「悟は決して可哀そうではなくて、幸せな日々を送っている人」

 

――三木監督はTVのバラエティやドラマも多数手掛けていらっしゃるので、作品によっては「笑わせよう」とか「怖がらせよう」といったように、人の感情を操ることを普段からかなり意識されているわけですよね。

 

三木:もちろんしていますね。

 

――それこそ監督の腕の見せ所でもあるわけですが。

 

三木:今回の物語も、例えば悟をもっと悲劇の主人公のように描くといったように、いろんな方向に振ることも出来た気がするんです。でも映画化するにあたって改めて悟のキャラクターを考えたときに、彼は決して可哀そうではなくて、幸せな日々を送っている人だと感じたんです。だから、悟が喜んだり楽しそうな顔をするところを、あえて強調しながら撮っていきました。

 

――となると、福士さんは監督から演出を受けていない分、かなりご自身で役作りをされたということでしょうか。

 

三木:福士君に関しては「悟はどんな風に演じますか?」と相談されたときに、「いや、何もしなくていいです。何も考えずに現場に来てください。そこで感じたことをそのままやりましょう」という話をしました。キャラクターを作り込んでしまうと、猫が咄嗟に動いた時に、そのキャラが出せないと思ったんです。だったら、もう最初から「普段の福士君のままで行きましょう」って。そうすれば、いつでも素でリアクションが返せますよね。

 

――なるほど~。そういうことだったのですね! コトリンゴさんの劇伴も、この映画の世界観にピッタリでした。

 

三木:コトリンゴさんご自身も、音楽のイメージそのまま「ふわっとした」雰囲気をお持ちの方なんですよ。彼女なりにいろんな曲を作ってきてくれたんですが、多分コトリンゴさんは最初「悟の物語」と捉えて「哀しみの方向」で考えていたんだと思うんです。でもこの映画は「ナナの物語」なので「『楽しい方向』で行きたいんです」とお伝えしたら、それはそれはいい曲が上がってきましたね。

 

――ナナと悟は「男同士」ではありますが、ある意味、三木監督がこれまで手掛けてこられたラブストーリーの要素も垣間見えますよね。

 

三木:回想シーンではナナと悟が駆けまわりますからね。まさにラブストーリーの王道ですよ。

 

――なるほど(笑)。それこそ三木監督はTVと映画の世界をどちらも行き来しながら、さまざまなジャンルの作品を手掛けられていますが、ご自身としては「常に新しいものに挑戦したい」という気持ちが強いですか?

 

三木:そうですね。「新しいもの」がどんなものかなんてよくわからないから、オファーが来てやってみたら「何か新しくなる」という方が、きっと正しいんじゃないのかな。もしベタなラブストーリーの話が来たとしても、何かしら「新しい部分」というのは必ずあるわけで、それを抽出していったら面白くなるんじゃないか、という風にいつも思っていますよ。

 

――今回、『旅猫リポート』で猫中心の映画を作られてみて、新たに発見したことは何ですか?

 

三木:う~ん。結局のところ、猫も人間もそんなに変わらないんじゃないかなと思いますね。今回は主人公のナナがたまたま猫だっただけで、僕としてはナナも人間だと思って撮っているんです。

 

――猫を演出するテクニックが全て詰まっている、ということですね!

 

三木:テクニックなのか、偶然なのか。「何事も猫を中心にやってください」というのが今回の有川先生の命題だったので、僕らはそれを遂行したまでです。

 


 

 

三木監督は笑って謙遜されていましたが、この映画に刻まれたナナの魅力は、それを見事に引き出したスタッフ・キャストの「忍耐強さ」と「ナナへの愛情深さ」の賜物です。人が猫のリズムに合わせることで見えてくる、独特のテンポ感が素晴らしいと改めて感じました。ぜひスクリーンでナナの気持ちを追体験してみてください。

 

(写真・加藤真大/渡邊玲子)

『旅猫リポート』概要

 

『旅猫リポート』

2018年10月26日(金)全国公開

 

原作:有川浩 『旅猫リポート』(講談社文庫)

 

出演:福士蒼汰 高畑充希(声の出演) ナナ 竹内結子

広瀬アリス 大野拓朗 山本涼介

前野朋哉 田口翔大 二宮慶多 中村靖日 / 戸田菜穂

橋本じゅん 木村多江 田中壮太郎 笛木優子

 

監督:三木康一郎

脚本:有川浩 平松恵美子

音楽:コトリンゴ

企画・配給:松竹

 

公式HP:http://tabineko-movie.jp/

公式Instagram:nana_tabineko

 

 

©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社

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