現在公開中のアニメーション映画『ぼくの名前はズッキーニ』。3月3日(土)には、恵比寿ガーデンシネマ(YEBISU GARDEN CINEMA)にて、吹き替え版でズッキーニ役を演じられた峯田和伸さんと、編集者・ライターの門間雄介さんによるトークショーが上映後に開催。

 

峯田さんとカミーユ役を務めた麻生久美子さんとのエピソードや、アニメーションならではの表現で描かれる「子どもたちの視点」のお話など、たっぷりとお届けします!

 

『ぼくの名前はズッキーニ』アニメーションならではの表現と麻生久美子さんとの縁

 

本作が初の声優起用となった峯田さん。「僕、初めてっていうのが、いつもダメなんです。最初に完成披露試写で(吹き替え版を)観た時は、生きた心地がしませんでしたね」と率直な感想を吐露。

 

門間「9歳の少年の役ということで」

 

峯田「僕、40歳ですからね!」

 

会場からも笑いが起き、峯田さんの和やかなトーンでトークショーが進行していきます。

 

峯田「吹き替え版ということで、字幕版とは違うような魅力が出ればというイメージでした」

 

門間「自分なりに声を入れるときに、気持ちを込めるようにしたとおっしゃっていましたよね」

 

峯田「カミーユ役の麻生久美子さんや、(レイモン役の)リリー・フランキーさんだったり、普段から仲が良い方が周りにいて。僕は麻生久美子さんが好きで、好きな気持ちは何があっても変わらないので、いつも思っている気持ちをそのまま伝えようと心がけました」

 

峯田さんと麻生さんは、峯田さんの映画初主演作『アイデン&ティティ』でも恋人役として共演。トークショーでも初めての節目節目に共演されていることが話題となりました。

 

 

監督のクロード・バラスさんと峯田さんによる雑誌での対談時、取材前の喫煙タイムで峯田さんがバラス監督に「僕にとって麻生さんは大切な人なんです」と言っていたエピソードを明かした門間さん。

 

「ナイスキャスティングって言われましたよ」と峯田さん。

 

お気に入りのシーンを尋ねられた峯田さんは、

 

峯田「カミーユが初めて孤児院に来たときのズッキーニの目が、ひと目惚れみたいで、ちっちゃいため息も出ていて、グっと来ました。あと、雪山に行って2人だけで雪の上に倒れて、アニメーションならではの綺麗な表現で空があってリスが居て。実写だと難しいけど、ストップモーションアニメーションならではの独特で幻想的なシーンが、印象に残ってますね」

 

門間「夜空に月か何かが出ていて、美しいシーンなんですよね。ああいう体験を麻生さんとしたことがあるとか?」

 

峯田「そこまではないっすね。あったらですね、結婚してますよ、僕(笑)」

 

場内も思わず笑いに包まれる回答に。

 

 

ストップモーションアニメーションだからこその良さに関して答える峯田さん。

 

峯田「実写だと登場人物は子どもたち、大人たちに分かれちゃうと思うんです。でもこのアニメーションだと子どもたちという設定でも、大人になった僕の子どもっぽい部分が映像化されている風にも見える。抽象的だからこそズッキーニは9歳っていう設定ですけれど、40歳の僕でもいられる様に見えるっていうか」

 

門間「観る人が自分自身を重ねやすいということですよね。監督が来日された時に、実際に撮影に使われた人形もご覧になりましたよね?」

 

峯田「見ました。マグネットで眉毛とかを動かして表情を動かして。面白い人形でした。でも本当に大変ですよね」

 

門間「一人のアニメーターが1日に作れるのが3秒だということです」

 

峯田「大変ですね! それは凄いなぁ!」

 

門間「これは66分の作品ですが、総制作期間が3年かかってるんですね」

 

緻密な作業によって作り上げられた本作に、峯田さんからも感嘆の声が。

 

 

話題は「ズッキーニと峯田さんが似ているのでは?」という点に。

 

峯田「子どものときは、目がもっとパッチリしてましたよ」

 

門間「今でも似ているなという感じがありますよ。元々キャラクターが似ているということやカミーユ役に麻生さんが起用されていることで、気持ちを入れやすかったという部分があったのかもしれないですね」

 

峯田「最初にDVDを頂いてオリジナル版を観たんですが、いわゆる子役の方が上手くしゃべっているというより、普通の子どもが普段の感じでしゃべっているように聞こえたんですね。僕も声優としてのスキルはないので、上手くやろうというのはなかったです。いわゆる声優さんのしゃべり方は意識しないで、気持ちが出せればいいなと思いました。…さっきもこういう話しましたね(笑)」

