これまでSWAMP(スワンプ)でも紹介してきた『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が、ついに4月28日(土)より公開となりました。

 

東京地区の上映館の一つである、ヒューマントラストシネマ有楽町では、初回の上映終了後に美術家の会田誠さんを招いたトークショーが行われるとの情報を聞きつけ、早速取材に行ってきました。

Twitterで「俺が作ったのかと思った」と書き込みされていた会田さん

 

MCの方の呼び込みで、満席の観客の前に登場した会田さんは、開口一番こう言い放ちます。

 

「アフタートークなんて、本当は無い方がいいと思うんです」。果たして、その発言の真意とは!?

 

会田:『ザ・スクエア~』は、ラストの解釈もそれぞれのお客さんに委ねるタイプの映画だから、終わった後に僕とかがノコノコ出てくるのは、なんだかちょっと......(笑)。なので、解説ではなく雑談にしようと思います。

 

なるほど。確かにこれまでのトークショーでもたびたび指摘されていたように、この映画は鑑賞者にも「寛容とは?」「社会的責任とは?」といった、普段は目を背けてしまいがちな問題を、ユーモアに包みながらも、「これでもか!」と突き付けてくる問題作。

 

なので、映画を観た直後は「この衝撃をどうやって受け止めたらいいの!?」と、戸惑う方もいるかもしれません。

 

でもだからこそ、「あのシーンって、どういうことだったの?」「あの場面って、結構『あるある』だよね?」といった具合に、鑑賞中に湧き上がったモヤモヤを、誰かと共有したくなる映画でもあると思うんです。

 

特に、日本を代表する現代美術家の一人である会田さんが、この映画に対して、どんな風に思われたのか、「俺が作ったのかと思った」とTwitterでコメントされた理由はどこなのか、「ぜひ知りたい!」という人も多いはず。

 

 

実はこの日、観客と一緒に客席で『ザ・スクエア~』をご覧になっていたという会田さん。

 

「この監督は、なかなかの人ですね。人間の心理とか、イヤ~な面をよく観察している」「監督には、もとから現代美術界に縁が少しあったのか、それともリサーチしたのか。まぁ、両方ぐらいな感じだと思いますけど」「人間観察に長けた人なんでしょうね」と、リューベン・オストルンド監督について鋭い分析をされながら、ある意味、この映画の「本質をあらわす」とも言える驚きのエピソードが、会田さんの口から明かされたんです。

 

会田:「猿人間」が登場するあたりで、僕のすぐ近くに座っていたご婦人が、席を立って帰られちゃって……。

 

なんと! これはまさに、映画館で多くの人と一緒に映画を鑑賞しているときにしか味わえない、醍醐味ともいえる出来事ではありませんか......!!

 

もちろん、そのご婦人がどのような理由で席を立たれたのかは知る由もないのですが、この映画をご覧になった方ならきっと、お察しいただけるはず。

 

▲会田さんのコメントも載っているポスター。真ん中にいるのが、記事中で話題になっている「モンキーマン」です。

 

 

過去の記事でもご紹介してきましたが、「モンキーマン」がガラパーティをかき乱す場面は、オストルンド監督が「傍観者効果」を浮き彫りにしたかったというだけあり、どんなホラー映画よりも衝撃的なシーンとも言えるんです。

 

会田さんが「あの猿人間のシーンの、演技なのか本物なのか、どっちかわからない境界線のような危うさや気まずさが、この映画のコアみたいなところ」と指摘されるように、どこかこの「途中退出劇」こそが、映画を象徴している出来事のようにも感じられました。

 

そして、さらに興味深かったのが、会田さんがこの現象が起きた原因に思いを巡らせ、「もしかすると『ザ・スクエア 思いやりの聖域』という、日本語のタイトルにも誘因があったのでは?」と分析されていた点なんです。

 

 

会田:日本映画って、よくサブタイトルを付けるじゃないですか。もちろんこの映画の場合、セリフから取っているから全然問題ないんですが、なんとなく、この「思いやりの聖域」っていうサブタイトルは、無くてもよかったんじゃない(笑)?

 

と、実際に日本版のポスターを指さしながら、厳しいツッコミを入れる会田さん。

 

会田:これが入ることで、もっと心温まるヒューマンドラマなんじゃないかって、期待させちゃってるでしょ。それで心優しいおばさま方に来てもらおうって。そうすると、この映画ってゾッとさせられますよね。「騙された!」って感じでね(笑)。

 

そもそも『ザ・スクエア 思いやりの聖域』とは、この映画のタイトルであると同時に、映画に登場する企画展のタイトルでもあるので、もちろん「騙している」わけでもなんでもないのです。が、見方によっては、映画の中で大問題へと発展する「炎上商法」にも通じる部分もあり、「この映画は既にタイトルから逆説的とも言える」ことに、会田さんの指摘によって改めて気づかされました。

 

さらに会田さんは「現代美術には、妙な偽善性や二重性みたいなところがある」と、最近SNSで取りざたされている写真家とモデルの関係性を引き合いにしながら、「『現代美術』の側から、アーティストを「こっち側の世界」に引っ張り出してしまう側面もある」と言及したうえで、「一部のアーティストが持つワイルドな人間性をもっともっと突き詰めたら、この映画のように本物の暴れ方をしてしまう類人猿になるのかもしれない」と、現代美術家ならではの視点で鋭くこの作品を捉えられていることが、一つ一つ言葉を選びながら、会田さんがもどかしそうに語る姿からひしひしと伝わってきました。

