「いつか必ず日本で映画を撮りたい」という思いが結実して生まれた『蝶の眠り』

▲チョン・ジェウン監督。

 

 

「公開当時、日本の観客の方が『子猫をお願い』の感想を書いて渡してくださったんです。それを読んで、『あぁ、私の映画をこんな風に感じてくれたんだ』と嬉しくなり、『日本でも私は映画を撮れるんだ』『日本は私が映画を撮れるところなんだ』と実感して、「いつか必ず日本で映画を撮りたい」と観客の皆さんに約束したんです。

 

私にとって日本は、文化的にも精神的にも沢山の影響を与えてくれた国。だからこそ、国と国との関係性を除いたところで、自分らしい映画を撮ってみたいとずっと思っていたんです」

 

ちょうどその頃、日本ではヨン様でお馴染みの『冬のソナタ』をきっかけに韓流ブームが巻き起こりましたが、実は韓国でも1999年に岩井俊二監督の『Love Letter』が公開され、劇中で一人二役を演じた中山美穂さんが発する「お元気ですか?」というセリフが韓国でも流行語になっていたことは、先日レポートしたプレミア試写会の記事でもお伝えした通り。

 

それから17年という歳月を経て、ついにチョン監督が「日本を舞台に日本語で映画を撮る」という企画が動き出したのです。

 

「『蝶の眠り』は女性が主人公の映画にしたいと考えていたので、いざ映画を撮ると決まった時には、当然ながら中山美穂さんのことしか思い浮かびませんでした。韓国においては、もはや『Love Letter』と中山美穂さんこそが、日本を代表するイメージになっているので、日本はもちろん韓国の観客にも絶対喜んでもらえるだろうと思ったんです」

 

そしてチョン監督の念願が叶い、ヒロインの涼子役に中山美穂さんが決定したというわけです。

 

「中山さんの顔のクローズアップを見ているだけで、涼子の哀しい気持ちが伝わってくるんです。中山美穂さんというのは、愛というものを表現する上で、本当に卓越した才能をお持ちの方なんだなと思います」

 

チョン監督が中山さんをどうやって口説き落としたのかについては、さきほどの舞台挨拶の記事も参照してくださいね。

 

 

一方、この映画でヒロインの涼子を支える重要な役割を担っているのが、韓国人留学生のチャネ役を演じたキム・ジェウクさんです。映画の中で日本語を流暢に話しているのに驚かされますが、実はジェウクさんはお父様の仕事の都合で、7歳まで日本で育ったんだそう。

 

チャネが話す言葉が美しい日本語であることや、涼子やほかの登場人物とスムーズに会話を交わせることがこの映画にとって欠かせないのは、予告編を見ただけでも一目瞭然。

 

チョン監督は「私は日本語を完全には理解できないので、日本語で聴いたときに皆さんがどう感じるのか、実はすごく気になっているんです」とお話しされていましたが、もしチャネ役がキム・ジェウクさんではなかったら、きっとこの映画から観客が受け取る印象は随分変わっていたはず。

 

中山美穂さん同様、キム・ジェウクさん無しにこの映画は成立しなかったのでは? と思わされるほど、強い必然性が感じられます。

 

 

しかもこの涼子とチャネの組み合わせが、不思議なほどスクリーン映えするんです。

 

「衣装合わせで中山さんとジェウクさんが一緒にいる姿を初めて見たとき、『いやぁ、これは我ながらすばらしいキャスティングだ!』と感じました。それくらい二人の調和がとれていて、本当にお似合いだったんです。『二人がこの映画で共演したら、絶対に良い作用が生まれるはずだ!』と、その時確信しましたね」

 

中でもチョン監督がお気に入りなのが、涼子とチャネが少しおめかしをして、夜の神楽坂の赤城神社の境内を散歩するシーン。そして、そんな二人の時間を特別なものにするのに一役買っているのが、本作において初めて映画の音楽監督を務めた新垣隆さんが生み出す旋律です。「そのシーンにかかる曲を耳にした瞬間、鳥肌が立つほど美しいと感じました」とチョン監督に言わしめるほど、この映画の世界観に見事にマッチしているんです。

 

「実は、決め手となったのは、握手をしたときの新垣さんの手だったんです。おそらくピアニストは手ですべてを表現するからだと思うのですが、手に触れた時の感触が普通の人とは全く違うんです。新垣さんの手は、この世のものとは思えないほどの感触でした(笑)。

 

彼の手掛けたオーケストラ音楽を聴くと、男性的で強いイメージがあるんですが、握った手は本当に柔らかくて、すごく軽い感じがしたんです。こういう手の持ち主なら、きっと繊細な音楽を作って下さるはず。新垣さんの手を握った瞬間に「これはいける!」と直感することが出来たんです」

 

まさに「目」ならぬ「手」は「口ほどにものを言う」といえるような、なんとも興味深いエピソードですよね。

 

 

次ページ:「万年筆」こそ涼子とチャネを結び付ける重要なキーアイテム

 

関連キーワード
映画の関連記事
  • 周防正行監督待望の最新作『カツベン!』現場取材レポート!
  • 『ドント・ウォーリー』に宿るポートランド魂 ガス・ヴァン・サント監督来日レポート
  • 14年ぶりの来日!映画『パパは奮闘中!』ロマン・デュリスさんインタビュー
  • 観た人の心が軽くなるような映画を作りたい。『リアム16歳、はじめての学校』 カイル・ライドアウト監督インタビュー
おすすめの記事