もう一度「映画の力」を信じて自分で映画を作り始められたきっかけ

 

――最後に一つ、監督に伺っておきたいことがありまして。濱口監督の著書「カメラの前で演じること」の序文に、助監督時代「『映画や音楽は自分を助けてくれない』という事実に絶望的な気分になった」という一文がありますよね。でも「今はどちらかと言えば全く逆のことを確信している」とも書かれている。一度挫折して辞めてしまう人が多い中、濱口監督がもう一度「映画の力」を信じて自分で映画を作り始められたきっかけは何だったのか、知りたくて。

 

濱口:もちろん映画には「短期的な実効性」というのはないわけですよね。映画が直接的に自分を助けてくれるようなことは、普段暮らしていても無いとは思うんです。でも、例えば僕の場合はジョン・カサヴェテス監督の映画を思い出すわけですが、普段の生活の中には必ずしも現れなくても、世の中には(カサヴェテスの映画のように)価値があると確信できる「感情」が確かにあって、それがスクリーンに映っている。少なくとも自分はそれを観た気がする。自分がそこに辿り着けるかどうかはわからないけれど、確かに「観た」という事実があるから。あるか無いかわからないものの存在を信じるのはなかなか難しいかもしれないけど、それが「ある」と知っていれば、あとは道筋を作っていくだけなので、すごくシンプルなことなんです。

 

――なるほど。でも「ある」とわかっていても、くじけてしまう人もいると思うんです。『寝ても覚めても』でも、朝子は麦が「いつか帰ってくる」と信じながらも、亮平に走ってしまうわけじゃないですか。

 

濱口:あはは(笑)。

 

――ちょっと強引かもしれないですけど、人には人生の岐路というか、そういう瞬間ってあると思うんです。ここまでは信じて頑張ってみたけどやっぱりダメだった、とか。この映画でも、朝子がギリギリまで悩んだり、葛藤するということに重きを置いているというか、人間の心の機微が描かれていますよね。

 

濱口:普段からどれだけ自覚的でいられるかはわからないけれど、自分の底の部分に何か「自分を支えているもの」というのが、誰にでもあると思うんですよ。それに従うだけ、というか。これは「朝子の行動をどう捉えるか」ということにも大きく関わってくる問題なんです。朝子はあっちにいったりこっちいったりするから、フラフラしているように映ると思うんですが、でも僕の中では彼女は「たった1つのこと」をずっとしていて、それを貫いているという思いで演出をしているんです。なので、彼女はとても正直で自分の信じている価値に対してとても忠実であるのだ、という人間像として僕は描いたつもりですね。

 

――なるほど。今のお話を伺って腑に落ちました。つまり朝子は、全くブレていないということですね。「ブレていないからこそ、こうなってしまうのだ」ということが、改めてよくわかりました。

 

 

取材の後、朝子と亮平の距離が縮まるきっかけともなる「お好み焼きパーティー」のシーンが「スリリング過ぎてヒヤヒヤした」と伝えたところ、ひとしきりその話題でも盛り上がるという展開に。

 

 

――瀬戸康史さん演じる亮平の同僚・串橋が、ある言葉を発してその場を凍り付かせるという。現実でも、ああいう空気になることって結構あるじゃないですか。

 

濱口:感想を求められたから、素直に言ってみたら……。

 

――ドツボにはまるっていう。しかも失言した本人は「帰りたい」と言っているのに、亮平は帰してもくれない。ある意味、亮平はドSだなと思って。本当に地獄絵図でしたよ。

 

濱口:あはは(笑)。

 

このシーンに潜むリアルとフィクションのあわいこそ、濱口ワールドの沼とも言えるのです。

 

(写真・加藤真大)

 

『寝ても覚めても 』概要

 

『寝ても覚めても』

 

9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

 

公式サイト:http://netemosametemo.jp/

 

 

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

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