7月14日(土)から公開のドキュメンタリー映画『子どもが教えてくれたこと』。本作に登場するのは、アンブル、カミーユ、テュデュアル、イマド、シャルルという年齢も住む場所も異なる5人の子どもたち。

 

深刻な病を患っているにも関わらず、ポジティブに暮らす彼らが発する言葉や生き方は、日々ささいなことに思い悩む私たちに「今を生きることの大切さ」を教えてくれます。このたびSWAMP(スワンプ)では、「フランス映画祭2018」に合わせて来日したアンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督にインタビュー。

 

自らも娘を病気で亡くした過去を持つジュリアン監督が、この映画制作を通じて子どもたちから学んだ「人生哲学」の数々を、じっくりと伺ってきました。フランス語通訳は、人見有羽子さんです。

 

「悲しかった時を忘れるくらい、長い時間生きてくれたらいいな」

 

――今日は監督にささやかなプレゼントをお持ちしました。この映画を観て、子どもたちから教わったメッセージを扇子に書いてみたんです。

 

監督:わぁ! ありがとう。なんと書いてあるんですか?

 

――「一期一会」ということわざで「一生に一度の機会だと思って、いま目の前にある、この瞬間を大切にしましょう」という意味なんです。それは彼らが病気だからというわけではなくすべての人に言えることで、「何が起きるかわからない」という意味では、みんな同じ条件だと思いました。

 

▲監督へプレゼントした「一期一会」と書かれた扇子。

 

監督:この映画の神髄を理解してくださって、とても嬉しいです。

 

――この映画の邦題は『子どもが教えてくれたこと』。まさしく「子どもからしか学べないことが沢山詰まっている映画であると感じました。監督ご自身の体験を綴られた『濡れた砂の上の小さな足跡』という本も読ませていただいたのですが、壮絶な体験に胸が締め付けられたんです。難病でお子さんを2人も亡くされた監督が、こんなにも優しい映画を撮られた理由を伺いたくて。

 

監督:私自身、子どもを亡くした経験があるからこそ、この映画が撮れたんです。もちろん私にそういった経験があるから、こういった内容の映画を撮る資格があるわけではなくて、その試練の周辺にあったことを、私が経験していたから撮れたのだと思います。

 

――動脈性肺高血圧症を患っているアンブルには、お姉ちゃん(リリー)がいますが「アンブルの病気を理解できるようになったのは最近なの」「誰かに(アンブルが背負っている薬剤入りのポンプの入ったリュックの)中身を聞かれたら『本人に聞いて』と答える。私の答えでアンブルが傷ついたら嫌なの」と語るやさしさに胸を打たれました。

 

監督:この言葉の重要性に気づいてくれてすごく嬉しいです。私があのシーンで一番伝えたかったのは、リリーがインタビューに応じている間、隣にアンブルが座っていたということ。私たち大人は、病気の子どもを目の前にすると、どういう風に接していいのか分からなくなるんです。リリーは私たちがどういったポジションであるべきかを、ちゃんと代弁してくれていますよね。

 

 

――病気の子どもたちが自らの病気を受け入れ、悟っているかのような雰囲気を身にまとっていたのが、とても印象的でした。もしかすると、彼らの身振り手振りが大人びているのは、病院の先生たちの仕草を真似しているからなのかもしれない、とも思ったんです。

 

監督:小児科の病院の先生たちは、子どもたちに与える影響力について、ものすごく考えながら接しているんです。でも、確かにイマドやテュデュアルの表情や仕草は、大人顔負けの部分もありますよね。

 

――子どもたちに詳しい病状を告知して、治療方針への同意書に子どもが自分でサインをするというのは、あまり日本では見られない光景です。フランスでは、それは一般的なことなのでしょうか。

 

監督:たとえ子どもであっても、ひとりの人間として対等に接するというのは、近年フランスで増えつつある傾向といえるかもしれません。でもだからといって、大人とまったく同じように扱うというわけではなく、子どもに話しをする上で、より分かりやすいシンプルな言葉を使うように最大限の配慮はしています。

 

――日本人の感覚からすると、治療方針を子どもに自分の意志で選択させるのは、少し酷なような気もします。

 

監督:もし子どもが理解できないような専門的な医学用語を連ねたとしたら、それは酷かもしれません。でも、病気は彼らの人生における現実なんですね。もちろん、誰も彼らを傷つけようと思って言っているわけではありません。私からすると、事実を隠して「大丈夫だよ」とごまかす方が残酷だと思います。あくまで彼ら自身の身体に起きていることなので、「どこがうまく機能していないのか」しっかりと理解することが大切です。

 

なので、もちろん言葉選びには気を付けるべきですが、ちゃんと誠意をもって話せばまったく酷なことではありません。例えば、腎臓移植の方法について、イマドが自分の言葉で説明するシーンがありますよね。「ぼくは平気だけど、あなたには大変かもね」とユーモアたっぷりに話すシーンです。それはいわゆる正しい手術方法ではないのですが、子どもが自分の頭で理解できるレベルで、納得して手術を受け入れることが大切なのではないかと思います。

 

――子どもたちが時折口にする、哲学的な言葉に驚かされました。特に印象的だったのは、テュデュアルが庭で唐突にニワトリについて話すシーンです。監督はいったいどうやってあの言葉を引き出されたのでしょうか。

 

