ベストセラー小説をもとに、「丙子(へいし)の役(えき)」と呼ばれる、朝鮮王朝の存亡を賭けた男たちの47日間に渡る熱き闘いを描いた歴史超大作『天命の城』。

 

敵の激しい圧迫と無理な要求による逆境の中、朝廷は和親派と主戦派に分かれて対立。王はその狭間で苦渋の決断を迫られます。国と民のために、それぞれの立場から信念を闘わせる男に扮するのは、韓国を代表するスターであるイ・ビョンホン、キム・ユンソク、パク・ヘイルの3人。

 

監督を務めるのは、『トガニ 幼き瞳の告発』『怪しい彼女』などの俊英、ファン・ドンヒョクさん。社会派からコメディまで、一作ごとに作風をガラリと変えつつ、大ヒットを飛ばし続けるドンヒョク監督が、初めて本格的な時代劇に挑んだ理由とは? そして、一見脈絡のない過去作品に通底する、監督自身が考える一貫性とは? 来日した監督に、たっぷりとお話しを伺ってきました。韓国語通訳は、根本理恵さんです。

 

『天命の城』で描かれる「丙子の役」とキャスティング秘話

 

――実は私、歴史に対してちょっと苦手意識がありまして……。お恥ずかしながら、この物語の背景について全く知らなかったのですが、「丙子の役」というのは、韓国では歴史の授業で必ず習うような、歴史上有名な出来事なのでしょうか。

 

ファン・ドンヒョク監督(以下、監督):学校の授業では、おそらく基本的なことしか教えていないと思います。私自身も高校時代に少し授業で習った記憶はあるんですが、結局これは負け戦。敗北の歴史ということもあって、詳しいことは教えてくれなかったんですよね。

 

――なるほど。

 

監督:1636年に「丙子の役」という事件があって、清に攻められ、朝鮮の国王が逃げて、三田渡(サムジョンド)という地で降伏した。そのため、この事件は別名「サムジョンドの屈辱」とも言われている。おそらくほとんどの韓国人が持っているのも、その程度の知識だと思うんです。詳しいことはわからないけれども、そういった出来事があった、ということだけは、皆さん認識していると思います。

 

――『天命の城』は、韓国のベストセラー小説をもとに映画化されたそうですね。そもそも監督は、映画化を前提に原作を読まれたのでしょうか。それとも、たまたま原作を手に取って読み、それを映画化したいと思われたのですか。

 

監督:小説は2007年に出版されベストセラーになったので、タイトルは知っていたんですが、その当時私はまだ読んでいなかったんです。でも、その小説を書かれた作家のキム・フンさんの娘さんが映画の製作をされている方で、「映画化したいから」と私に提案してくださいました。

 

 

――そうだったんですね。イ・ビョンホンさんを始め、キム・ユンソクさん、パク・ヘイルさんなど、皆さんそれぞれハマり役でした。キャスティングの決め手になったのは?

 

監督:こういった映画を撮ろうとすると、膨大な予算が必要ですし、製作するのが難しい映画だということは、さすがに最初からわかってはいたんです。商業的な映画でもなければ、ただ笑えるだけの面白い映画でもないので。この映画を作るためには、やはりネームバリューやスターパワーがあって、演技力の備わった俳優さんが必要でした。

 

――なるほど。それはかなり現実的なお話しですね。

 

監督:はい。でも、韓国にはそういう俳優さんって、実はあまり多くはないんです。「この映画を作りたい!」と思ったときから、主役の3人のキャスティングは既に私の頭の中では決めていたので、シナリオを書き上げてからすぐに渡して、キャスティングに取り掛かったんです。

 

――はい。

 

 

監督:ところが、イ・ビョンホンさんも、キム・ユンソクさんも、パク・ヘイルさんも、なぜか皆さん足並みをそろえたように「この役を演じるのは難しい」というお返事でした。

 

――えぇ!? どうしてですか?

 

監督:確かに言われてみれば、この物語は勝利をする話でもないし、主人公たちは英雄でもないし、滅びる国が前提にあり、しかもその滅びる国を助けることも出来ない、というようなお話しでしたから(笑)。主人公といえども「この映画に出たい!」と言う風に、惹かれるところはないというのも理解できたんです。

 

――なるほど。

 

監督:なので、もう一度お会いして、どうして自分がこの映画を作りたいと思っているのか、この映画の意義や意味とはどういうものなのかを説明したり、もう一度シナリオを書き直して渡したり。

 

――へぇ~! 口説き落とすために、何度もトライされたんですね。

 

 

監督:はい。そんな非常に困難な過程を経て、ようやくキャスティングに辿り着いたんですけれども、中でも国王役のパク・ヘイルさんには、2回断られてしまいまして……。

 

――えぇ!?

