言語化されていない気持ちみたいなものを、言語化する必要のない映画

 

撮影中、深田監督から毎日「もっと猫背になってください」と言われていたというディーンさん。

 

監督:歩き方については、かなり現場でも話したし、リハーサルでも相当繰り返しやりましたね。

 

ディーン:今回の現場で、すごく面白いなと思ったことがあるんです。ある一つのセリフを、まずは日本語で言って、バハサで言って、また英語に戻して……みたいな作業を初めてやったんですよ。

 

監督:はい。

 

ディーン:きっと監督が思い描くラウ像の中で、特定の文化とか国籍みたいなものをトレースできないようにするための、一つのアプローチ方法だったんだろうなと思ったんですけど、すごく新鮮でした。ラウがしゃべるセリフ一つ一つの純度が高くなっていくというか、不思議な体験でしたね。

 

監督:ラウっていう役は難しいとは思うんですけど、この映画に出てくる若者たちの人間らしい、いろんな葛藤とかを横からただ静かに見守っているラウ、というイメージで書いていく中で、「文脈の見えないような人物にしたい」という思いが湧いてきたんです。

 

「この人は日本で育ったんだな」とか「インドネシアで育ったんだな」というような文脈から離れて、「この人は何者なんだろう? 」「人間なんだろうか?」 「でも、人間かもしれない」……みたいなところを攻めたくて。そういった理由で、セリフもいろんな言語で試してもらったんです。

 

今回、ディーンさんにラウを演じてもらったことで、もはや演技だけでは辿り着けない領域まで辿り着けたんじゃないかなと、思っています。それは、ディーンさんの「存在」であったり、これまでのキャリア……というより「生き方」そのものですよね。アジアで活躍されて、ジャカルタを拠点にしながら日本でも活動しているディーンさんの海を越えたキャリアそのものが、ラウという登場人物の後押しになるだろうな、という思いもあって、今回オファーさせていただいたんですけど、すごく良かったなと思っています。

 

鶴田:ちなみに今日の会場には多分、ディーンさんファンが多いと思うんですけど(笑)、私が演じた貴子とのラストシーンのディーンさんは、ものすごく美しいです。私、芝居しながら見惚れました(笑)。

 

(会場拍手!)

 

監督:あれは素晴らしかった!

 

鶴田:本当に、「何てピュアな目をしている人なんだろう」って思って。

 

監督:あのシーンは比較的早い段階で撮影したんですけど、シーンを観たとき「あぁ、ディーンさんにお願いして良かったな」って、つくづく思いました。

 

ディーン:ありがとうございます。

 

(会場拍手!!)

 

すると、今度はディーンさんから鶴田さんが撮影休みのときに一人で(アチェから飛行機で3時間もかかる)ジョグジャカルタに行ったというエピソードが披露。白熱するインドネシアトークに、MCの伊藤さんからも「そろそろお時間が……」というコメントも(笑)

 

監督:まるでインドネシア政府観光局みたいな会話でしたね(笑)。

 

ディーン:いや、本当にそうですよ! 「もっと皆がインドネシアの魅力に気づいたらいいのになぁ」って思いながら、日々生きてますもん!

 

監督:ぜひこの映画が、そのきっかけになればいいですね。

 

と、一旦この話題は終了になったかと思いきや、ディーンさんからあふれ出したインドネシア愛は留まるところを知らず、今度はコーヒーの話題に(笑)。

 

ディーン:これだけは僕、言っておきたいんですけど、アチェのコーヒー、すごく美味しいんですよ! それまで僕、コーヒー飲めなかったんですけど、アチェで飲んでから「コーヒーって美味しいものなんだ」って思うようになって。

 

監督:え!? あの撮影で?

 

ディーン:そうなんです。

 

監督:それはすごいな、アチェコーヒーのパワー(笑)。

 

鶴田:アチェの高級なコーヒーも飲みました?

 

ディーン:「アチェガヨ」っていうコーヒーがあるんですけど、それのコピ・ルアクみたいな感じかな?

 

太賀:そろそろ映画の話、しましょうか(笑)。

 

 

と、白熱のインドネシアトークが続く中、見事な仕切りを見せる太賀さん。本作の感想を述べられます。

 

 

太賀:解釈だったり、批評だったり、そういうのはよくわからないんですけど、『海を駆ける』って、僕が今まで観てきた映画の中では、あまり観たことのないタイプの映画だと思いました。でも、まぎれもなく深田さんの作品だなと思える何かがあったんですよね。

 

きっと観る人によって感想は違うだろうし、むしろ違うべきだと思うんですね。この映画を観終わった後に残った鑑賞後感というか、気持ちのモヤモヤだったり、「あれはどういう表現だったんだろうか」「これはどういう意味なのか」っていう、言語化されていない気持ちみたいなものを、言語化する必要のない映画だな、とも思いました。その感覚のまま、観終わった後に心で広がって沁みてくる「スルメムービー」とでも言ったらいいのか……(一同笑)すごく味わい深い映画だなって思いました。

 

ディーン:「スルメ映画」じゃなくて、「スルメムービー」だったのが面白かったよ(笑)。

 

太賀:ははは(笑)。もちろん僕は脚本を読んでいるし、現場にも行っているので、初めて映画を観る人よりも、この作品に対して理解はあるはずなんですけど(笑)。『海を駆ける』はそれを遥かに超えて、また違った作品になっていたことに、すごく興奮しましたね。

 

 

そしてディーンさんも、この映画制作を通じて胸に抱いた感想を語られます。

 

ディーン:深田監督が脚本の一番最初のページに「宇宙には満足している。でもこの世界には不満足だ」っていう一文を書かれていたんです。それこそが、この映画におけるラウの存在だったり、この作品の一つの役割なのかなって思っているんですよね。僕らを取り囲む環境や世界というものは、見る角度だったり、ゲージとか目盛りが違うだけで、解釈の仕方が全く逆転してしまうこともあると思うんです。

 

アチェに居た方々って、30年間ぐらい独立戦争をしていて、人間の業の深さというか、お互いを傷つけあうような日々を体験してきた方々ですよね。でも、結果的に大きな津波という自然災害によって、たくさんの尊い命が亡くなったことがきっかけで、人間同士で傷つけ合うことが止まったという解釈があることを知って、自分の中になかった感覚が生まれたんです。アチェに居る方々は、みんな被害者で、家族や親戚、友人で傷ついていない人は居ないのに、彼らの明るさだったり、優しさだったり、美しさだったり、いろんなものを1カ月間そこで体験させてもらったことで、未来に対する希望みたいなものをすごく感じることが出来たんですよね。

 

この宇宙って、どの角度から見るかによって解釈はすごく変わるし、そこに希望が生まれれば、絶望も生まれるし、自分がどういう風に見たいか次第だなって思ったんですよ。だからこの映画を観たときに、観客の方、一人一人がどういう風に思われるのか、僕自身すごく興味があります。『海を駆ける』という映画は、垂直に伸びた一つのスケールというかゲージというか、定規というか……そういった視点の多様性みたいなものなんじゃないか、そんな感じがしましたね。

 

 

■次ページ:僕にとって「いい映画」というのは、鏡のような映画だと思っています。

 

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