「僕らの仕事って、撮影現場ではなくて、物語の中が職場だから」

 

――俳優って、何通りもの「名前」のついた人生を、ある一定期間だけ生きられる特殊な職業だと思うんです。でもその反面、津田さんのように本名で活動されていて、名前と顔がこれだけ多くの人に知られている方が日常生活を送る上では、「津田寛治」以外の人生を生きづらいのでは? という気がするのですが。

 

津田:そうならない程度に抑えていますね。電車移動出来なくなったら、もうダメだなと思っていて。

 

――普段、電車移動されるんですか?

 

津田:してますよ! 電車に乗れないとか、牛丼屋に入れないとか、そういう生活になったら、ちょっと危険信号だなとは思っていて。

 

――危険信号とは?

 

津田:やっぱり日常生活をちゃんと送っていないと、普通の人間を演じられなくなっちゃうと思うんですよ。車で送り迎えしてもらう生活だと、ほとんど道路からしか世の中を見ていない。自分の世界が、車の中の閉じられた空間でしかないっていうのは、ちょっと危うさを感じたりしますよね。

 

そうなってしまうと、どれだけみんながスマホを見ながら電車に乗っているのかとか、でも中には、たまに外をボーっと見ている人もいるよ、みたいな情報って、入ってこないと思うんですよ。そういう感覚と一生接していかないと、僕の中での俳優という仕事は成立しないような気がするので。街にひとりで出られなくなるくらいなら、ちょっと仕事のペースを落とした方がいい。

 

――津田さんって、本当にいろんな役を演じられているので、特定の色が付いていらっしゃらないのが、津田さんの特徴とも言えますよね。きっとあえてそうされていらっしゃる部分もあるとは思うのですが。

 

津田:そうですね。きっと本来、俳優はみんなそれがやりたいんだと思うんです。ただやっぱり、世の中のイメージを大事にされていて、お客さんを裏切ることが一番やってはいけないことだと思われているから。例えばアクション俳優だったら、そのイメージと違うことは、あまりやらないようにしていると思うんですよね。

 

やっぱりどうしてもお客さんって「待ってました!」っていうのが嬉しいから、そこで違うことをやられると「気持ちはわかるけど、見たいのはそれじゃないんだけど……」って思ったりする。でも俳優にしてみれば、いろんな役に挑戦したいというのが本音で、その気持ちをグッと抑えてやられている俳優さんというのも、世の中には沢山いるんです。

 

――なるほど。

 

津田:その人たちは、「俺に求められているのはこれだから、マンネリだけど俺はこれしかやらないよ」って。お客さんのことを一番に考えてやっていらっしゃるのは、立派だなと思うんですけれども。僕は運よく、どんな役をやっても許されるポジションに行けたので、こういうお芝居でやっていますけどね。

 

――それは、最初から意識されていたんですか?

 

津田:いや、それほど意識はしていなかったですかね。でも、最初から「いいのと悪いの」と両方やらせてもらっていました。

 

――「いいのと悪いの」とは?

 

津田:2時間ドラマの犯人役とか、ミスリードする役とか、気のいい同僚の社員とか。普通のサラリーマンとヤクザを両方やらせてもらえていた、っていう感じですかね。

 

――その両方だと、どちらが演じやすかったですか?

 

津田:やっぱり、ヤクザとかの方がタッチが付いているからやりやすいんですよね。普通の同僚役の方が難しい。でもきっちりこなすと、めちゃくちゃカッコイイ。名も無きすごい人は、そういうところで際立ちますよね。

 

――津田さんが演じる上で、一番大事にされていることとは?

 

津田:やっぱり、あまり積み重ねないことですかね。常に白紙に自分を戻していく勇気というか。

 

――そういう意味では、俳優はめずらしい仕事ですよね。世の中の大半の仕事は、蓄積していくことが求められるのに。

 

津田:そうなんですよ。だから俳優さん自身もやっぱり本当に怖くて。「被らない」とか「繋がりを覚える」とか、そういうことにどうしても頼るんですよね。

 

――テクニックに走る、ということですか?

