映画の庭さながら、色とりどりの草花が飾られた舞台は、劇場内とは思えないほどの装い。まるで縁側に座ってみんなで茶飲み話をしているかのようなリラックスした雰囲気の中、終始笑いが絶えることのない、とっても素敵なトークが繰り広げられていたんです。

 

司会進行を担当するのは映画パーソナリティの伊藤さとりさん。まずは、舞台挨拶に立つのは5年ぶりという山﨑努さんからご挨拶。

 

 

山﨑:この映画は昨年の夏に撮影したんですが、偶然にも昨年12月から今年3月まで東京国立近代美術館で「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」という展覧会が行なわれたんです。大盛況だったそうで、ちょっとした熊谷ブームが起きたそうです。そのせいかどうか僕のところにも取材がありまして、それ以来ずっと守一さんと付き合っています。今日、皆さんに観ていただいて、これでこの映画は完成です。一段落です。どうぞよろしくお願いします。

 

つづいて、モリの妻、秀子を演じた樹木希林さん。

 

 

樹木:この空間に居ることが出来て、身の果報だという風に75歳になって思っております。今日はありがとうございました。

 

さらに、加瀬亮さん演じるカメラマンの助手・鹿島公平役の吉村界人さん、モリの家の裏側に建設が予定されている高層マンションの工事現場監督・岩谷役の青木崇高さん、モリの姪で熊谷家の家事を手伝う美恵ちゃん役の池谷のぶえさん、そして沖田修一監督による一言挨拶を経て、沖田組は『キツツキと雨』に続いて2回目となる山﨑さんから、沖田組の演出術について、こんなエピソードが明かされたんです。

 

山﨑:クランクイン前に2度ほど打ち合わせで、というより、「呑む」方が主で会ったんですが、彼は準備の間は非常に慎重で、僕が何か言ってもなかなか返事が返ってこない。「これは絶対に正解だ」ということを言っても、しばらく間があってから「そうですね。そうですか」っていう感じで(笑)。

 

ところが現場に入りましたら、一転して即断即決。とてもいい反応でした。感覚優先で演出していきました。その切り替えが素晴らしかったなと思います。

 

すると今度は、沖田組は初参加となる樹木さんから、こんなコメントが飛び出しました。

 

樹木:私は偏屈な人間で好き嫌いが激しいので、なかなか人を認めたくないタイプの人間なんですが、沖田さんは「人間を描く」ということをずっと見ていてくれる監督なんです。それは役者にとって一番嬉しいこと。いまは役者の芝居を見るよりも、モニターの枠の中で映像の出来を見る監督が多いんですが、あの監督は若いのに、実によく人を見ようとする。そんなわけで、沖田監督には期待をしている次第です。

 

樹木さんから監督に素敵な賛辞が贈られるやいなや、客席から大きな拍手が沸き起こり、「恐縮です......」と恥じらいながらも、本作の撮影の経緯を振り返った沖田監督。

 

沖田:山﨑さんとは、熊谷守一さんについて、それこそ見た目から中身に至るまで、「どういう風にしていこうか」と、長い時間をかけて話をさせてもらって、最終的に「じゃあ、この映画だけの守一さんを探してみよう」ということになりました。いろいろと印象に残る言葉や感情を受け止めながら、現場に入ったような気がします。

 

樹木さんとも、現場に入って、モリと秀子さんとのやり取りの中で、こういうことがあったほうが面白いんじゃないかって......。

 

と、ここですかさず樹木さんから、

 

樹木:いや、でも私は全然時間をかけなかったですよ。長い時間なんか何もなかったですよ。ただ、「おはようございます」って言って、スースース―っとね。

 

と、指摘が入り、

 

沖田:いやいや、でも縁側によくいらっしゃったんで......。

 

と、沖田監督はすっかりタジタジに......(笑)。でも、このやりとりをきっかけに会場の空気がすっかり和んで、さらに良い雰囲気でトークは進んでいきます。

 

樹木:現場がね、とてもいいんです。森が出来てて。小さい敷地なんですが、美術がよくて。本当に森を作ったんですね。そこだと控室よりもずっと気持ちがいいんです。そこにいると、監督が動き回ってるんで、ちょっと声をかける。って、その程度です(笑)。

 

この映画のタイトルが『モリのいる場所』であることからもわかるように、本作においては、いわゆる通常の映画のセットとは比較にならないほど、「モリの庭と家」が重要な役割を果たしています。

 

それもそのはず、この映画のほぼ全てのシーンが、熊谷家の庭と家の中だけで進行していくからなんです。ロケ地探しには相当苦労されたようですが、最終的には、神奈川県の葉山町の海岸からちょっと入ったところにある古民家と隣接した2軒分の庭を借りて、美術スタッフがいろいろと細かく手を加えて、理想の「モリの庭と家」を作り上げたのだそう。

 

その苦労の甲斐あって、とてもこの撮影のためだけに用意されたとは思えないほど、蓄積されてきた時間の流れや生活感が感じられる、なんとも居心地の良さそうな空間が広がっているんです。

 

 

一方、MCから「素晴らしい俳優の方々と撮影に入られて、緊張しませんでしたか?」と尋ねられた最年少の吉村さんは、

 

吉村:あぁ。緊張しましたよね。そうっすね。怒られましたね。

 

