7月7日(土)から公開中の映画『ルームロンダリング』。「ワケあり物件」に住み込み、前の入居者の起こした事故や事件の履歴を帳消しにして浄化(ロンダリング)する、主人公・八雲御子(みこ)を演じた池田エライザさんにインタビュー!

 

これまでのイメージを覆すような不思議な役柄と池田さんの意外な共通点や、スタッフ・キャストのこだわりがたっぷり詰まった撮影現場の裏側、そして雑誌で書評を担当するほどの本好きとしても知られる池田さんにとって、欠かせない「本」と「友だち」との素敵な相関関係まで、たっぷりとお話を伺ってきました。

 

「初めて出来た友だちと会えなくなる感覚って、こんな感じなのかな」

 

――『ルームロンダリング』は事故物件や死など物騒とも思えるテーマがポップに扱われながらも、家族の絆や亡くなった人々の未練がすごく繊細に描かれている作品ですよね。これまで池田さんが演じられてきたような、フェミニンだったりアクティブだったりする役柄のイメージとは少し違ったんですけれど、この映画に関していえば「御子ちゃんそのもの」だなと思って拝見していました。

 

池田:ありがとうございます。

 

――この役柄に決まった時の心境と、台本を読んだ時の感想を教えていただけますか?

 

池田:最初に台本を読んだ時から「悟郎さんは、絶対オダギリさんがいいな」って、ずっと思っていました。ちょうどフィリピンの母の実家で久々に家族と会って、自分でもいろいろ思うところがあったタイミングで『ルームロンダリング』の台本をいただいたんです。

 

「幼いころに両親がいなくなってしまった」という、自分とはまったく異なる家庭環境で育った御子ちゃんを演じる上で、これまで読んできた本や人に聞いた話、自分が想像できることでどんどん補っていくことは、確かにプレッシャーではありました。でも、基本的にはプレッシャーが大好きなので、迷わず「この役は絶対に私がやりたい!」って思いましたね。

 

 

――とはいえ、御子ちゃんには「幽霊が見える」という不思議な能力があるなど、かなり難しい役どころだと思うんです。役作りにあたって何か意識されたことはありますか?

 

池田:現場に入るまではまったく想像がつかなくて、「幽霊は怖いな」って漠然と思っていたんですけど、渋川さんや光宗さんたちが目の前にチャーミングな幽霊として現れて来てくださったので(笑)。しかも、光宗さん演じる悠希には「見た感じ、化粧道具とかも無いみたいだけど」って、化粧っ気がないことを怒られちゃう。

 

――確かに。御子ちゃん、幽霊からお説教されていましたね。

 

池田:そうなんです。そんな風にみなさんが思い思いに幽霊を演じてくださっていたので、「幽霊が見えるってどんな感じなんだろう?」というよりは、目の前に現れる人々がそれぞれ生きていた頃に思うことがあって、亡くなってからもやりたいことがあったりして、本当にふとした瞬間に「あ、この人は生きていないんだな」と思っていました。

 

――渋川さん演じる公比古が、コップが掴めなくてお酒が飲めないとか、悠希がタバコが吸えないとか。

 

池田:コミカルな部分でもどこか切ないところが、お化けだからこそなのかなって思うんです。だからこの作品を経て、「お化け怖い!」って簡単に言えなくなったというか。お化けと呼ばれるものも、そもそも(元は)人として生まれてきた存在なんだなって思うようになりました。

 

――御子ちゃんを演じるにあたり、片桐監督からはどのような演出を受けられたんですか?

 

池田:演じるのではなくて、「エライザがもともと持っているスローなテンポのままでいいよ」とか「ゆっくり(周りの人たちに)影響されて行けばいいんじゃない?」とか。監督とは撮影中にかなり擦り合わせをさせていただきましたね。

 

――女優として求められる表現が、ほかの作品とは違ったりしませんでしたか?

 

池田:『ルームロンダリング』は説明的に話すセリフが何ひとつないので、頭の中で考えていればいいというか。不満とか怒りとか、普通は口に出して言わないようなセリフは、御子ちゃんも言わない。たまにブツブツ言ってはいるんですが(笑)。

 

大事なことは考えたり、ただジーっと見ていたりとか。それが御子ちゃんだと思うので「御子ちゃんの一番近いところに居る」ということだけを考えて演じていました。この作品は、「御子ちゃんが新しいものに触れて、新しい感情を知って、そこから0.5歩だけ前に進む」っていうお話なんです。

 

――確かに! 私も「御子ちゃんの成長物語だな」と思いながら拝見していたんです。0.5歩どころか、かなり前進したように見えたのですが、実際に池田さんご自身がこの現場を通じて「成長できたな」と思われた部分はありますか?