 

ところで、「そもそも会田さんが、この映画に反応された一番のポイントとは?」というところに改めて立ち返ってみると、実は会田さんが意外なところに目を付けられていたことが分かったんです。

 

 

会田:僕が送っていただいたDVDを観て、最初にピャーっとTwitterに「俺が作ったのかと思ったぜ」なんて偉そうに書いたのは、この映画には現代美術業界に対する疑いとか、嫌味とか、美術まわりの「あるある」が描かれていると思ったから。

 

ちなみに「あるある」のなかには「深いものもあれば、軽いものもある」そうで、会田さんが「軽い方」の例として挙げられたのが、「展覧会の前夜に、美術館の関係者がクラブミュージックをかけてガンガン踊るシーン」だったんです。

 

会田:普通、ああいう曲で踊るなら、もっとスリムな若者の方が似合うはずなのに、よく見ると、結構ババアとか、腹の出たジジイとかが踊ってたりする。あれはすごく美術業界の「あるある」ですね(笑)。

 

こんなふうに、思わぬところで業界関係者ならではの楽しみ方が出来るのも、この映画の奥深さともいえるのかもしれませんね。

 

会田:僕はそれほど国際的なアートワールドに居ないから、どこか罪の意識が低くて、そこから「逃れちゃおうかな」っていうところもあるんですけど、でもまぁ、「経済格差によって支えられている現代美術」っていうジャンルに属しているのは事実。この映画で描かれているように「ワイルドな人間性や、弱者に手をさしのべること」が、現代美術作品の内容だったりするわけです。

 

と現代美術家としての立ち位置を明確にされたうえで、『ザ・スクエア~』について「僕は典型的な『ソーシャリー・エンゲイジド・アート』だと思う」と語る会田さん。

 

ちなみに、会田さんの言う「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」とは、「美術館とかギャラリーといった枠組みの外へ出て、社会に直接関わって変革することを目指す、世界で一番新しい形態とされるアート」のこと。

 

この映画の結末を巡り、「もしかすると、クリスティアンはこの後、本格的な『ソーシャリー・エンゲイジド・アーティスト』になっていくのかもしれない」と会田さんは予想されていましたが、その理由については、ぜひ皆さんも映画を観てじっくり考えてみてくださいね。

 

 

最後に、観客と会田さんのQ&Aの模様をお伝えして、このレポートを終わりにしたいと思います。

 

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Q.この映画を観て、会田さんと共通しているなと思ったのが、「表現の自由」に関する部分です。

 

会田さんの作品も物議を醸すことがありますが、世間の反応を受けて考えが変わったとか、「今後はこんな作戦で行こう!」と思われたことがあれば教えてください。

 

会田:確かに、僕がこの映画を観ていて心がゾワゾワしたのは、クリスティアンが炎上の当事者になってしまった時ですよね。

 

僕も2~3件身に覚えがあって(笑)。ただ、基本的にはこの映画と同じシチュエーションだったことはないつもりなんです。

 

僕の場合は逆ですよ。この「スクエア」という展覧会自体は真面目だし、善意に満ちている内容で、まぁ、それだと宣伝力がないから、表向きにはエグくPRしようとしたわけですよね。

 

僕はね、もともと学生の頃から作品がエグかったんで、むしろ展覧会を開くときにはエグさを隠してるつもりなんだけど、それでも漏れてきちゃって「やっぱり炎上しちゃった......」みたいなパターンなんです(苦笑)。

 

この映画の中にも「表現の自由」に関するやりとりがでてきますが、最終的に結論は出ていないみたいなものだし、記者会見のシーンも「こうなったら、そりゃこういうやりとりになるよな」みたいな感じで......。まぁ、僕にも結論がないんです。ピリッとしてなくてスミマセン.......。

 

(会場笑)

 

Q.会田さんは、アーティストとして、今後ネットとどう関わっていく予定ですか?

 

会田:僕はTwitterとの相性はいいと思ってるんです。自分のアート活動とリンクしてやっているつもり。ツイッターにイチかバチか言葉を投げかけることは、誰が来るかわからないけど、展覧会を開いて反応を待つのと似ていて、相性がいいんですよね。

 

ツイッターには「悪意」がすぐに渦巻きますからね。アーティストには意外と心優しい人が多くて、Twitterを始めても結局耐えられなくなって、逃げていく人が多いんですよね。

 

この映画も、そういう意味では「悪意」に満ちあふれている映画だと思いますけど、僕はこの監督が描く「悪意」みたいなものは好き。

 

この後味の悪さというか、何も解決しない終わり方も僕は割と好きなんですけど、なかにはね、多分嫌な方もいるでしょうね。普通ならね、少年と再会して「ごめんなさい!」みたいなね。ハグして終わるんでしょうけど(笑)。

 

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いかがでしたか? 会田さんご自身は、

 

会田:このトークショーのゲストには、僕よりもっとふさわしい人がいるよね(笑)。

 

と語り、会場の笑いを誘っていましたが、この日披露された会田さんの鋭い分析とユーモアを交えた自虐コメントの数々を通して、会田さんこそ、まさしくこの『ザ・スクエア 思いやりの聖域』の初日のトークにふさわしい人選だったということが、きっとお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

是非皆さんも、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を観に、劇場に足を運んでみてくださいね。

 

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』概要

 

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

 

4月28日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、立川シネマシティほか全国公開中

 

 

 

公式サイト:www.transformer.co.jp/m/thesquare/

 

 

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