 

門間「アフレコは、リリー・フランキーさんと麻生さんと並んで行われたわけですよね。普段と違う環境でやってみて分かったことなどありましたか?」

 

峯田「ありますね。やっていて、今のはちょっと声優さんっぽくなってしまったというか」

 

門間「作りすぎてしまったという感覚ですか?」

 

峯田「あんまり棒読みでもダメだし、ズッキーニの顔になっていないと、ちゃんとした台詞が出てこないんですよね。アフレコ前日は(ズッキーニの)表情ばっかり見てて、表情は似せようと思いました」

 

ズッキーニと同じ境遇で、表情も合わせてアフレコを通じてシンクロしていった模様です。

 

 

作品の第一印象を尋ねられた峯田さん。

 

峯田「最初に思ったのは、音ですね。動物が木の実をかじる音とか、風の音とか。やっぱ凄いなと思ったのは、ハエまで飛んでるんですよね。孤児院の庭で子どもたちが遊んでいるときに、ハエまで飛んでるんです。映っていたかは分からないんですが、そこまで細かい音まで聞こえてくる感覚っていうのが、子どもの感覚なのかなと思って。

 

子どもの身長で地面に近いところで遊んでいると、大人には見えない世界が見えたりする。大人になってしまって、当たり前になってしまった音とか、景色とかが、まだ全然当たり前ではない子どもの目線から、そのまま映画の作品になっているなと思って。作品自体の感度が凄く高いので、観ているこっちまで子どもの感覚に戻れるというか」

 

門間「この映画の中の9歳くらいの彼らの世代だと、新鮮に見えているんでしょうね。それを彼らの視点で描けている」

 

峯田「大人に向けたアニメーションかもしれないけれど、作り手は物凄く子ども側の視点。でも子どもには、身に付いていない能力だったり、大人だからこそできる子どもの視点で作っているなと思って、凄いなって」

 

門間「峯田さんって、そういう子ども心みたいなものって、あんまり失われてないですよね」

 

峯田「あははは(笑)仕事柄じゃないですかね。気付かないところから引っ張り出していたら、時間が止まっちゃった」

 

門間「意識的にそういうものを保持していようと思っているわけじゃなく?」

 

峯田「この間のお正月に実家に帰って、中学校の同窓会をやって25年ぶりに同級生に会ったんですよ。25年ってすごいですね。あのときは一緒だったのに、25年も経つと顔は似てるけど中身がまったく違う。でもそんなもんかと思って」

 

門間「でも周りからは『峯田君変わらないね』って言われませんでしたか?」

 

峯田「ああ……言われたんですけど……。だから取り残された感じがしました。2人くらい居たんですよ、顔と中身が一致した人間が。でもみんな違う人間で、ぞっとしましたよ!」

 

門間「40歳で25年も経ったら普通は変わりますよ。でも残っていることは良いことだと思うんです」

 

変わらないものと、変わったからこそ気づけるもの。映画を通じて見えるものがあるのですね。

 

 

改めて話題は、本作のストーリーについて。

 

峯田「けっこうドライなところが好きですね。最後にみんなで写真を撮ってお別れをするところも、ハイタッチくらいなんですよ。普通だったらクサい台詞があってもいいじゃないですか。『じゃあな! 忘れんなよ!』みたいなこと言いそうですもん。ただ車から覗いているだけで、そういうドライなところも子どもっぽくて、こんな感じだったよなぁと思いながら」

 

門間「前の日の晩にズッキーニとシモンが抱き合いますが、グッとエモーションが高まるのは、それくらいですよね。だからこそ観る人が高まるっていうのは、あるかもしれないですよね」

 

峯田「説明いっぱいで分かりやすくっていうのに慣れているんですけど、そうじゃないところで、絵と空気で魅せるっていうのもいいなぁと思いました。(場内から聞こえるお子さんの声を聞いて)コソコソって何か聞こえますね」

 

門間「お子さんですかね」

 

峯田「けっこういらっしゃいますもんね。ま、おちんちん大爆発とか楽しいですよね! 字幕で観るのと自分で声に出して『おちんちん大爆発!』って言うのは威力違いますね! 実際(子どもの頃は)あんなことばっかり言ってましたもん」

 

というところで、トークショーはいったん終了の時刻に。

 

 

関係者の方のはからいで、急きょ峯田さんへの質問コーナーも開催されました。

 

「最近キュンとしたことは?」という質問に対して、

 

峯田「ほっておくと何もないんですよ。なので自分から無理くり作っています。何もないんすよ」

 

