アニメをめぐる冒険型コラム「アニメ・エンタープライズ」。前回に引き続き、僕がアニメ業界時代に就いていた制作進行のお話です。

 

少ない日数しか在籍していなかったので、あまり多くのスタジオに赴くこともなかったのですが、そんな中で印象出来だったのは、小林プロダクションでした。

「おじいちゃんだから早く寝ちゃう」時間との戦いだった


画像出典:http://images-jp.amazon.com/images/P/4198614989.jpg

 

小林プロダクションについて、まずは説明しておきましょう。日本を代表する美術監督の1人である、小林七郎さんが設立した美術スタジオです。もしかしたら、小林七郎さんというお名前を知らないというアニメファンの方もいることでしょう。現在は小林プロダクションも解散し、ご本人も現役を退いてしまわれているので、致し方ないのですが、美術監督を務めた作品は、誰もが知るはず。

 

『ど根性ガエル』『ガンバの冒険』『宝島』『天使のたまご』といった東京ムービーを中心とした大名作から、『少女革命ウテナ』『To Heart』『のだめカンタービレ』『キミキス pure rouge』といった90年代~2000年代のアニメにも美術監督として参画。淡くも存在感あふれる手描き背景の魅力で、数々のアニメを彩って来た方なのです。

 

昭和の名作を手がけたお方なので、僕が業界に入った時にはすでに大ベテラン。70歳を越えても美術を描き続けていたレジェンドです。そのスタジオに回収に行くことになったのですが、まず先輩に言われたことは、「小林さんはおじいちゃんだから、ほかのスタジオと違って24時前にはスタジオが完全に閉まってしまう。だから絶対に遅れちゃダメ」ということ。

 

前回のコラムで書いたとおり、方向音痴で目的の場所になかなかたどり着けなかった僕としては、とても緊張したことを覚えています。ただでさえ、多大な影響を受けた作品の美術監督。遅れて怒らせるようなことがあってはいけないと、ほかのスタジオ以上の集中力で早めに到着。青梅街道沿いにあるスタジオ近くのすき家で、チーズ牛丼を食べたことを覚えています。

 

僕が業界に入った頃は、すでにデジタル化の波が背景美術の世界にも押し寄せていて、手描きの美術は珍しくなっていました。そんな中で回収した小林プロダクションの背景美術。素材を受け取って届けるだけだけど、自分はアニメを作っているんだと強く感じることができた瞬間です。そう感じさせる何かが、生の美術素材にはあったんですね。

 

ちなみに、手描きの背景美術なので、雨の日の回収はより大変です。濡らすなんて言語道断。大きなビニール袋を持参して、塗れないようにしっかりと包んだうえで、わが身でそれを包み込むようにして、転ばないように注意しながら車に戻る。自分がどうなろうとも、魂のこもった美術だけは守らなくては――。

 

そう思えたことは、僕がアニメ業界にいて誇れる数少ないことの1つです。

 

>次コラム

第9回 カット袋を見るということ

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