『友罪』や『64-ロクヨン-前編/後編』といった社会派ドラマから、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』といったラブストーリーまで、幅広い作品を次々と生み出し続ける瀬々敬久監督が、30年以上もの歳月を費やして実現したオリジナル企画『菊とギロチン』。

 

大正末期の関東大震災直後の混沌とした日本を舞台に、かつて実際に興行されていた「女相撲」の一座と、実在したアナキスト・グループ「ギロチン社」の青年たちが、時代に翻弄されながらも自由を追い求めて闘い続けた姿を描いた傑作青春群像劇です。このたびSWAMP(スワンプ)では、瀬々監督と「ギロチン社」を率いる中濱鐵役を演じた東出昌大さんに、撮影に至るまでの驚くべき背景から、「瀬々組」の舞台裏、そしてお互いが思うそれぞれの魅力について、たっぷりとお話を伺ってきました。

 

インタビュー中、東出さんから瀬々監督宛に質問が飛び出すなど、アナーキーな映画にふさわしい展開となっていますので、ぜひ最後までごゆっくりお楽しみください!

 

「いつかこの企画だけはなんとしても実現したい」という切実な想いが、自分の中にずっとあったのだと思います。

 

――『菊とギロチン』は構想30年という、もはや執念とも言える想いで実現された企画だそうですね。監督がこの企画に対して長年モチベーションを維持してこられた原動力は、いったいどのあたりにあるのでしょうか。

 

瀬々:30年前、僕はピンク映画の助監督をやっていて、その後ピンク映画の監督になるわけですけれど、それ以前の10代の頃から「映画を作りたい」という強い想いがあったんです。当然そこには「何かを変えたい」という想いもあって、そこがこの映画に出てくる「ギロチン社」とも繋がるわけです。かたや「女相撲」というのは、どうしてもエロ目線で見られるところもありますよね。劇中にも花菊が夫に「よしんばエロだって何が悪い」と啖呵を切るシーンがありますが、エロ(を売りにする)という目的もありつつ、そういった場所で自己実現しようとして闘っている女たちの姿が、当時自分が携わっていたピンク映画の仕事とオーバーラップする部分もありました。

 

いまでもピンク映画は一段下に見られる風潮があるけれども、映画の前ではどんな映画も平等だと自分では思っていて、そういった意味でも「いつかこの企画だけはなんとしても実現したい」という切実な想いが、自分の中にずっとあったのだと思います。

 

――今回、まず目に飛び込んできたのが、赤松陽構造さんが手掛けられた『菊とギロチン』の題字だったんです。文字を見ただけでも、気合の入り方が尋常ではないことが伝わってくるのですが、映画の中にも2回登場しますし、しかも2度目は「赤」だったことに驚いて。

 

瀬々:赤松さんは『山谷 やられたらやりかえせ』という、監督が2人亡くなったことでも知られるドキュメンタリー映画の製作委員会もやっているので、実際にすごく「ギロチン社」と近いところに居た方なんだと思うんですよ。東出くんが演じた「ギロチン社」の中濱鐵たちも、日雇いの人たちと結託して同盟を作ろうとするけど拒絶されて、夢破れてその後孤独になって復讐めいたことを唱えていくという背景があるんです。「変革」と言ったら大げさかもしれないけど、「世の中を変えたい」という想いや、赤松さんがよく口にする「文字というのは自由であればいい」という気持ち。

 

そういった、赤松さんご自身が持っているアナーキズム的な意識というのが、この映画を彼が応援してくれた大きな要素だったのではないかと思います。『菊とギロチン』という映画は、まさに個人と個人の想いの集積が、ひとつの形になった映画なんです。そういった意味では、赤松さんの立場から発してくださった「想い」というものが、この映画に力を与えてくれているとも言えますね。

 

――タイトルが2回登場するというのも、とても大きな意味がある気がします。

 

 

瀬々:『菊とギロチン』という言葉の意味合いが、1回目と2回目で変わればいいな、とは思っていて。最初の『菊とギロチン』の方は当時の日本社会を表しているような言葉なんですね。でも、それには少し反発も含まれている。一方、2回目に出てくる『菊とギロチン』の菊には「花菊」の菊の意味もある。そういう意味ではすごく個人的な想いが現れていて、エモーションの高さがあるタイトルに変わるんです。その変質がいいなと思ったんですけどね。

 

――あのシーンの上に、赤い文字で『菊とギロチン』が載ることで、この映画がより一層特別なものになる気がしました。東出さんはどのように感じられましたか?

 

 

東出:いまの監督の話を聞いているだけでも鳥肌が立つくらい、これまで観た映画であそこまでエモーショナルなタイトルの見せ方っていうのは、あまり無かったように思います。(古田大次郎役を演じた)寛 一 郎とはずっと一緒に芝居をしていたんですけれど、あのシーンで「バッ」とこみ上げるものがあって、僕も観ながら泣いたので。「すげーなぁ」ってビックリしましたね。

 

――東出さんは『菊とギロチン』の現場には、どのようなモチベーションで挑まれましたか?