 

峯田「たとえば今日も、マネージャーさんに運転してもらってここまで来たんです。恵比寿じゃないですか。助手席に座っていると、土曜日だしいっぱい若い女性も居て。スカートが見えそうな方が2人居て、いいなぁって。…すいません」

 

門間「春らしい日ですからねぇ」

 

峯田「いいなぁと思いました。今年初の20℃超えらしいですよ。そんな日に恵比寿で。いいですよね、晴れてて女性のスカートもふわりとなっていて。いやぁ、今日は生きていてよかった。無事に良い一日になったなとなれば御の字ですよね!」

 

そして、麻生さんとやってみたいお仕事について尋ねられると、

 

峯田「もうあれだけ彼女と仕事ができて十分なんです。僕、本当に麻生さんと縁があるんですよ。バンドやり始めた大学生の頃、バッティングセンターのストラックアウトでパーフェクトを取ると、隣の焼肉屋のタダ券がもらえたんです。高校の頃ピッチャーをやっていたので、友だちを連れてよく行っていたんです。それで焼肉屋のパートのおばさんが『あんたまた来たのね』って。そのおばさんが麻生さんのお母さんだったんです。……すごくないですか。本当びっくり。その何年か後に麻生さんとは仕事でお会いして、『(映画に)お母さんも出ているから観てね』って言われて頂いたんです。この人がお母さんかと思ったら、何か見たことがあるんですよ(笑)だからもう運命だなと思って!」

 

門間「結婚してないのがおかしいくらいですね」

 

峯田「たしかになぁ……。伊賀君(麻生さんの旦那様の伊賀大介さん)なぁ……。ちょっと2分くらい時間貰っていいっすか(笑) だからズッキーニが初めてカミーユを見たときの顔は、僕が初めて麻生さんを見た時の顔と変わらないと思うんですよ。生まれて初めて見た女優さんが麻生さんなので。あのときのときめきが凝縮されているようで。なんでクロード・バラス監督は俺のあの時のことを知っているんだみたいな」

 

門間「今後もご縁はあるんでしょうね」

 

峯田「不思議だなぁと思います。あ、全然(質問に)関係なかったですね!」

 

峯田さんのピュアな人柄とトークで、終始笑いが絶えなかったトークショーとなりました。

SWAMPER's EYE!

 

恵比寿ガーデンシネマのカフェには、ズッキーニたちのぬいぐるみや写真の展示も!

 

ぬいぐるみは、本編の衣装を担当したヴァネッサ・リエラさんが制作したもの。人形とはまたひと味違った可愛らしさがありますね。

 

峯田さんの素朴な人柄と、映画を通じて交わる不思議な縁。実写・アニメーションに関わらず、そういう運命ってあるものだなと、トークショーを聞いていて感じました。

 

映画を観ることで、これまでの自分の人生を見つめ直すことができたり、自分でも思っていなかった感情が揺れ動くことがある――。

 

『ぼくの名前はズッキーニ』。自分たちが積み上げてきた当たり前の日常の尊さを、改めて実感できる映画です。

 

ぜひ劇場にて、ズッキーニたちに会いに来てください!

 

『ぼくの名前はズッキーニ』作品概要

 

監督:クロード・バラス

脚本:セリーヌ・シアマ

原作:ジル・パリス「ぼくの名前はズッキーニ」(DU BOOKS 刊)

原案:ジェルマーノ・ズッロ、クロード・バラス、モルガン・ナヴァロ

アニメーション監督:キム・ククレール

人形制作:グレゴリー・ボサール

音楽:ソフィー・ハンガー
スイス・フランス/2016 年/カラー/66 分/ヴィスタサイズ/5.1ch/フランス語/原題:Ma vie de courgette/後援:スイス大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

配給:ビターズ・エンド、ミラクルヴォイス

宣伝:ミラクルヴォイス

 

 

公式サイト:http://boku-zucchini.jp/

 

 

(c) RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUMFILMS / 2016

関連キーワード
  • 『ぼくの名前はズッキーニ』と日本アニメの共通点 片渕須直監督「自分の中にある何かを見つけ出してくれる映画です」
  • 40歳の峯田和伸さんが9歳の男の子に!「ズッキーニが初めてカミーユを見たときの顔は、僕が初めて麻生さんを見た時の顔と変わらないと思うんです」
  • 『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』と『この世界の片隅に』 両アニメーション映画の根底につながる共通点とは?
  • 筆を使って生命を描くということ――『大人のためのグリム童話』セバスチャン・ローデンバック監督インタビュー
おすすめの記事