 

池田:みなさん台本をかなりしっかり読み込んで現場に来られていて、KEE(渋川清彦)さんに至っては「津軽弁のパンクス」役なので、自分に沁み込むまで何度も何度も練習していらっしゃって(笑)。「主演なんだけどな……」と思いつつも、本当にセリフが少なかったから、なんだか申し訳なくて(笑)。

 

 

――ははは(笑)。

 

池田:それぞれ違う形ではあったのですが、共演者のみなさんがこの作品にかけてくださるパワーが、本当にすごかったんです。光宗さんも、あざだらけになりながら「これがリアルだから」って演じ切って。健太郎くんも、実際はあんなに女性から人気があるのに、シャツとか半分はみ出ているような、なかなか普段見られないような姿を見せているし。

 

それぞれが『ルームロンダリング』の世界に飛び込んで、ちゃんとそこに生きている人として居てくれたっていうことがすごく幸せで、感謝してもしきれないなって思います。主演だからこそ、みなさんが現場に持ってきてくださる熱意に触れて「もっともっとしっかりしなきゃな」とか、自分の未熟さに焦ったりすることもありましたけど、ただ単に焦って終わりじゃなくて、誠心誠意やれたのかなと。

 

――「座長」として、ちゃんと現場を引っ張っていかれたんですね。

 

池田:いやいや、だいぶ先輩たちにはお世話になりましたけどね(笑)。周りの役者さんたちが、いろんな竜巻を起こしていく中で、御子ちゃんはアワアワしながら、自分の知らない感情が芽生えてくる。それに戸惑いながら、ちょっとずつ人間らしくなっていく過程を演じるのは、私自身もすごく楽しかったですし、「初めて出来た友だちと会えなくなる感覚って、こんな感じなのかな」って思ったり。

 

でも、御子ちゃんにとっての悟郎さんみたいに、もし自分と友だちを引き離す人も自分にとって大事な人だったら、どのくらい不器用になっちゃうんだろうな……とか。そういう部分は、観ている人たちにも「あるある」と思ってもらいたくて、なるべく現実に近いところで葛藤したというのはありますね。だから単なる映画の中だけのエンタメとして演じるというよりは、「与えられた環境の中で目一杯生きる」みたいなことに、こだわって演じていたのかもしれません。

 

――あえて池田さんと御子ちゃんの共通点を挙げるとするなら?

 

池田:う~ん。私生活は御子ちゃんと、ちょっと近いところがあるというか。「意外とみんなそんなものなんじゃない?」って思います。

 

――「そんなもの」とは?

 

池田:「お休みの日って、お家でレトルト食べません?」とか(笑)。何も嘘はついていなくて、お風呂の中で本を読んで、お風呂上がりに水を飲んで。ごく普通の日常を過ごしていたところに、(お化けの)ゲストがたびたび現れるっていう(笑)。そういう感覚で演じていたので、自分からかけ離れた役柄という訳ではなくて。

 

――なるほど。

 

池田:私自身は、お仕事でいろいろ向き合わなきゃいけないことが多い中で生きているけれど、御子ちゃんの場合は、地球が一つの乗り物で、自分が動かなくても勝手に回ってくれるし、時間は勝手に進んでくれて、考えると苦しいから目を背けて考えなくなっちゃったところから始まっている。映画の冒頭も「神様は不公平だ」っていうセリフから始まるんです。でも、意外とのらりくらり生きているよっていう、すごくリアルなところもあって。

 

だから「母親がいなくなって辛い」「誰ともコミュニケーションが取れなくて苦しい」というところから始まるというよりは、コミュニケーションは取れなくても、自分が与えられた部屋は、自分が好きなようにしている。ちょこちょこ悟郎さんに対して不満はあるけれど、御子ちゃんにとって悟郎さんは「ワガママで居させてくれる存在」というか、内弁慶で居られることが彼女にとっての「甘える」ということだと思うんです。そんなに苦しんで生きていないところが、リアルなのかなって。

 

――御子ちゃんの、どこか影のあるトローンとした眼差しも、すごく印象に残っています。

 

池田:『ルームロンダリング』をコミカライズされた羽生生(はにゅうにゅう)先生は「ドロッとしている」っておっしゃっていました。トローンとしていて影があるって、「ドロッとしてる」ってことですよね(笑)。

 

でも、照明部の方が閉鎖的な環境の中における自然な光を生み出してくださったからこそ、光があまり入っていない瞳になったと思いますし、録音部の方が小声でも細かい息遣いを逃さずに録ってくださったからこそ、御子ちゃんがポソポソしゃべっているセリフにも、ちゃんと気持ちがノッているんだと思います。

 

本当にいろんな方が全力で御子ちゃんを捉えてくださったからこそなんです。右から撮ったら「ちょっと不細工」で、左から撮ったら「ちょっと女の子らしくなる」っていうのも踏まえて、御子ちゃんが恋した時は左から撮ってくださったので、「神様~!」って感じでしたね。

 