 

東出:『菊とギロチン』は、クラウドファンディングで資金を集めた作品ということもあって、制約が少なく、「こんなセリフ普通は言えない」っていう、その「普通」をぶっ壊そうとするところに作品の魂を感じたので、それはすごく嬉しかったですし、役者としてのモチベーションにも繋がりました。

 

――「瀬々組」に参加されて、印象に残っていることはありますか?

 

東出:さきほど監督がおっしゃっていた「エモーショナル」という言葉ですね。監督が役者を信じてくださることで、のびのび演じてエモーショナルに達するときもあります。

 

台本のセリフが本当に素晴らしかったです。また、監督からなにか直接言われるわけではないんですけれども、撮影前にワークショップが沢山あって、各々のキャラクターを掘り下げる勉強会も行われたので、現場に入るときには、それぞれが役に成りきっている、という状況でしたね。

 

ちなみに、別の映画監督から訊いた話なんですけれど、監督の演出方法には「小津タイプ」や「溝口タイプ」というのがあるそうです。「小津タイプ」は、「落ち込んでいる人間」のバックショットを撮るために、足元に障害物を置くそうで、それをよけながら歩いているだけで、落ち込んでいるように見えるから。でも、瀬々監督の場合は、目を血走らせながら「おう、よし、行くぞ!」みたいな感じで、役者の気持ちを信じてくれるところが出発点だから、役者としてはやっぱりすごく嬉しいんですよ。

 

 

――東出さん演じる中濱鐵が、浜辺で十勝川(韓英恵さん)の告白を受けて土下座をするシーンがとても衝撃だったのですが、あのシーンを瀬々監督はどのように演出されたのですか。

 

瀬々:海がギリギリ映るような「薄暮」と言える時間帯は一瞬しかないので、引き画は長廻しでほぼ一発で撮っているんです。もちろんそのあとに寄りの画は撮ってはいるんですが。韓英恵さん自身、お父さんが韓国人なんですけれど、ご自分の人生を十勝川に投影していたから、「自分が言いたいセリフに変えてもいいですか」という提案があって。彼女はお祖母ちゃんの影響を強く受けているみたいで、やはり民族的な関係性の中で「自分はこうありたい」ということを痛切に思っている部分はあると思うんですね。そういったものがすべてあの中に込められていて、東出くんはそれに反応していくというか。ある種、生っぽい感じがすごくしましたね。ドキュメンタリーっぽいというか、それがすごく良かった。

 

――東出さんは、どのような気持ちで演じられたのでしょうか。

 

東出:あのシーンは一言一句、台本のままというわけではなく、監督が韓さんに任せた部分が大きかったです。だから対面する僕としては、彼女から紡ぎ出された言葉をそのまま聞いていればよかったので、すごくお芝居がやりやすかったんですね。役者としては、監督からそういった機会を与えていただけるのは嬉しいです。監督が十勝川を、また鐵を、「信じてくれた」ということだと思うので。

 

――なるほど。

 

東出:ちょっと話が脱線しちゃうんですが、僕、監督にお聞きしてみたかったことがあって。

 

瀬々:ははは(笑)。脱線やな~。

 

東出:撮影って、例えば浜辺のシーンの場合、まず引きの画を一発撮ってから、今度は同じシーンの寄りを撮ったり、編集でも何十回と同じシーンを確認したり、繰り返す訳じゃないですか。

 

瀬々:そうだね。

 

東出:僕は、子どもの頃に缶蹴りをしていて、鬼が遠くに居るから「缶が蹴れそうだ!」って思いながら、缶に向かって走っている瞬間が子ども心にものすごく楽しかった記憶があるんです。そのとき僕が感じた「純粋に楽しかった瞬間」を味わえる、「童心に返れるくらい楽しい瞬間」って、映画制作の現場にもあるものなんですか?

 

瀬々:童心に返れるくらい楽しい瞬間?

 

東出:「いま最高に楽しい!」っていうゾーンに入っているような。

 

瀬々:「楽しい!」っていうのとはちょっと違うけど、でもやっぱり現場は面白いよね。目の前で初めて俳優部の芝居が観られる瞬間。そういう意味では、映画制作の中で、やっぱり撮影が一番面白いんじゃないかな。

 

――ちなみにいまの東出さんにとって、子どもの頃の「缶蹴り」に相当するものとは?

