突然だが、「チェーホフの銃」をご存知だろうか? ロシアの劇作家であるアントン・チェーホフによる作劇法の1つで、「作品の中に意味のないものは出してはいけない」というもの。つまりは、「作品の中に出てくるものにはすべて意味がある」ということである。

 

さて、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督作『アンダー・ザ・シルバーレイク』である。「シルバーレイク」とは、ロサンゼルス(LA)の有名なハリウッドサインとドジャースタジアムの間に位置する湖。映画や音楽にコミックゲームエトセトラ、あらゆるエンターテイメントに魅せられた者の集いし街を舞台に、一人のオタク青年がたどるネオ・ノワール・サスペンスだ。とはいえ、ステレオタイプなオタクが描かれるわけではない。大スターを前にしてキョドったりすることもなければ、現実の女には目もくれず二次元の世界に逃避することもない。

 

それどころか、隣家の裸の女性を覗き見て、プールにいる水着美女に移り気しつつ、やってきたガールフレンドとブチ上げをキメる主人公・サム(アンドリュー・ガーフィールド)。彼は言う「自分は何かになれると思っていた」と。『スパイダーマン』コミックスや好きな同人誌は買うものの、日々の暮らしの家賃すら払えず『スーパーマリオブラザーズ』をプレイするやる気のないどこにでもいるダメ青年ーー。

 

 

そんなサムは、水着美女のサラとお近づきになるものの、彼女は忽然と家ごと消えてしまう。足取りを追っていくうちに、失踪して大ニュースになっていたLAの大富豪、そして街に潜む「犬殺し」といった陰謀に触れていくことになる。サムの視点を通じて、世の中に蔓延する暗号、メッセージ、隠されたものが徐々に明らかになっていく。それらは同人誌やゲーム、映画、音楽、そのほか町中にあふれる広告といった日常に潜んでいたのだ。

 

 

さてさて、「チェーホフの銃」である。その作劇法に当てはめれば、出てくるものにはすべて意味がある。その意味にはオタクであればあるほど気が付けるだろう。誰しもが熱中するアニメ映画ゲーム音楽エトセトラエトセトラ。街にあふれるさまざまなもの。ある意味、そのすべてを浴びるようにして育った人間にとって、世の中に存在するすべてのものが「チェーホフの銃」といえるのかもしれない。そしてあらゆる人を惹きつける映画という虚像の中で、かつて自分が自らの意思で好きだと感じていたものを否定されたら? 世の中に存在するものすべてが意味のないことになってしまうのだろうか?

 

 

創作の世界の銃のように、何かに引き金を引こうとしていても、現実は厳しい。何者にもなれず金もなく、二次元の女性よりも三次元の女性のほうが快楽があると気づいてしまったオタクは、目の前に現れて消えていった女性を追いかけるしかなくなるのだ。現実の足音は、家賃の催促という形で徐々に忍び寄る。現実に追いつかれるのが先か、幻影のように消え去ってしまった愛しい女性を見つけ出すのが先かーー。

 

『アンダー・ザ・シルバーレイク』。誰しもが持ち得る銃を突きつけた先にある、湖の下に隠された真実とは。サムのめぐるLAトリップを劇場でブチ決めてほしい。

 

『アンダー・ザ・シルバーレイク』概要

 

10月13日(土) 新宿バルト9 ほか 全国順次ロードショー

 

監督・脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル『イット・フォローズ』『アメリカン・スリープオーバー』
出演:アンドリュー・ガーフィールド『ハクソー・リッジ』『アメイジング・スパイダーマン』、ライリー・キーオ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ほか

 

公式サイト:https://gaga.ne.jp/underthesilverlake/

 

 

 

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