
講談社青い鳥文庫の人気作『若おかみは小学生!』シリーズを『茄子 アンダルシアの夏』を手がけた高坂希太郎監督が劇場アニメ化。2018年4月より放送されているTV版とは異なるオリジナルストーリーが展開します。
両親を事故で失った主人公の女の子・おっこは、おばあちゃんが女将を勤める花の湯温泉の旅館「春の屋」で、若おかみとなるべく修業をスタート。「春の屋」に住み着いたユーレイ少年のウリ坊やお客との出会いを通じて、おっこは多くの経験をしていきます。
SWAMP(スワンプ)では、スタジオジブリ作品のキーマンとしても活躍された高坂監督に、15年ぶりに劇場公開作品を監督された理由や、劇中のキャラクターと宮崎駿さんとの意外な共通点などを伺いました!
「挑戦」として引き受けた監督のお仕事
ーー高坂監督のイメージといえば、スタジオジブリ作品とマッドハウスでの『茄子』シリーズや浦沢直樹作品でした※1。そんな高坂監督が久しぶりに監督をされたのが『若おかみは小学生!』ということで。
※1高坂さんは『もののけ姫』『風立ちぬ』などの作画監督、『YAWARA! a fashionable judo girl!』『MASTERキートン』など浦沢直樹原作アニメのキャラクターデザインを歴任。監督代表作の『茄子 アンダルシアの夏』はマッドハウス制作で、高坂さんご自身もアニメ業界有数の自転車乗りとして有名だ。
高坂:意外ですよね(笑)。
ーー意外でもあり納得もできる絶妙な内容でした。ご自身のキャリアの中では、挑戦の位置付けになるのでしょうか。
高坂:はい、挑戦ですね。これまでは自分のやりたい作品を選んでやってきたのですが、最初に本作の原作を紹介された時、ちょっと抵抗感があったんです。はじめはTVシリーズの企画段階の絵を描いて欲しいと友人に頼まれたので引き受けましたが、他所から来ていた仕事だったら断っていたと思います。ですが、実際に絵を描く前に原作を読んでみたら、すごく巧みに描かれていて面白かった。そのあと劇場作品を作ることになり監督のお話を頂いたのですが、久しぶりに監督をやってみたいと思っていたこともあって、引き受けたという流れですね。
ーーということは、アニメーターとしてではなく、監督の仕事として引き受けたかったわけですね。
高坂:そうですね。作画監督や原画などの役職をやっていく中で、いろいろと思うところがあったんです。そこで久しぶりに監督をやってみるというのも面白いと思って。
ーー本作は全20巻ある原作のエピソードを巧みに構成して、映画として主人公のおっこが「若おかみ」になるまでの成長を、しっかりと軸を持って描かれていました。プロットは高坂監督が手がけられたとお聞きしましたが、脚本の吉田玲子さんとは具体的にどのようなやり取りをなされたんでしょうか?
高坂:プロットはそこそこ具体的に書いていましたし原作もあったので、そのままコンテに入ろうと思っていたのですが、前作の『茄子 スーツケースの渡り鳥』で時間がかかりすぎて失敗しているからいったん脚本家にお願いしようということで、マッドハウスのプロデューサーの豊田智紀さんが吉田さんを起用してくれて、一緒にやることになったんです。やっぱりそれでよかったですね。僕のアイデアだけでなく、吉田さんのアイデアも入って膨らみましたし、うまく話がまとまって見やすくなっているのは吉田さんのおかげだと思います。
ーー最初に「春の屋」に来たおっこが虫を怖がっていましたが、物語の後半ではトカゲを普通につかめるようになっている、というのは原作にはなかった要素ですよね。
高坂:そこはおっこの変化を表現する一つのアイデアですね。
ーーその環境での成長がはっきりとわかる素晴らしいシーンでした。DLEとマッドハウスの共同制作がクレジットされていますが、監督はマッドハウスで作業されていたんですよね。制作期間はどれくらいだったのでしょうか。
高坂:作業場はマッドハウスで、実作業は豊田プロデューサーと一緒に進めていました。プロットの期間も含めると、3年3ヶ月です。
ーーそれだけじっくりと本作に向き合われていたのですね。
高坂:仕方なく(苦笑)。もう少し早くできればよかったんですけれど、マッドハウスには付き合って頂いて感謝しています。
ーーキャストに目を向けると、『茄子 スーツケースの渡り鳥』にも出演されている山寺宏一さんが、本作でも物語の中で重要な役どころを演じられていますよね。
高坂:スケジュールも押し迫ってくる中、音響監督の三間雅文さんが山寺さんを引っ張ってきてくださって起用が決まりました。『茄子』のことを覚えていますかと尋ねましたら、『覚えています』とのことで嬉しかったです(笑)
ーー山寺さん演じる春の屋の客人・木瀬文太は、絶妙な演技が求められる登場人物ですよね。
高坂:けっこう複雑じゃないですか。最初に山寺さんからどういうキャラクターなのかと聞かれた際に、文太の職業はトラックの運転手で、取り変えがきくような存在であり、ある面人間扱いされていない境遇だと伝えました。実際に料理が美味しかったから喜んだというよりは、ここまで自分のために何かをしてくれたことに感動した文太がいるんです、ということから見事に演じていただきました。
ーーアニメファン的には真月役の水樹奈々さんや、おばあちゃん役の一龍斎春水(旧芸名・麻上洋子)さんも外せないなと。
高坂:僕も『宇宙戦艦ヤマト』ファンだったので、(森雪を演じていた)麻上さんとご一緒できたのは嬉しかったですね(笑)。真月はおっこと一緒に地元の温泉の歌を唄うシーンを予定していたのですが、尺の関係でどうしても切るしかなくなってしまって。水樹さんの歌声が聴けなくてほんと残念でした。
ーー真月といえば、要所要所でトルストイやジョブスの名言を引用しているのが印象的でした。
高坂:最初は「ジョブス」を「どぶす」、「トルストイ」を「トイストーリー」などと(おっこが返して)ボケる、ダジャレのつもりで入れ込んでいたのですが(苦笑)。結果的に名言だけを活かす形で残しました。フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭で上映したときはそのシーンがウケていたので、面白かったです。