独特の風貌と味のある演技で、いまや日本映画界に欠かせない名優として確固たる地位を築いている渋川清彦さんが主演を務める『榎田貿易堂』が、6月9日(土)より公開されました。

 

なんと2018年現在発表になっているだけで、10本もの出演作品が公開されるという「怒涛の渋川清彦year」の代表作であり、地元・群馬県渋川市で撮影されたことからも、渋川さんご自身ひと際思い入れのある本作。

 

「珍宝館」を巡る爆笑ネタから、「グダグダしている」という渋川さんに寄せて描かれる役柄への想い、そして知られざる(!?)改名に隠された意外なエピソードまで、たっぷり語っていただきました。

渋川さんと『榎田貿易堂』と故郷・群馬県渋川市

 

――本作では登場人物たちの「辞めどき」がテーマであるともいえますが、渋川さんご自身、これまでモデル・俳優として活動される中で、「辞めたい」と感じたことはありましたか?

 

渋川:もともとモデルもやりたくて始めたわけではないです。常に来た球を打っている感じでこれまでやってきたんで、あんまりガツガツはしてなかったかもしれないですね。俺の場合、脚本に書かれたものを理解して、それに応えるように現場に臨みました。

 

――そうなんですね。ちなみに、渋川さんって、あごひげを付けている役と、口ひげを付けている役があるじゃないですか。あれって、どういう風に演じ分けているんですか?

 

渋川:自分で提案していますね。とりあえず普段仕事が入ってない時は、ひげは転びがきくように伸ばしていて、それで成立するときはそのままでやっている感じです。あごひげだけの時はやっぱりちょっと若いイメージの時で、口ひげのときは年配の感じですかね。

 

――やっぱり、役によって使い分けているんですね。

 

渋川:そうですね。やらしい感じの役の時は、口ひげを細くしたら良い感じになり、もみあげの下を無くすと、もっとストリートな感じになるとか。一応伸ばしといて、監督に提案しながら進めてます。

 

――ずばり、今回の榎田役のポイントは?

 

渋川:なんとなく怪しさを出したくて、こだわりがある男っているじゃないですか? 口ひげともみあげだけは、「絶対こうしておこう」っていうような。そこでキャラクターが出る気がするんですよね。

 

――『榎田貿易堂』は、渋川さんの故郷の群馬県渋川市が舞台となっていますが、知り合いが出演されていたりもするんですか?

 

渋川:何人かエキストラで出ていますね。地元の後輩とか、うちの叔母ちゃんとかも温泉街の階段のシーンで出てます。

 

――そうなんですね! どことなく『お盆の弟』に通じるところもある気がしますが、主演作でこういった役柄が続くことについて、ご自身ではどのように思われているんですか?

 

渋川:現実的な話をすると、主演作でこういう役が来る理由としては、狩野(善則)プロデューサーがいたからなんです。狩野さんも群馬県の前橋出身で。事務所が違うのに何か面白がってくれて、俺に声を掛けて頂き、「群馬を盛り上げよう!」ってお金も出資して。なかなか出来る事ではないですよね。

 

――なるほど。そうだったんですね。

 

渋川:だから役のイメージが近いのかもしれないですね。『お盆の弟』の大崎章監督も群馬出身ですし、『榎田貿易堂』の飯塚健監督も(群馬県)渋川市出身で、高校どころか小学校も一緒ですからね。でも、話の内容は似ていても、作品的には『お盆の弟』と『榎田貿易堂』は全然違うと思います。大崎監督と飯塚監督は、そもそも畑がまったく違うから。

 

――そうですね。セリフのテンポ感からして、確かに全然違いますね。

 

渋川:うん。それは飯塚監督の独特のテンポ感なんじゃないですかね。ちょっとコントに近い感じもするじゃないですか。

 

――えぇ。

 

渋川:飯塚監督も、多分そういうのが好きだし。

 

――セリフを覚えるにあたって、あの掛け合いの絶妙な間は、どうやって練習されたんですか?

 

渋川:セリフを覚える時は、自分なりに「ここはこのテンポ感で行くんじゃないかな」ってなんとなく予想しながら、あとはもう現場で「やっぱりそう来たか!」っていう。

 

――具体的には?

 

渋川:例えば、昼に食べる弁当を指定するときのセリフで「俺、唐揚げ弁当~」は、こんな感じかなって予想し、実際その通りでしたね。

 

――事前にすり合わせをするというよりは、相手の出方によって、その場で作り上げていく感じなんですね。

 

渋川:そうです、そうです。ああいうところの滝藤(賢一)くんは、ホント抜群なんで!

 

 

――いやぁ、滝藤さん、本当凄いですよね~。「エキストラ、200人までなら一人でさばきます! 段取りの丈、萩原丈です!!」ってキレッキレのポーズ付きで、スーパー助監督っぷりを再現したり。

 

 

渋川:そうそう! あとやっぱり(伊藤)沙莉も若いのにすごく上手いんでね。

 

――ちなみに、すべて台本どおりですか?

 

渋川:基本的にアドリブはないですね。ほぼ台本どおり。たまに、直前に監督から感情面での演出が入ることもありました。

 

――例えばどんなシーンで?

 

渋川:最後の方の滝藤くんのセリフのところだったと思うんですけど、「ここで感情が一気に込み上げてくる」って監督から現場で言われて、「うわぁ、そこなんだ!」って、滝藤くんがちょっと焦っている感じは、傍から見ていてなんとなく伝わってきましたね。皆も「次は自分かも……」って身構えて。

 

――ネタバレになってしまうから詳しくは言えないんですが、ラストの滝藤さんのセリフって、この映画の本質的な部分だから、どんなテンションで言うのかって、すごく重要ですよね。

 

渋川:そうそう。滝藤くんのセリフでね、俺、好きな言葉いっぱいあるんですよ!

 

――実は私も、気になるセリフが沢山あって、片っ端から全部書き出してみたんです。ちなみに、渋川さんが好きなセリフはどれですか?

 

渋川:俺はね、いつもそういう風に言っているんですけど、根岸(季衣)さんと滝藤くんが温泉街の階段の途中で話しているシーンで……「あれ? もしかしてこれ、俺が監督に言ったのが使われてるのかな?」っていうのはありましたね。

 

――「俺、いま帰ってきてるんだけどな……」って、滝藤さんがボソッとつぶやくシーンですね!

 

渋川:そうそうそうそう! そこなんですよねぇ。だからね、俺いつもすごく意識的に言うようにしているんですけど、やっぱり地元には「帰る」って言います。

 

――東京には?

 

渋川:東京には「戻る」って言う。だから俺の居場所としては、地元(渋川)って意識的に言っているんですけど……。それ、監督に俺が言ったのかなぁ。

 

――なるほど~。

 

渋川:「帰る」と「戻る」の違いって、すごく細かいけど、なんか違いますよね?

 

――私は逆に東京出身なので、帰れるところがあっていいなぁって、いつも思っています。

 

渋川:あぁ、東京の人は結構そう言いますよね。

 

――もちろん、東京に対する想いは全然違うと思うんですけど、東京出身だと逃げ場がないというか、帰れる場所に憧れるんですよね。

 

渋川:でも、帰れる場所は実際あるじゃないですか! 東京にも。自分の生まれたところってことですからね。

 

――でも、殺伐としている東京より、渋川のロケーションの方が断然いいですよ。

 

渋川:確かに、イメージとしてはそうかもしれないですね。

 

 

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