カメラを線路に持っていって据え置いたら、汽車がやってきて当然のごとくカメラは粉々に砕け散ってしまった(笑)

 

——最後に、マオズ監督ご自身についてもお話しを伺いたいのですが、監督がこれまでに影響を受けた映像作家について教えていただけますか?

 

監督:影響を受けた映像作家を挙げたらキリがないよ。「あ、この人もいた」「あの人もいた」という羽目になりそうだ(笑)。イングマール・ベルイマン、アンドレイ・タルコフスキー、スタンリー・キューブリック、それから黒澤明もはずせないね。黒澤も戦場における人間の精神の有り様を描いた監督だよね。映画以外にも哲学者や文学者まで広げれば、フリードリヒ・ニーチェ、フランツ・カフカ、村上春樹にも大いなる影響を受けている。結局、映像作家がひねり出すものは、自分の内面世界であったりモノの見方であったりビジョンであったり、いろいろな先人たちの影響であったりするもので、そういうものが全部ごちゃまぜになって、何かが生まれてくると思うんだ。

 

僕が映画の撮影中につくづく感じるのは「アクション」と言ってから「カット!」をかけるまでの間というのは、自分の世界が産声をあげる瞬間でもあるのだということ。その間、周りの世界は止まっていてくれるんだ。そして「カット」と声をかけた途端、再び世界が動き出す。現場ではいつもそういう感覚を覚えるんだ。

 

——それはまさに映画監督の醍醐味ですね! ちなみにマオズ監督の映画の原体験はどのようなものだったのでしょう。今でも鮮明に覚えていらっしゃいますか?

 

監督:小さい頃はテルアビブ近郊の小さな街に住んでいたんだ。僕の父親は本当は映画俳優になりたかったらしいのだけど、実際は街からテルアビブの中心街にある映画館に行く専用バスのドライバーだったから、いつもタダで映画を観ることが出来たんだ。僕も父にくっついて、西部劇からモンスター映画にカンフー映画、それから1970年代のヒット作を沢山観ていたんだ。中でも一番思い出に残っているのが、ある映画で汽車が段々こちら側に迫ってきて、カメラの上を通過するというシーンで、それを観るたびに興奮したものだよ。13歳のお祝いに父が8ミリのカメラを買ってくれたんだけど、その翌日に僕は(好きなシーンを真似して撮ろうとして)カメラを線路に持っていって据え置いたんだ。そして汽車がやってきて、当然のごとくカメラは粉々に砕け散ってしまった(笑)。

 

——えぇ〜! お父様に怒られませんでしたか?

 

監督:ありがたいことにまた新しいカメラを買ってくれたんだ。それから僕が従軍するまでの間、何本もの短編を作ったんだけど、その短編には父がいつも悪役として登場してくれたんだ。なんだかイタリア人の思い出語りのようだけどね(笑)

 

——素敵な思い出を教えてくださって、ありがとうございました!

 


 

インタビュー後の写真撮影の際も「ブルース・ウィリス風がいいかい?」とサービス精神旺盛だったマオズ監督。思わず「背がとても高いですね〜」と声をかけると、「5キロくれたら5センチあげるよ」とニッコリ。独自の世界観で観客を魅了するサミュエル・マオズ監督は、その人柄も最高でした。

 

『運命は踊る』

 

9月29日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

 

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/foxtrot/

 

 

© Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017

 

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