と、飄々としながら答えられていたのですが、

 

樹木:でも緊張している割にはね、さっき山﨑さんと私の真ん前で「フワァ~」って大きなアクビをしててね。「そんなアクビはしないのよぉ」って言ったら山﨑さんが「ほら始まったぞ! ほら、またいろいろ言われるぞ」って。まぁ、そういうバランスで良いんだけど(笑)。

 

と、またしても樹木さんから裏話が披露され、会場は笑いに包まれました。

 

そしてさらにMCから、沖田監督の演出について尋ねられると、

 

吉村:僕みたいに未熟な者にも「君が出来るお芝居が見たいだけだから、君が思うんだったら、そうしてくれ」って沖田監督が言ってくれたのが、すごくうれしかったですね。

 

と、素敵なエピソードを披露してくださったんですが、監督からは、

 

沖田:そんなこと言ったかなぁ(笑)

 

と言われてしまい、困り顔を見せていた吉村さん。沖田組の仲の良さが、皆さんの会話のやりとりや、表情の端々から伝わってくるような気がしませんか?

 

一方、青木さんは、撮影についてこう振り返ります。

 

青木:ロケ地の葉山の古民家には虫がすごく多かったですね。山﨑さんとお芝居をさせていただいたときは、緊張するでもなく、素直にそこに居るような気分でやらせていただきました。すごく楽しい夏の思い出です。

 

すると、またもや樹木さんからこんな解説が入ります。

 

樹木:私は青木さんとは全然セリフは交わさないんです。なぜなら、青木さんは(熊谷家にとって)来てもらいたくないお客の役だから!

 

こんな息ピッタリのやりとりの連続に、いつしか舞台挨拶であることすら忘れて、豪華なコントを観ているような気分になってきます。

 

 

青木:セットも美術さんがかなり作り込んでいて、本当にそこに元からあるような感じだったんです。ウズラとかも飼っていたりして。子どもの頃、夏にお祖父ちゃん・お祖母ちゃんの家に遊びに行った時の感覚を思い出させてくれるような素敵な場所で。匂いとか、風とかも気持ちよくて、最高でしたね。

 

青木さんがお話しされていた通り、すごいのは「モリの庭と家」だけではないんです。モリが縁側で飼っていた小鳥たちを始め、モリの庭には、おびただしい数の虫や小さな生き物たちが、実にのびのびと暮らしているんです。

 

もちろん、そんなに都合よく演技するアリやカマキリ、チョウが集まってくるわけはないのですが、映画を観ていると、「昆虫にもプロダクションがあるの!?」と思わずにはいられないほど、それぞれが見事な演技を披露しているんです。モリの庭は、まさに「生き物たちの楽園」。

 

 

映画の中にはモリたちが頬っぺたを地面につけて、「アリの足は何本目から動き出すか」をジッと観察するシーンも出てくるのですが、そのアリを集めるのにどれだけ苦労したかについては、文藝春秋から出版されている『モリのいる場所』の副読本ともいうべき「モリカズさんと私」の「撮影まで」の項目に詳しく綴られているので、ぜひそちらも参照してみてくださいね。

 

一方、熊谷家のムードメーカーとも言える姪っ子の美恵ちゃんに扮した池谷さんは、撮影当時について、こう語っています。

 

池谷:樹木さんのことを、いきなり「おばさん!」と呼ばなきゃいけない、この緊張感(笑)。しかもその直後には、モリと秀子さんに挟まれて朝食を食べるシーンが待ち受けていたので、どんな芝居をするかいろいろ考えながら現場に行ったんですが、座った瞬間、お二人がずっと一緒に暮らしてきたんだなっていう雰囲気が、もう既にそこにはあったんです。

 

「私はなんて小賢しいことを考えていたんだろう」「もう、ただここに居よう」っていう気持ちにさせていただけたのが、何より有り難かったなって思います。

 

しかも、沖田監督が現場で一番楽しそうにしているのを見ていると、こっちも「あぁ、監督が楽しいなら、楽しい!」っていう気持ちになってきますしね(笑)。

 

樹木:そうそうそう! 監督が「ヨーイ! スタート」って言うときの顔を見てると、もう監督が役者の気持ちに成ってるから、美恵ちゃんを撮ってるときは、監督も美恵ちゃんと同じ顔しているのよ。

 

沖田:えぇ!? そうですか??

 

樹木:そうなのよ。監督が楽しそうなのね。とってもいいなぁと思った。いま、本当に芝居を見てる監督って少ないんですよ。

 

山﨑:沖田監督は、現場では即断即決でスピーディーでした。「OK」「もう一度」っていうのもすぐに返ってきて。ときどき迷ってる時もあるんですが、迷ってるときは、「いま迷っています! ちょっとお待ちください!」っていうアナウンスが入りまして(笑)、その辺もとても感じがよかったです。

 

樹木:あのね、年を取るとね、私たちはね、もう待ち時間が長いと辛いから「即断即決」っていうのは「好きだな」って思いますね。

 

沖田:自分ではよくわからないんですけど、でも言われてみると「俺もそういう顔してるなぁ」って、いま思い出しましたね(笑)。

 

 

次ページ:山﨑さんと樹木さんと沖田監督の怒涛のやり取り

 

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