「顔を正面から撮る」ということ

 

――監督は以前「映画監督の仕事というのは、OKかNGかを判断する仕事である」とコメントされていましたが、自分なりの明確な基準というのは、映画監督を目指すような方たちにもともと備わっているものなのでしょうか。それとも、実際に撮っていく中で段々とわかってくるものなのでしょうか。

 

濱口:完全に後者ですね。良くも悪くも「OK基準が出来ていく」のだと思います。むしろ「これでいいだろう」と思って編集してみたら全然ダメだったとか「人に見せても全然伝わらない」ということも、最初の頃は多々ありました。でも「舐めてかかっている」からこそ始められる、みたいなところもあるんです。まあ、その結果しっぺ返しを食らうのですが(笑)。そういったことを繰り返すうちに「どうもこれでは上手くいかないらしい」ということが少しずつ積み重なって、段々と「OK基準が明確になっていく」ようなところはある気がします。

 

――「舐めてかかる感覚」っていうのは、それまでに自分が観てきた映画の蓄積からくる自信、のようなものだったりしますか?

 

濱口:そうだと思いますね。イメージの中では、もうそれが「出来ることになっている」というような。

 

――もう、一人前の監督気分で。

 

濱口:そうです。「全然撮れる」みたいな気持ちで始めて「そうならない」というのを繰り返す。

 

――なるほど。試行錯誤しながら辿り着く感じなんですね。さらに言うと、その試行錯誤の中で俳優の「顔・声・動き」をどうやって引き起こすのか、ということが濱口監督作品の肝になっているような気がするんです。

 

濱口:そうですね。

 

 

――『寝ても覚めても』も、まさに朝子の顔のアップから始まるし、ラストも2人の男女が並んで正面を向いている、というのがとても印象的でした。『親密さ』のショートバージョンにも、対話をしている2人が観客の方を向いている、というシーンがありますよね。でも、あたかも向き合って話しているかのように見える。濱口監督にとって「顔を正面から撮る」ということには、どういう意味があるのでしょう?

 

濱口:確かに「顔を撮る」のは好きですね。そこまで理由を深く考えたことはないですけど(笑)。でも、大体の映画には顔が映っているじゃないですか。「自分がいいなと思っている人をキャスティングする」というのがまずあって、さらにその人たちの顔を撮っている時に「あぁ、いいな」という気持ちになる、というすごく当たり前の感情が根本的にはあるんです。顔って変わっていくものだし、ものすごくニュアンスが豊かなものなので、ただそれを見ているだけでも楽しい。

 

その次に「じゃあ、顔をどこから撮るのか」という問題が出てくる。正面から顔を撮るのは、その場所にカメラを置くことで、その人の魅力がそれこそ真正面から写せるような気がすることが一つ。もう一つはあからさまに「これは演技なんですよ。嘘なんですよ」という証拠になるからなんです。それがわかったうえで観ていただいた方が、より楽しめるんじゃないかと思うので。

 

――あえて「自然じゃない」という前提の上に立っているのに「なぜか自然に見えてくる」。濱口監督の映画には、フィクションなのに「なぜこんなにリアリティがあるんだろう?」と感じる瞬間が沢山あります。

 

濱口:そうですね。フィクションであるということを前提にしていただいた方が「より驚きが深くなる」ということはあるんじゃないかと思いますね。

 

――この映画を観ているときも、現実には東出さんのような人が彼氏であるわけはないんですけれど、なぜか自己投影したくなるんです(笑)。きっと演じている役者さんたちが醸し出している雰囲気がリアリティを生み出しているからだと思うのですが、濱口監督は役者の「声」にも重きを置いているとのことで。『親密さ』なんてまさにラジオドラマのようでもあるし、「声」がそのまま入ってくる感じが特徴的だなと感じます。また「なんでもない平凡な話をしていたはずなのに、急に深い話になってしまうような瞬間が描きたい」とも濱口監督は過去に発言されていますが、それはまさにこの物語についても当てはまることのような気がします。

 

濱口:原作自体、読みながら「え!? こうなるの?」と驚くぐらい飛躍する部分も多いんですが、根本的なリアリティみたいなものが描写の中にあるので、ちゃんとそこで繋がれていく。予算が十分に潤沢とは言えない僕のような制作環境にいる中で、そういった原作を基に映画化する場合、「実際にそこにあるものを撮る」しかないわけなんです。「そこにあるもの」がひたすらカメラに映り続けている中で、「本当は飛躍しているんだけど、何かリアルに思える」ということが起きるのかもしれない。正直、この映画が観客にどういう風に受け止められるか、というのは全然わからなかったんですけれど、既にご覧になった方々の反応を聞いていると「そこがリアルなのか」とようやく線引きできるみたいな気持ちにもなるんです。

 

――観た人によってリアルに感じるポイントがそれぞれ違う、ということですよね。でも、意外とこの映画にはいろんなパターンが入っているから、かなり多くの人が何かしら引っ掛かるところがあるのではないかと。

 

濱口:そうだといいのですが(笑)。

 

 

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