「出家して10年の修行の成果を、もう一度社会の中で試してみたい」と思って、ハンバーガー屋で働くことにしたんです。

 

――そんな根本さんが、自殺志願者の話を聞くことに専念し始めたきっかけは?

 

根本:たまたま最初に修行に入ったところが、いわゆる「寺リーマン」養成所みたいなところだったんです。

 

――「寺リーマン」……とは!?

 

根本:お坊さんというより、サラリーマンみたいな感覚です。なんとなくそれに違和感を覚えて、自分なりにいろいろな書物を読み進めるうちに、古来より続く修行僧堂があることがわかってきて。そこで「禅問答を学びたい」という気持ちが高まり、縁あってそちらに移ることになりました。でも、そこはものすごく厳しいところだったんです。読み書きも禁止だし、食べ物も精進料理のみ。片道30キロ歩いて托鉢(たくはつ)して。

 

「こんなに辛い思いをする修行とは、いったい何なんだろう?」と考えていた頃に師匠が亡くなり、「出家して10年の修行の成果を、もう一度社会の中で試してみたい」と思って、ハンバーガー屋で働くことにしたんです。

 

――えぇ!? 禅寺の修行僧であった根本さんが、どうして街のハンバーガー屋に?

 

根本:学生時代にアルバイトをしたことがあったので。比較するなら同じ業種の方がわかりやすいじゃないですか。

 

――まぁ、確かにそうですが……。

 

根本:それで履歴書を持っていったら、一目見るなり「ダメだ」って言われてしまったんです。

 

――不採用になった理由とは?

 

根本:「人の顔を見て断るなんて最低じゃないか!」と内心憤慨していたら、「頭がダメ」だったんです。

 

――頭ですか?

 

根本:そう。「別に頭は悪くないですよ!」って思ったら、「髪形がダメ」っていうことで(笑)。

 

――あぁ、なるほど! 剃っているから。

 

根本:ものすごく規定が厳しくて、仕方がないから「帰ります」って言ったら、店長さんに「ちょっと待って!」と呼び止められて。「『(履歴書の志望動機の欄に)もう一度社会勉強したいから』って書いてあるけれども、なんでお坊さんがハンバーガー屋で働くことが社会勉強になるんですか?」って聞かれたんです。

 

――きっと誰もが疑問に感じると思います(笑)。

 

根本:ちょうど店長さんも私と同い年の32歳だったんですが、「ここでは社会勉強なんて出来ないですよ」「自分は名ばかり店長だから、サービス残業ばかりで月に1~2回しか早く帰れないんです」「人生って、こんな風に終わっちゃうんですかね」「人間って、もうどうしようもないんですかね」って、いきなり相談されたんです。

 

――へぇ~! 根本さんはその問いにどう返答されたんですか?

 

根本:実は私も修行中、ニューヨークの禅堂で老師様に同じような疑問をぶつけたことがあったんです。いろんな意味を込めて「人間っていうものは、どうしようもない存在なんですかね」って投げかけたら、老師様から「どうしようもない、どうしようもないって言ってばかりで棚を揺らさなければ、牡丹餅は落ちてこんぞ!」という言葉が返ってきて。

――「棚を揺らす」とは?

 

根本:「棚から牡丹餅」っていうことわざがありますよね。その老師様は、いまから50年前に「アメリカで座禅を布教して来い!」って師匠に言われて、坐禅が知られてないのに単身ニューヨークに渡られた方なんです。何のツテもなく道端で座禅を組むところから始めて、大菩薩禅堂の老師様になられた方の言葉なので、非常に説得力がありました。

 

――なるほど。

 

根本:そんな話を店長にしたら、彼の目がいきなりキラキラし始めて(笑)。「根本さんを雇って、ここで一緒に棚を揺らしたい!」って本部に掛け合ってくれたんです。

 

――えぇ!? それはまた思わぬ展開ですね。

 

根本:それで、ハンバーガー店の坊主1号になったんです。でもいざ「棚を動かす日々」が始まっても、最初はポテトをひたすら揚げてばかり。汗だくになってクラクラしていたら、アルバイトの女性が「根本さん、お疲れ様です!」って、氷の入った水を1杯差し出してくれたんです。

 

――ほぉ~!

 

根本:そうしたらもう、それを飲んだ途端に涙が止まらなくなってしまって。修行中は辛いのが当たり前だったし、100出来たら200やらされて、200出来たら500やらされる世界なので、人から褒められるということもなければ、誰かに思いやってもらえるなんてことも絶対ないんです。だから、たった1杯のお水で「これが(仏陀が悟りを開いたきっかけともいわれる)スジャータの乳粥か!」と思うぐらい感動してしまって。まわりも「根本さんの反応、すごいよね(笑)」って面白がるわけなんです。

 

――ははは(笑)。確かに水一杯で感動して泣かれたら、さすがに驚きますね。でも、それこそが修行を経て体感した「変化」だったわけですね。

 

根本:そう。それでそこから店長さんと一緒にいろいろ工夫をし始めたんです。みんなでハンバーガーを作る競争をしたり、誰も入りたくないシフトを担当してくれた人には、焼き肉をご馳走したりして。そうこうしているうちに、店でアルバイトをしている学生から、人生相談を受ける機会が増えてきたんです。ちょうどこれから社会に出ようとする学生って、人生で一番悩む時期なんですよね。脱サラして、お坊さんの修行をして、また社会に出てきて、今ハンバーガー屋で同じ仕事をしている自分は、彼らにとってちょうどいい相談相手だったみたいで。

 

――確かにそうかもしれないですね。

 

根本:話を聞いているうちに、彼らには2個か3個くらいしか選択肢がなくて、それがダメだと行き詰まることがわかったんです。しかも選んだ理由も「親がそれをやれって言ったから」とか「友だちに薦められたから」とかばかりで、どれも自分の意志ではない。でも仕事選びって、本来そんなものではないはずなんです。どんなに雇用条件がよくても、人間関係が良くなければ地獄ですし。「これは自分には向いていない」と思い込んでいたけど、いざやってみたら意外と向いていたとか。実際、やってみないとわからないことの方が多いんです。

 

だから、たとえどんなに人生について悩むことがあったとしても、絶対に自殺だけはしてほしくない。そのまま死んでしまったら、何も解決できないから。修行僧堂でも、だいたい1カ月くらいでみんなノイローゼになる。でもそれはあくまでも修行の通過儀礼の1つであって、そこから転じたときに人は強くなれるから、それ以降は何を言われても動じなくなるんです。

 

――なるほど。根本さんの活動の原点がハンバーガー屋さんだったとは、正直まったく予想していませんでした。

 

■次ページ:答えが見つからなくて苦しんでいる人たちに、「こういう場所があるんだ」っていうことを知ってもらえるだけでもいいんです。

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