「親は、教育するものなんですよ」

 

――映画の中でも、しょったんが人生の節目に出会う人たちが「出来過ぎている」と思うくらい、いい人ばかりですよね。実際の瀬川さんが出会っているわけなんですが、特にイッセー尾形さん演じる「工藤さん」が、しょったんたちが乗った電車をホームで見送るところなんてもう、堪らなくて。

 

豊田:本当に素晴らしかったですよね。あのシーンは尾形さんが現場で「『ごめんな』って言っていいか」と仰って。

 

――原作によれば、「工藤さん」のモデルになった方も、将棋の世界にしょったんたちを引っ張り込んでしまったことを相当悔やまれていたらしいですね。

 

豊田:そう。だからここは「『頑張れよ』だけじゃないな」って。

 

――監督は、しょったんに「奇跡」のような出会いがたびたび訪れた理由はどこにあると思われますか?

 

豊田:もちろん映画だからいいところにフォーカスが当たっているというのもあるけど、やっぱり瀬川さんの人格だと思いますね。映画を観てもらえばわかるとおり、本当に周りが応援したくなるような人なんですよ。彼じゃなかったら、こんなことは起きなかったんじゃないかな。

 

 

――國村隼さん演じるしょったんのお父さんが、「好きなことを仕事にするのが一番だ」って言い続けるのも印象的でした。なかなか息子に言える言葉ではないような気がして。

 

豊田:でも、うちもそんな感じでしたよ。うちの親父はグラフィックデザイナーだったんですが、「自分の好きなことでお金を稼ぐのが一番いいから」って。あんまり「何をしろ」とか言われた記憶はないですね。親に言われる前に自分で「将棋」って決めて、勝手にプロの世界に入っていたので、きっと「よくわかんない」と思われていたんですよ。多分、瀬川さんもそうだと思いますよ。だって、小学生ですよ? 小学生が「将棋の世界に入りたい」って言って真剣にやっていたら、親の見る目も変わるんじゃないですかね。

 

――なるほど。

 

豊田:親はね、教育するものなんですよ(笑)。

 

――子どもが親を教育する?

 

豊田:僕、中学校の頃からずっと言っていますけどね。親は教育しないとわかってもらえないって。僕は小学校から将棋の世界でやっていたから、小遣いなんて一度ももらったことがない。

 

――自分で稼いでいた、と。

 

豊田:そう。

 

――でも「好きなこと」だけやり続けた結果、しょったんは挫折も経験しますよね。もちろん「奨励会」という特殊な環境でギリギリのところまで追い込まれた経験のある人には、通常では計り知れない独特の想いがあるとは思うのですが、監督ご自身は「勝負が全て」というよりは「好きであること」の方が結果的に勝るとお考えですか?

 

豊田:結局、全部つながっているんですよ。やっぱり勝負事なので、勝たないと明日はない。でも、好きじゃないと、勝てないんです。将棋って、マインドをキープしていく必要があるメンタルが作用するゲームなんですよ。実力はみんなそんなに変わらないんですが、やっぱりメンタルの強いヤツが勝ち残っていく。

 

――それはスポーツにも通じるところがありますか?

 

豊田:例えばボクシングだと、もちろん拮抗する中ではメンタルの強さも関係してくると思いますが、持って生まれた運動神経もあると思うんですよね。でも、将棋は脳を使っているので、メンタルがすごく重要なんです。

 

――「頭脳」ということですね。

 

豊田:まさに「頭脳」の使い方ですから。いつも出来ていたことが対局の時に出来なかった、ということはよくあるので。そんな手があることは普通の状態ならわかるのに、対局のときだけ急にわからなくなったりするんです。

 

――ある種、自分との闘いみたいなところがありますか? それとも、映画の中にも出てきましたが「(指そうと思えば)本当は指せたけど、汚い手を使ってまで勝ちたくない」という美学というか。

 

豊田:もちろん、美学があるヤツはいるし無いヤツもいる。将棋っていうのは、実は「心の読み合い」なんですよ。将棋の盤を通じて人の心を読んでいくゲームなので、相手が何を考えているのかわかってくるんです。

 

――へぇ~!

 

豊田:将棋を指しているときの頭脳は、レム睡眠状態に近いんですって。だから阪本(順治)さんは『王手』でそうやって描いていましたよね。ちょっと超能力の世界みたいな。僕が指している時もそんな感じでしたけど、確かに「自分との闘い」というのも、比重は高いのかもしれないですね。まぁ、それだけではないんですけれど。

 

 

■次ページ:「元・映画監督って、なかなかいないんですよね」

 

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