 

監督:3回目にして、ようやく出演を決めてくださいました。まさに3度目の正直ですね(笑)。

 

――無事に国王が決まって良かったです(笑)。監督の前作『怪しい彼女』は、女性賛歌とも言える作品だと思うのですが、打って変わって今回の『天命の城』には、少女以外の女性の姿はほとんど見当たらず、登場人物のほぼすべてが男性です。それは、男たちの関係性にフォーカスを当てるためですか?

 

監督:もともと原作小説にも、ナルという少女以外、女性が出てこなかったんです。歴史的に見ても、戦争の場面で女性が出てくるということは、ほぼないんです。しかも当時は朝廷で、政治家に女性はいませんでした。ちょうど国王の妃も亡くなって1年後くらいの時期の話で、戦争に女性を動員させることもない時代だったので、状況的に見ても女性が存在しえない形でした。

 

――なるほど。そういうことだったんですね。やはり男性キャストばかりだと、撮影現場の雰囲気も、これまでの作品とはだいぶ違ったりするものですか?

 

監督:実は、その点については、私もすごく心配していたんです(笑)。女優さんが1人もいないですし、しかも40代以上の男たちが集まって、寒い平昌(ピョンチャン)で撮影をすることになる。だから、ひょっとすると現場の雰囲気が堅苦しかったり、重苦しかったりするのかなと思っていたんですが、それは全くの杞憂に終わりました。

 

――というと?

 

監督:むしろ、ほかの現場以上に楽しかったんです。中年の男たちも、これだけ集まると、おしゃべりになるんだなと思いましたね(笑)。

 

――ははは(笑)。イ・ビョンホンさんや、キム・ユンソクさんも、ということですか?

 

監督:ある意味、女性以上に本当によくしゃべるんですよ。だから、撮影がない時やカメラが回っていないときは、本当にみんなでいろんな話が出来て、ほかの映画の現場以上に楽しい撮影になりました。

 

――どんな話題で盛り上がっていたのか、とても気になります(笑)。とはいえ、冬の厳しい状況下での撮影は、精神的にも肉体的にもかなり厳しかったのでは?

 

 

 

監督:寒い時期に、外で撮影していたこともあり、常に寒さは苦労のもとでした。ただ、あまりにも寒すぎて、逆に寒さには慣れっこになってしまったので、実は寒くて大変というのは最初だけで……。むしろ寒く無くて大変だったということが多かったんですよ。

 

――へぇ~! それはちょっと意外です。

 

監督:寒い時期ではあったんですが、たまたま少し暖かくなってしまったことがあって、本来であれば雪があるべきところに、雪がなかったんです。雪を降らせるためのスタッフを撮影クルーの中に待機させて、雪が足りない時に人工雪を降らせて、背景をしっかりと雪景色にする必要があったのですが、それが本当に一苦労でした。

 

――そうだったんですね。

 

監督:あともう1つは、冒頭で船乗りが出てくる湖のシーンを撮影するときに、20センチ以上の厚さにならないと危険だから氷の上に乗れないことになっていたんです。でも私たちが現場に行った途端に気温が上がって氷が薄くなってしまい、1カ月くらい凍るのを待っていたんです。もしこのまま氷が厚くならず、撮れなくなったらどうしようと心配でした。

 

――一そんなに氷待ちをされていたんですね! まさに『天命の城』でとても印象的だったのが、船頭の老人が雪原の中で倒れて、真っ白な雪の上に徐々に血の海が広がっていく様を俯瞰で撮った、冒頭のショットだったんです。その後の構成もすごく緻密に練られているように見受けられましたが、撮影にあたり、やはり監督は相当アングルにこだわられたのでしょうか。

 

監督:撮影前にストーリーボードをしっかり作り込み、ディテールにこだわって、きちんと計画を立てながら撮っていったんです。なので、いざ撮影に入ってからは、ストーリーボード通りに撮影を行い、編集もその通りに。事前に自分なりに徹底的にこだわり抜いて、構図もしっかり決めてから撮った、という流れなんです。

 

――そういった撮り方をされたのは、今回が初めてですか?

 

監督:これまでも、ほぼすべての作品において、ストーリーボードを用意してきました。もちろん、現場に入ってから、状況に応じて変えていくこともあるんですが、基本的にはあらかじめストーリーボードをしっかりと作っておきますね。

 

 

■次ページ:今この時代に『天命の城』を撮った意義

 

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