「元・映画監督って、なかなかいないんですよね」

 

――豊田監督は将棋の道から映画の道に進まれたわけですが、直接将棋の映画を作る、作らないに関わらず、俳優を演出する上で「人の心を読む経験が生きている」という部分もありますか?

 

豊田:いや、それはまた別問題ですよ。将棋と映画をよくつなげて言われるんですけど、まったく違う。

 

――それはどうしてですか?

 

豊田:将棋は1対1で駒を動かすけど、映画は集団で人間を動かすから。

 

――駒を動かすのとは違う?

 

豊田:人間はそんなに簡単には動かないですからね。僕の場合、脚本も緻密で無駄なカットがないように作っているからでもあるんですが。「将棋のようにスタッフ・キャストを動かして作り上げている」とか、(撮影が)終わってから「また騙された!」とかは、現場でスタッフによく言われますけど。冗談か本気かわかりませんが(笑)。

 

――でも、観ている側としても「気持ちよく感情を操られている」というか、監督にすべてコントロールされているような気がします(笑)。

 

豊田:脚本作りに関して言えば、もしかしたら将棋で使っていた頭脳の影響というのもあるのかもしれませんが、僕自身はよくわからないですね。そもそも映画は、カットの積み重ねで最後まで行くので、クランクイン前にはもう全て出来ているものなんです。

 

――頭の中に?

 

豊田:そう。もちろんそこから現場でいろいろ試して、変えていったりもするんですけど。

 

 

――なるほど。実は先日「豊田組」には欠かせない渋川清彦さんにもインタビューさせていただいたのですが、「豊田組は特別」というお話をされていて。豊田監督はミュージシャンとのつながりも深いですが、集団を率いていく映画監督という仕事をするにあたってのコミュニケーション術を、一体どのように培われたのか知りたくて。もちろん「奨励会」という特殊な環境で多感な時期を過ごしていたからこそ、「大人と対等に渡り合っていく術を身に付けられたのかな」とも思うのですが。

 

豊田:将棋を始めた頃は年上の人たちに可愛がられたりもしていたんですが、「奨励会」に入ってからは、ちょっと上のお兄ちゃんたちとしのぎを削っていて。でも17歳で退会してからは、ずっと引きこもっていたんです。そのあと、初めて阪本監督の『王手』の現場に入った時に「(映画は)自分に向いているかも」っていう気がしたんですね。

 

――それはなぜですか?

 

豊田:映画の現場が楽しかったから。外から見ているときは「映画監督」っていっても、漠然としたイメージしかなかったからよくわからなかったけど、実際に現場に入ってみて「映画をやりたいな」って初めて思えたんです。ただ1つ言えるのは、自分は幼い頃から常に「集団」には属していたということ。「奨励会」もそうだし、高校時代は不良連中みたいな、悪いヤツらとつるんでいて。その集団の中での居心地のよさというか、自分の立ち位置を自分でわかって動く面白さみたいなものは、ずっと感じていたとは思うんです。

 

とはいえ「奨励会」時代は集団といっても、1人の戦士としてそこに居ただけなので、「映画監督」という立場になったら、「監督らしい」パフォーマンスをしなければならなくなった。でもきっとそれが「あんまり苦じゃない」っていうことなんでしょうね。

 

――今年、監督デビューされてから20年ということですが、映画を撮らなかった時期も含めて、モチベーションを維持し続けてこられた理由はなんだと思われますか?

 

豊田:う~ん。元・映画監督って、なかなかいないんですよね。

 

――辞めないからですか?

 

豊田:辞められなくなるんですよ。

 

――それは「沼」みたいなものですか?

 

豊田:あ、そうですね。まさにSWAMPですね(笑)。あと、やっぱり1本映画を作ると、出来なかったところとか反省点がいっぱい出てくるので。どうしても「次こそは!」って、感想戦では飽き足らず、またトーナメント戦に出場したくなるんです。

 


 

ここ数年は自然豊かな小笠原諸島の魅力にハマり「住民票も小笠原に移した」という豊田監督。2019年には、伝説のサーファー・宮川典継さんの生き様に迫った新作ドキュメンタリー映画『PLANETIST』の公開も控えています。環境を変えたことが映画制作にどのような影響を及ぼしているのか訊ねてみたところ、思いがけない答えが返ってきました。

 

豊田:『クローズEXPLODE』を撮った後、1年間1人で父親の介護をしていたんですよ。それが結構重かったんですよね。父親が死んでいくところまで全部見ちゃったので。そんなこともあって「ちょっと映画から離れたいな」と思ってフラッと小笠原に行ってみたら、そこがすごく気に入って。ずっとカメラを回していたんです。

 

まぁ、実は小笠原でも「豊田一派」と呼ばれていて、街のヤツらをみんな巻き込んで、ギャングみたいな感じになって(笑)。みんなでバーベキューして、海で泳いで。そういう小笠原の人たちのやさしさが、ひょっとしたら『泣き虫しょったんの奇跡』にも影響しているのかもしれないですね。

 

(写真・加藤真大)

 

『泣き虫しょったんの奇跡』概要

 

『泣き虫しょったんの奇跡』

9月7日(金)全国ロードショー
監督・脚本:豊田利晃
原作:瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫刊)
音楽:照井利幸
出演:松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、新井浩文、早乙女太一、妻夫木聡、松たか子、美保純、イッセー尾形、小林薫、國村隼
製作:『泣き虫しょったんの奇跡』製作委員会 制作プロダクション:ホリプロ/エフ・プロジェクト
特別協力:公益社団法人日本将棋連盟
配給・宣伝:東京テアトル

 

公式サイト:http://shottan-movie.jp/

 

 

©2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 ©瀬川晶司/講談社

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