現在公開中の映画『500ページの夢の束』は、『スター・トレック』を愛する自閉症の少女・ウェンディの成長物語。他人とコミュニケーションを取るのが苦手な少女が、脚本コンテストに向けて必死で書き上げた500ページにも及ぶ渾身の『ウェンディ版スター・トレック』を携え、愛犬ピートとともにハリウッドを目指す数百キロの旅の過程が、ハートウォーミングに綴られます。ウェンディに扮するのは、『I am Sam  アイ・アム・サム』や『宇宙戦争』で天才子役の代名詞ともなったダコタ・ファニングさん。自閉症を抱えながらも、機知に富んだ独創的な作家としての魂を宿した、愛すべきキャラクターを熱演しています。

 

そして、本作に欠かせないもう1人の主役とも言えるのが、ウェンディのあとをトコトコ付いてきたことから旅の相棒になった愛犬ピートなんです。「ペット禁止」の長距離バスの中でピートが粗相をしてしまい、とんでもない場所で降ろされたり、助けてもらった人に乗せてもらった車が事故に遭ったり……。まさに絵に描いたような珍道中が繰り広げられるのですが、立ちはだかる数々のトラブルを1つずつクリアして前に進んでいくウェンディの健気な姿を、彼女の『スター・トレック』に対する愛ゆえに応援せずにはいられません。

 

このたびSWAMP(スワンプ)では、ベン・リューイン監督にスカイプインタビューを敢行。才能あふれる「女優」としてのダコタ・ファニングさんの魅力から、名演技を披露する犬のピートをキャスティングした衝撃の理由、そして監督に影響を与えた3本の映画に至るまで、ちょっぴり毒舌&ユーモアたっぷりに語っていただきました!

 

「ダコタ・ファニングとの仕事は、これまで自分が俳優を演出してきた中でもベストな経験の1つになったと思うよ」

 

ポーランド生まれのベン・リューイン監督は、現在72歳の大ベテラン。映画監督になる前は、なんと刑事弁護士を務めていたという異色のキャリアの持ち主です。過去には人気TVシリーズ『アリー my Love』の監督も手掛け、日本でも公開されて話題を集めた『セッションズ』では、障がい者の性を語るというタブーを爽快に破り、2012年サンダンス映画祭の観客賞と審査委員特別賞をダブル受賞するという快挙を達成しました。

 

実は監督ご自身、長年ポリオという病気と向き合ってきたこともあり、障がいのあるキャラクターを特別視することなく、ユーモアのセンスで困難を乗り切っていく姿を、映画を通じて描いてこられました。そして最新作となる『500ページの夢の束』では、自閉症の少女の成長物語という形を取りながらも、「モノづくり」に携わる人なら誰もが直面する楽しさと苦しさを、温かな視点で伝えて下さっているんです。

 

取材当日、お気に入りのサスペンダーを身に付けスカイプインタビューに応じる監督は、あいさつもそこそこにツルツルの頭を自ら撫でながら「僕のヘアスタイル、バッチリかい?」と画面越しに確認するなど、お茶目な一面を披露。初対面とは思えない和気あいあいとした雰囲気の中でインタビューが始まりました。

 

——主人公のウェンディを演じたダコタ・ファニングさんがとっても魅力的でした。彼女とのシーンで印象に残っていることはありますか?

 

 

監督:ダコタ・ファニングとの仕事は、これまで自分が俳優を演出してきた中でもベストな経験の1つになったと思うよ。彼女は既に数々の作品に出演してきたベテラン女優だから、その経験をこの作品でも存分に活かしてくれたんだ。

 

これは最近の若い役者に顕著に見られる傾向のようだけれど、すぐに自分の心の中に思い切りダイブできる俊敏さやフレキシビリティが彼女にもあって、そういった要素を今回の芝居にも活かしてくれた。自分の感情をサッと表に出すことは、年を重ねた役者にはなかなかできないことなんだ。そういった意味で、経験が培った役者としての技術力とともに、感情に素早くアクセスできるという才能が合わさった、すばらしい演技を披露してくれたと思っているよ。

 

 

しかも彼女は現場での態度もすこぶる良くて、「あくまでもチームプレーヤーなんだ」という意識で臨んでくれた。いわゆる「私はスターよ!」といったようなそぶりは、一切見せずにやってくれたんだよ。特に、ウェンディが自分の日課をツラツラとしゃべるシーンは、かなりのロングテイクだったから印象に残っているんだ。通常はシーンが終わったら「カット」と声をかけるんだけど、僕は冗談を言ってやろうと思って、イビキをかく真似をしたんだ。そうしたら彼女はケタケタ笑ってくれた。

 

そんな風に、お互い冗談を言い合いながら、とても楽しく撮影に臨めたんだ。普段、映画の撮影現場では皆かなりのストレスを抱えているんだけど、今回はかなりリラックスできたね。これは滅多にない経験なんだよ。ダコタはまだ24歳と若いけど、とてつもない才能とギフトを持った女優。この映画を彼女のエネルギーで見事に担いでくれたんだ。

 

——犬のピートが、ダコタさんに負けず劣らずの名演を披露していて驚きました。いったいどのように演出されたんですか?

 

監督:ははは(笑)! ピートはとっても変わった犬なんだよ。もともと撮影日数も予算も限られている中で、「(映画の登場人物として)赤ちゃんも犬も使わなきゃいけないなんて、いったいどんな障がい物競走なんだ!」といった雰囲気になって、一度は「犬はやめとこうか」という話にもなりかけた。でも出演候補の犬をいろいろ見ていく中で、この犬はちょっと自閉症っぽいというか、自分の世界の中で生きている感じがしたんだ。この犬だったら、もしかしたら上手くいくかもしれないと思えてきた。

 

もちろん調教師が優秀だったというのもあるんだけど、「こういう風に演じて欲しい」って伝えると、ちゃんとやってくれるんだ。犬の演出についてもこの現場では多くの学びがあったよ。あと、ピートはチビのクセにすごく食いしん坊だったね。

 

 

■次ページ:ベン・リューイン監督作品につながる共通点と、至極の映画3本

 

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