監督:子どもって、本当にすごいんですよ(笑)。最初は面接みたいに室内で向き合ってカメラを回していたんです。そうしたらテュデュアルが突然「子どもっていうのは、何か別のことをしながらじゃないと話しにくいものなんだよ。分かった?」って言い出して(笑)。私の方が子どもに演出方法を教わったんです。それから彼に「庭においでよ!」って誘われて、苗を植えながらあんなに深い話を彼がし始めるなんて、まったく予想していませんでした。

 

彼は近くにいたニワトリを指さして「あのオンドリはメンドリが死んじゃってから、ちょっと鬱っぽいんだよ」「いまは悲しいだろうけど、その悲しみを忘れるくらい(オンドリが)長生きしてくれるといいな」と言ったんです。私はその言葉の意味の深さを、少しあとになって思い知りました。私が感銘を受けたのは「愛したメンドリのことを忘れるくらい」ではなく、「悲しかった時を忘れるくらい、長い時間生きてくれたらいいな」と彼が言ったことなんです。

 

もちろん普通の子どもでも、頭の中で考えていることは沢山あるとは思います。でも、いざそれを言語化するとなると、なかなかハードルが高いのですが、この映画に登場する子どもたちは、自分が感じたことをちゃんと言葉に出来るんです。

 

――それは何故だと思われますか?

 

監督:もともとこの子たちは普通よりちょっとおしゃべりで、自由に発言する子たちではあるんです。でも、病院という環境では大人と子どもの境界線があまり明確に引かれておらず、いわば彼らはすごく解放されている状態であるともいえます。だからこそ、彼らはより一層自由に発言できるんじゃないかと思います。

 

――彼らは日常的に友だちの死と接する機会が多いから、幼い頃から老成しているのでないかと感じたのですが。

 

監督:彼らがほかの子どもたちより、頻繁に死に直面しているというわけではないんです。でも、彼らにとって「死」は抽象的なものではなくて、少し悲しいですけれど、すごく具体的なものとして受け止めているということは、言えるかもしれませんね。映画の中でも「友だちが死んだら長い間悲しい気持ちになる。でもそれは不幸とは違う。自分次第で幸せになれるんだ」とテュデュアルが話していましたよね。

 

――確かに、そういう実体験がニワトリの話にもつながるのかもしれません。

 

監督:そうだと思います。彼らは頭の中で発想したことを、自由に発言しているんです。カミーユなんて、まだ5歳半くらいの小さな子どもなんですが、彼が「死んだらもう病気じゃなくなる」と言った時、私はすごくショックを受けたんです。でも、そのあとで「やっぱり彼の言っていることは正しいのだ」と理解しました。

 

――その言葉を聞いて、お母さんが思わず彼を抱きしめますね。イマドが「(腎臓移植をすれば)病院にも来なくてよくなるから、パパを疲れさせなくてすむ」とお父さんに言うシーンにもグッときました。「平気さ、パパの役目だから」「役目だけど疲れるでしょ。慣れているだけだよ」と言う彼が愛おしくて。

 

監督:そうなんです。撮影しながら、私もそう感じていました。

 

――劇中に流れる「Mistral gagnants」という歌の歌詞がとても印象的だったのですが、この曲はフランスでは有名な曲なのでしょうか。フランス語の原題(『Et Les Mistrals Gagnants』)も、この曲にちなんでいるようですが。

 

監督:フランス人なら、老若男女みんなこの歌を知っているんです。子ども時代の思い出を歌っている曲なんですが、これを映画のタイトルにした理由は、この文字を見ただけで「子ども時代の話なんだな」というのが分かるし、自分の幼少時代のことをちょっと立ち返るように促してくれるんですよね。永遠のロングセラーとも言うべき歌なんです。

 

――監督はこの歌をモチーフに、本作を撮ろうと思われたのですか?

 

監督:それは全然違います。映画の資金を調達するための企画書を書きながら、この歌をずっと口ずさんでいたんです。自分でも最初は気づかなかったんですが、ある時ふと「あ、そうだ! この映画と同じテーマを語っているんだ」と気づきました。

 

――なるほど、そういうことだったのですね。この映画はドキュメンタリー作品ですが、監督はこの映画の完成形を、最初からイメージ出来ていたのでしょうか。

 

監督:当初私がやりたかったことは、かなり忠実に表現出来ているんです。この映画は「生きるということ」について語っていますよね。子どもたちは、私の期待を遥かに越えてくれました。彼らが私たちに教えてくれたことは、まったくもって大人が予測できることではなく、まさしく、彼らにしか言えない言葉だったんです。

 

 

いかがでしたか。撮影中は、子どもたち一人ひとりに撮影監督が付き、彼らが自然体でいられるよう配慮しながら、カメラを回していたそうです。ときには弱音を吐くシーンもカメラに収めることで、大人でも辛い治療を頑張って乗り越えている彼らの日常が、ありのままに伝わってきます。

 

ジュリアン監督がこの作品に込めたメッセージを、ぜひスクリーンでひとりでも多くの人に受け取っていただけたら嬉しいです。

 

『子どもが教えてくれたこと』概要

 

『子どもが教えてくれたこと』

 

監督・脚本:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン

出演:アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル

2016年/フランス/フランス語/カラー/80分/ヴィスタサイズ/DCP

配給:ドマ

 

公式HPkodomo-oshiete.com

 

7月14日(土)より、シネスイッチ銀座 ほか全国順次公開

 

 

(c)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

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