『顔たち、ところどころ』プロデューサー、ジュリー・ガイエさんによるティーチイン

 

続いてご紹介するのは、もはやゴダールと並ぶ「ヌーヴェル・ヴァーグの生き字引!」ともいえるアニエス・ヴァルダ監督が、アーティストのJRさんと共同監督した『顔たち、ところどろころ』のティーチイン(6月23日(土)開催)。年の差54歳のふたりが、行き当たりばったりにフランスの田舎を旅し、様々な人々と巨大なポスター作品を作り、各地に残していく傑作ロード・ムービーです。

 

どこに行くにも2人の監督の等身大パネルを持ち運んで笑いを誘うジュリー・ガイエさんは、もともと女優としても多くの作品に出演されている方。本作をプロデュースするに至った経緯について訊ねられると、興味深い話題を沢山披露されていました。

 

「20歳のころ、俳優のミシェル・ピコリさんのところでベビーシッターをさせて頂いたこときっかけで、ピコリさんからヴァルダ監督を紹介してもらったんです。それ以来、監督とはずっと親しくさせてもらっていて、『百一夜』に出演もさせてもらいました。監督は映画に関する様々なことも教えてくれた恩人で、私の人生を映画の旅へと誘ってくれた母のような方。女性監督として先駆的な存在ですし、単なる女性というだけでなく、女性の視点から見た世界を描き続けてきた監督です。今回はこれまでの恩返しの意味も込めて、プロデューサーとして参加させて頂きました」

 

さらにJRさんとのエピソードも披露。

 

「JRを紹介してくれたのは、ヴァルダ監督の娘のロザリー・ヴァルダさんです。JRとヴァルダ監督はリスペクトし合いながらも、ユーモアを持って接していて、まるで親子みたいでした」

 

かつて『落穂拾い』『落穂拾い・二年後』というヴァルダ監督の過去の傑作ドキュメンタリーにいたく感銘を受けた私にとって、この『顔たち、ところどころ』はどこをどう切り取っても素晴らしい作品ではあるのですが、中でも特にグッと心を掴まれたのは、ヴァルダ監督とJRさんの間で交わされる次のような会話のやりとりです。

 

ヴァルダ:できれば偶然非凡な人に会いたい。

 

JR:このまま計画も道順も決めず?

 

ヴァルダ:偶然こそが常に最良の助監督よ。

 

「偶然こそが常に最良の助監督」とはまた「なんとも粋な表現!」と膝を打ったものの、観ているうちに「いやいや、こんな偶然あるわけない!」と半信半疑になっていったこともあり、せっかくのチャンスとばかりにガイエさんに質問してみることに。すると、あたかも行き当たりばったりに旅を続けているかのように見える2人ですが、案の定、舞台裏に映画とは一味違う物語が隠されていたことがわかったんです。

 

「あらかじめシナリオはしっかりと準備されていました。そもそもアニエス・ヴァルダ監督には誰も逆らうことなんてできないので、道中でJRとヴァルダ監督が険悪になるなんていうこともあり得ません(笑)。JRは小さな子どものように、ヴァルダ監督の言葉に耳を傾けていました」

 

これには「やっぱり(笑)!」と納得してしまいました。旅の後半、ヴァルダ監督がとある人物を訪ねるとっておきのシーンがあるのですが、そのエピソードがあらかじめ想定されていたことなのかどうかは、まずは映画をご覧になってから、ぜひ想像してみてください。

 

なんといってもこの『顔たち、ところどころ』の素晴らしさは、タイトルがあらわすように登場する市井の人々の「顔」にあります。たとえシナリオが準備されていたとしても、その土地で生きてきた人々の顔に刻まれた皺までは、いくらヴァルダ監督といえども演出出来るわけではありません。

 

訪れた土地でヴァルダ監督がやっているのは、彼らの素の魅力をJRさんとともに発見し、「あなた素敵よ!」と声を掛けてあげることだけ。でも、なぜか巨大なポスターに映し出された彼らの顔はどれもモデルや役者顔負けの存在感を放ち、出来上がった写真を見上げながら、彼らははにかみ、「まんざらでもないな」という満足げな表情を見せるのです。

 

 

「かつて、リュミエール兄弟が汽車がホームに入ってくるシーンを初めてスクリーンに映し出した時、観客は本当に汽車が迫ってくるんじゃないかと思って逃げ出したというエピソードがありますよね。最近のドキュメンタリーにはフィクションの要素が含まれているものも多く、ドキュメンタリーとフィクションの間の垣根が段々なくなってきているような気がしています。私はそんな実験的な新しい試みにとても興味を持っています」

 

と語ったガイエさん。ヴァルダ監督が来日できなかったのは残念ですが、等身大パネルとともに登壇したガイエさんの姿を目にするだけで、この映画にかける熱い想いを十分感じ取ることが出来ました。

 

 

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