SWAMP(スワンプ)でこれまで数回にわたって紹介してきた映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』。

 

今回は、4月15日(日)に代官山 蔦屋書店で実施された、美術館研究員の保坂健二朗さん、精神科医の名越康文さん、美術家・ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんによる座談会の中から、特に印象的だったエピソードをお届けします!

異なる立場の第一人者の方々がゲストに集結

 

先日、横浜美術館で行われたトークイベントでも、キュレーターとアーティストという異なる立場から本作の見どころを解説されていましたが、今回はさらに精神科医による登場人物の分析も加わるということで、どんな展開になるのか、かなり期待していたんです。

 

この日のMCを務めたのは、この映画の宣伝を担当するプレイタイムの斉藤陽さん。

 

 

斉藤さんによるゲストの紹介の後、まずはお三方から『ザ・スクエア~』に対する印象が語られたのですが、なんと名越先生がこの映画の存在を知ったきっかけは、先日開催されたティーチインでもオストルンド監督と鋭いトークを繰り広げた菊地成孔さんにオススメされたからなんだそう。

 

名越:菊地成孔さんとはよく対談する機会があるんですが、彼は本当に映画狂で、まさに映画と共に育ったサックス吹きなんですけど(笑)。そんな彼が伏し目がちにね、「先生、『ザ・スクエア~』観ました? 」「いや、観てない」「ふふ、面白かったですよ」ってね、すっごく意地悪そ~に笑いながら勧められたので、ずっと気になっていたんです。映画を観て、その意味がすごくよく分かりました(笑)

 

この菊地さんと名越先生のやりとり、なんだか目に浮かぶようですよね。さらにMCから菊地さんが来日したオストルンド監督と対談されていたことが伝えられると、「いったいどんな辛辣なことを言ってしまったんでしょうか、彼は(笑)」と名越先生がニヤリ。

 

すると偶然にもそのトークイベントを客席で聴いていたというヴィヴィアン佐藤さんから、「確かに辛辣なことは言ってましたね(笑)」というコメントに続いて、こんな鋭い指摘があったんです。

 

ヴィヴィアン:「この映画には、私たちの知らないスウェーデンが描かれている。欧州は先進国だと思っていたけど、全然違うんじゃないか」っていう話が出ていたんだけれども、気になったのは、この『ザ・スクエア~』が映像作品であるっていうことなんです

 

ヴィヴィアンさん曰く、映像作品の場合「ドキュメンタリーですらディレクターがいて、シナリオがあって撮られているので、真実であるとは限らない」。つまり、この映画の設定はスウェーデンという国ではあるけれども、登場するのはあくまで架空の美術館だから「果たしてこれが本当のスウェーデンの状況なのか、というと、必ずしもそうとは限らないのでは?」ということなんです。

 

そしてさらに「そもそも“これがアートです”と断言できるものは、存在するのだろうか」ということも、この映画をきっかけに考えさせられたのだとか。ヴィヴィアンさんがそこまで深読みされるのも、まさしくこの映画ならではといえますね。

 

かたや東京国立近代美術館に18年間勤められ、ご自身も主任研究員(キュレーター)として働く保坂さんは、同業者ならではの観点から、ガラパーティーの豪華さや与えられる部屋の広さに違いはあれど、「キュレーターの立場というのは、全世界変わらない」と指摘。でもその立場は「勘違いの方向にきている」のだといいます。その具体的な例として挙げられたのが、意外にも「見た目」だったんです。

 

 

保坂:「公務員って、その格好で仕事場に行けるんですか?」ってよく言われるんですが、まぁ、これで行くんですよ(笑)。確かに日本の美術館は国公立であることが多くて、キュレーターも公務員がほとんど。

 

でも、その一方でアーティストとも付き合わなければいけないし、コレクターとも付き合わなければいけない。だからそれなりに身なりには気を遣うんですが、そういう中でちょっとした「勘違い」が生まれてくるところもあって。でも、この映画ではそういった「勘違い」こそ、物語が生まれるきっかけになっているとも言えるので、非常に身につまされる思いで観ていました

 

言われてみると、映画の中のクリスティアンも、ジャケットこそ羽織ってはいるものの、ほとんどがノーネクタイで胸元を開けていて、かなりラフな印象です。乗っているクルマも高級車の「テスラ・モデルS」。確かにそこはかとなく、というより、かなりイケてる感じを漂わせています。

 

▲本作の主人公・クリスティアン。取材をうけるときも、話題になっているとおりジャケットのボタンを開けています。

 

 

先日の横浜美術館でのトークの時も、学芸員の木村さんとアーティストの中村さんも、映画に出てくる「キュレーター」のファッションについて言及されていたので、そのあたりにもこの映画を読み解くヒントが隠されているのかもしれません。

 

ちなみに、オストルンド監督の前作『フレンチアルプスで起きたこと』も大好きだというヴィヴィアンさんは、前作を評してこんなお話をされていたんです。

 

ヴィヴィアン:『フレンチアルブス~』は、大変映像が美しくて、カメラワークにも一切無駄な動きがなくて、非常にクールなんですよね。音楽もいいし、ノイズすら空間の奥行きを感じさせる。でもその一方で、ドロドロとした人間の情念が浮き彫りになったり、意味のない会話や嘘の会話のやりとりが延々と繰り広げられる。その対比が面白かったですね

 

『フレンチアルプス~』については、来日時の菊地さんとの対談の際にも、オストルンド監督が自ら詳しく解説されていたので、すでにDVDなどでご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんね。もし「まだ観ていない!」と言う方は、ぜひともこの機会にチェックされることをオススメします。

 

次ページ:『ザ・スクエア~』の重要なテーマとも言える「アート」の定義とは?

 

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