの作品を観ていても、たとえば「ジョーというのはこういう奴だった」とか「シルバーは自分にとってもああいう存在だった」と感じますし、作り手と観ている人がその何かを共有できるような気がします。ちなみに、中村監督が好きな出崎作品はどの作品になるのでしょうか?

 

中村:一番好きな出崎作品は何だろう……。僕の中ですごく刺さったのは、宗方コーチが死ぬまでと、その死を乗り越えて岡ひろみがお蝶夫人と戦っていくまでが描かれるOVAの『エースをねらえ!2』かな。

 

ーー『エースをねらえ! 劇場版』ではなく『エースをねらえ!2』なんですね。

 

中村:杉野さんの絵も綺麗だったし、(シリーズでは)『エースをねらえ! 劇場版』をあげる人が多いと思うんですけれど、僕は『エースをねらえ!2』ですね。『ゴルゴ13 劇場版』も好きですよ。原作の『ゴルゴ13』も好きですが、出崎さんの描いたゴルゴに会えたことに感謝したいっていう気持ちになります(笑)。

 

ーー凄まじくエロティックでもあり、終盤はゴルゴがなんと言いますか超常現象みたいになっているじゃないですか。あとものすごく細かいのですが、『ゴルゴ13 劇場版』のあのCGについては……?※。

 

※出崎作品のファンの間で長年論点となっている、クライマックスのヘリコプターのCGシーン。1983年の公開当時のCG技術で描かれているため、時が経ってから振り返るとどうしても稚拙に見えてしまうのだ。

 

中村:まあ、時代だしなぁって思いますよ(笑)

 

ーー僕が勝手に想像しているのは「CGっていうものですごい表現ができそうだ」っていう気持ちで、当時の出崎さんがそれも表現方法の1つだということでやってみたんじゃないかと。

 

中村:出崎さんはそういう人でしたよ。V編で「こういうデジタルの処理ができます」と知ると、それを徹底的に使いたいっていう人だったので。「CGだったらこんなことをしてみよう」と考えたんじゃないかなと。

 

ーーでないと入らないよなと思うんです。ちなみに僕は『宝島』や『あしたのジョー2』がベストですね。

 

中村:『あしたのジョー』とか『宝島』は番外と言うか、(ファンなら)当たり前みたいな作品ですね(笑)。

 

ーー辛いことがあったら『宝島』最終回を観て、「俺のシルバー」に会いにいくという人生です(笑)。『あしたのジョー2』は僕の中のコアにあって、「男の生き様」や「青春」とはこういうことだと刻まれています。

 

 

■次ページ:中村監督のもの作りの根底にあるもの

 

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