 

津田:そう。「あの人は何回やらせてもピタッと同じ位置でセリフを言う」とか、「あの人は一字一句間違わずにしゃべる」とか。それですごいって思われる俳優さんもいる。でもそれはやっぱり、そういう技術的なことに頼らないと、続けていけない怖さがある。

 

本来なら、そういうことは全部度外視して、カメラがこっちにあろうが役者がどこに居ようが、どっぷり被って後頭部しか見せずにセリフをしゃべるときも、あっておかしくない。そういうことが出来る勇気をちゃんと持っていたい、というのはありますね。「何年選手だよ、お前」って言われようが、ちゃんと物語の中に居られるようにしたいんです。

 

――「物語の中に居る」とは?

 

津田:僕らの仕事って、撮影現場ではなくて、物語の中が職場だから。

 

――ほぉ~!

 

津田:もちろん録音部さんとか照明部さんとかは、撮影現場の中でどう上手く人とコミュニケーションをとりながら自分の表現をやるかが重要になってくるんだけど、役者は物語の中にどれだけ長く入っていられるかが勝負なので。そういう意味では、キャリアが邪魔してしまうこともありますよね。

 

――物語の中に入る経験というのは、普通の人には出来ない経験ですよね。どういう魅力があるんですか?

 

津田:そもそも僕の人生自体が、逃げ切りの人生で(笑)。逃げて逃げて、逃げまくってたんですよね。

 

――まるで(『名前』の主人公の)正男みたいですね。

 

津田:そうなんですよ! そこはまさに正男とダブるんですけれど、学校の生活とかが本当に生理的にダメで、いつも映画館に逃げ込んでいて。映画館の中で展開されるストーリーの中にどっぷり入っていたわけなんです。だから、物語の中に入った時に、自分の世界観が際限なく広がっていく感じが好きなんですよ。

 

――映画館の暗闇に身を潜めて、物語の世界にどっぷり浸かっていたのが、津田さんの原点になっているわけですね。

 

津田:そう。芸能界で考えると、めちゃくちゃ狭くなってしまうんです。だからバラエティに出られているタレントさんたちは、本当に大変だろうし、俺には無理だなと思ってしまう。あの細かい人間関係に気を遣いながら、プライベートでも先輩とかお世話になっている人たちを大事にしながら生きていくから、仕事が多分続くんだろうけど、それはやっぱりものすごく大変だし、僕にはその世界は狭すぎる。

 

でも、役者はそういうことが全然出来ない人でも、物語に入ることが出来る人であれば続くんです。自分がまだ出会っていない物語はいくらでもあって、その広大な世界に身を置いているんだって考えれば、この狭い芸能界でも生きていけるって思いますね。

 

――へぇ~! 物語の中には、ものすごく豊かな世界が広がっているんですね。

 

津田:そうですね。電車移動が好きなのは、車っていう箱の中に入ってスタジオに行って「芸能界」。でまた「芸能界」が終わると箱に入って、また別のスタジオに移動して「芸能界」。その繰り返しばっかりやっていたら、自分だったらアタマがおかしくなっちゃうなと思って(笑)。だから電車に乗って、いっぺん世の中に溶け込んだ状態で見渡せる時間がないと、ちょっとキツイなっていうのはありますね。

 

――社会との接点をちゃんと持っておきたい、というような?

 

津田:そう。人混みで肩がボーンと当たったら嫌な顔をされるとか、「あ、スミマセン!」って謝る瞬間とか。そういうのを持っていないと、世界が制限されちゃうんです。

 

 

■次ページ:「本当に止まっていたら何も始まらないっていうのは、ずっと思っていたんです」

 

関連キーワード
映画の関連記事
  • 周防正行監督待望の最新作『カツベン!』現場取材レポート!
  • 『ドント・ウォーリー』に宿るポートランド魂 ガス・ヴァン・サント監督来日レポート
  • 14年ぶりの来日!映画『パパは奮闘中!』ロマン・デュリスさんインタビュー
  • 観た人の心が軽くなるような映画を作りたい。『リアム16歳、はじめての学校』 カイル・ライドアウト監督インタビュー
おすすめの記事