 

東出:もし撮影で「缶蹴り」のシーンがあれば、まさに缶に向かって走って蹴るっていう瞬間が、一番楽しいんだとは思うんですけれど(笑)。テロリストだったり、世を憂う青年だったり、自分の出自を呪ったりする役の時は、撮影中は本当に苦しいんです。逆に男ばっかりで馬鹿話をしているような現場のときは、撮影の合間もくだらないことを言い合ったりすることもありますが。でも僕はまだキャリア7年目だから、瀬々監督のように30年間ずっと情熱を持ち続けられるのか……。

 

瀬々:あっという間だよ! ははは(笑)。

 

――そう考えると、ちょうど東出さんが今年30歳ですね。20代から30代にかけて心境の変化もいろいろあると思うのですが、そういった部分が仕事にもプラスに働いていると実感されることもありますか?

 

東出:それはあるように思います。でも、与えられた台本と役柄は、必ずしも「東出昌大と同じ」というわけではないので、自分(の経験)には無いところを補填して行く必要がある。だから役に「近づけたかな」って感じるときもありますけれど、やっぱり日々勉強だなって思いますね。

 

――瀬々監督から見た、東出さんの魅力とは?

 

 

瀬々:隣に本人がいるところでは言いにくい話だなぁ(笑)。東出くんには、実は男っぽいところがあるんですよ。それは役柄ではなくて、個人的なご本人のキャラクターの部分ですけれど、男子っぽいところがすごくあって。『クローズEXPLODE』の不良役を観たときに確信しました。「(不良役が)様になってるなぁ。カッコイイなぁ。これだったら中濱鐵も出来るな」と思ったところもありますし、僕の中では東出くんと中濱鐵には、実は素の部分で似ているところが大きくあると思いますね。それこそが彼の大きな魅力ですね。

 

――30年かけてご自分の想いを貫かれるにあたり、数々の困難に見舞われたこともあると思うのですが、それを乗り越える上で支えになっていたものは何ですか?

 

瀬々:それはやっぱり、人々から支えられたというのが大きいと思います。有名無名の出資者の方々もそうですし、赤松さんの題字もそうです。でもその一方では、自分が最初に映画を作ろうとした想いというか。もう60手前ですけれども、その頃の想いは映画の中に形としてあるな、というのは完成した『菊とギロチン』を観て、自分でも実感しました。初期衝動を忘れずに抱え続けてきたことが、1つの起爆剤にはなっているんだと思いますね。

 

――東出さんはそういった監督の想いが込められた現場に身を置いて、肌で感じられたものはありますか?

 

東出:中濱鐵を演じている瞬間は、あまり考えないようにしていたので。ただ、完成した映画を観て、改めて撮影当時のことを振り返ってみると、こんなに過激な作品だけど、現場の空気は温かかったんです。先日読んだ本の前書きに「僕は、最前線で爆撃を受けて泣いている一般市民に寄り添って物を書く。だから公平も不公平もない」といった内容の一文があって、この映画も「一番の弱者に寄り添った作品」であるなと感じたんです。僕自身、そういうものが好きだから、この映画の現場を温かいと感じたんじゃないかなと、いま改めて思いますね。

 

 

いかがでしたか? 瀬々監督が30年間温めてきた強い想いを受けて、東出さんを始めとするキャストやスタッフの方々が全身全霊で紡ぎあげた世界が、『菊とギロチン』という作品となって結実したのだということが、お2人のインタビューから伝ってきたのではないでしょうか。

 

『菊とギロチン』や『ヘヴンズ ストーリー』は、いわゆる一般的な映画と比べるとかなりの長尺ですが、それは監督が「時間という枠組に囚われたくない」と考えられているからなのか? もし商業的な制約を考えずに済むのであれば、映画の長さはどれくらいが好ましいのか? 取材後、瀬々監督に改めて伺ってみたところ、意外な答えが返ってきました。

 

「尺の長さは本来自由であるべきです。ただ、画一化されるのはよろしくない。映画館で上映される作品の中には、別に5時間の作品があっても、1時間の作品があってもいいわけです。とはいえ、実情はなかなかそうはいかないですが(笑)」

 

少しでも長く映画の世界に浸っていられるという意味では、長尺であることはとても幸せなこと。ぜひ劇場で、瀬々監督の30年分の想いを「がっぷり四つ」で受け止めてみてはいかがでしょうか。

 

『菊とギロチン』概要

 

『菊とギロチン』

 

テアトル新宿ほか全国順次公開中

 

 

監督:瀬々敬久

脚本:相澤虎之助・瀬々敬久

出演:木竜麻生、東出昌大、寛 一 郎、韓英恵、渋川清彦、山中崇、井浦新、大西信満、嘉門洋子、大西礼芳、山田真歩、嶋田久作、菅田俊、宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太

ナレーション:永瀬正敏

2018年/日本/189分/カラー/DCP/R15+/配給:トランスフォーマー

 

 

公式サイト:http://kiku-guillo.com/

 

 

© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

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