――スタッフのみなさんのこだわりも、すごく感じられた現場だったんですね。

 

池田:そうですね、愛情をすごく感じました。御子ちゃんが着ている衣装も、ちゃんと悟郎さんとも色味が合うように考えて、衣装部の方が古着をさらに染め直して持って来てくださったんですよね。映画の世界観も「赤と緑」って決めていて。髪の毛と靴が黒で、キュッと締まっているのも、御子ちゃんの「ちょっとロックで内弁慶」なところが出ている感じがします。

 

――御子ちゃんが転々とする部屋のインテリアも、すごく可愛らしくて。

 

 

池田:そうなんです! 美術部の(井上)心平ちゃんが……って、そんなにお会いしたことないんですが(笑)。初めて御子ちゃんのお部屋を見たとき、思わず「ここだぁ!」って震えました(笑)。このちっちゃいちゃぶ台で御子ちゃんが背中を丸めて絵を描いているのも『ルームロンダリング』ならではの世界で、きっと自分でもそこにちゃぶ台を置くだろうなって納得できましたし。

 

カーテンを布で合わせるとか、コンパクトに荷物をまとめる工夫がすごくて、カバンも「絶対これが良い!」って、衣装合わせのときに選ばせてもらったんです。

 

――ガラガラ引っ張るスーツケースが、御子ちゃんのイメージにピッタリですね。

 

池田:ファスナーよりも「パカッ」て開ける感じがいいなと思って。そこから大事そうにスケッチブックを出したり、色味も最高なんですよね。私、ポスタービジュアルも、プレスシートのデザインも大好きで。きっと『ルームロンダリング』って、どこを切り取っても可愛かったんだろうなって思います。パソコンのデスクトップにしたくなるような可愛い瞬間が沢山あって(笑)。

 

ザルの上に猫をのっけたりとか、片桐監督がもともと持っている感覚なのかもしれないですが、サウンド的にも3拍子の曲が流れていたり、統一された世界観が『ルームロンダリング』の可愛いポイントなのかなって。

 

――ちなみに、映画の中で御子ちゃんはガラケーを使っていますよね。特に時代設定がひと昔前、というわけでもなさそうだったので、ちょっと気になって。

 

池田:(通信料が)ガラケーの方が安いんですよ! 調べたいことがあったら、ネカフェ(ネットカフェ)に行くからガラケーで十分なんです。

 

――なるほど。だからスマホじゃなくても良いんですね!

 

池田:部屋の中でスマホをいじり始めたら、多分もっとひねくれていると思います。

 

――確かに! ずーっとスマホだけやってそうですね。

 

池田:そう。ネットニュースにかじりついて「怪しぃ~」とか言っていると思います。そもそもスマートフォンに替えるきっかけが別にないんです。悟郎さんからしか、電話もかかって来ないので(笑)。

 

――あはは(笑)。そう言われてみると確かにそうですね。それはそうと、『ルームロンダリング』で最初に出てきた幽霊が、手首が「パカッ」と折れる公比古で本当によかったです。もしこれが、御子ちゃんがスケッチブックに描いていた80代で孤独死したドロドロのお化けだったら……と思うと。

 

池田:貞子もびっくりな感じですよね。夏だからギリギリ許されますけど(笑)。レンタルショップに置かれるコーナーが、確実にホラーの棚に変わりますね。私、『ルームロンダリング』に関しては、映画館でクスクス笑いながら観て欲しいなと思っているんですけど、どこで笑いが起きるんだろう?

 

――ハグムくんとのやりとりも最高ですよね。御子ちゃんの普段とは違った一面が出るのも面白くて。

 

池田:そうなんですよ。小学校の時に交通事故に遭ったから、あの見た目で実は20歳の設定なんですけど、まだ舌ったらずなのも可愛くて。

 

――ちなみに、池田さんご自身には霊感はありますか?

 

池田:「ない」って言いたいんですけどね……。結構、家族とかがよく「見える」って言うので、「(霊感が)開花しませんように!」って(笑)。周りが「見える」っていうたびに忍び寄って来ているような気がするんですけど、「まだ大丈夫だよ!」って言い聞かせていますね。

 

でも、もし幽霊が居たとして、どうしても話したいことがあって私を選んでくれたのであれば、それは邪見に扱ったらいけないなって思うんですけど、「そういうことを考えている人に憑りつくよ」って言われるから、自分の中ではそこが悩みどころです。

 

――『ルームロンダリング』にちなんで、池田さんにも帳消ししたい過去はあったりしますか?

 

池田:世の中に出回っている自撮りという自撮りを全部消したいですね。

 

――それは何故?

 

池田:人っていろんな時期があるじゃないですか。自撮りをしていた当時はJKだったんです! いまはもう22歳なので! 勘弁してください(笑)。

 

 

■次ページ:「本に対して私が一方的に想いを向けることはできるけど、本とは共鳴できないから」

 

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