「特殊な人たち」の話をしているようで、実はすごく普遍的な人間の話をしているとも言えるんです

 

——本作では監督が脚本も担当されていますが、本谷有希子さんの原作から、どのように組み立てていかれたのでしょうか。

 

関根:本谷さんの原作では、寧子の鬱屈した感情がブワァっと一人称で書かれているので、そのまま映画にすることはできないと思ったんです。とはいえ、もちろん原作に対するリスペクトもあったし、原作が本当に伝えようとしているポイントは絶対に外したくない、とも思っていて。映画独自のエピソードを足したり、逆に省いたりしても、原作の読後感と近いものにしたいという気持ちがありました。脚本に関しては(本谷さんが)かなりこちらに任せてくださったのも、うれしかったですね。

 

——長編映画を撮影されてみて、CM制作の現場とはどんなところが大きく違いましたか?

 

関根:やはり、現場に関わっているスタッフたちの能動性が全く違いますね。CMはあくまで受注ありきの作業になるので、映画とはそもそもアプローチの仕方が全く違うんです。逆に言えば、「自主性」こそが映画における一番刺激的なところだし、同時に困難な部分でもあるというか。あともう1つ感じたのは「時間軸の違い」です。そこが今回映画を撮ってみて一番勉強になった部分でもありました。映画の方が、観ている人にとって時間の感覚が、CMよりはるかにシビアだと思うんです。

 

——原作の書影にもなっている葛飾北斎の『富嶽三十六景』における「1/5000秒の波」について、あえて映画で描かなかった理由とは?

 

本谷有希子『生きてるだけで、愛。』新潮文庫 定価:本体400円+税

 

関根:実は僕もこのモチーフを切ってしまっていいものか、すごく悩んだんです。もちろん最初は脚本にも入れ込んであったのですが、「北斎の波」を映画に落とし込もうとすると、どうしても説明的になってしまって……。表現したいことの本質はそれでは無いと思って、さんざん迷った末にそこをカットした脚本を本谷さんに持っていったところ、あっさりOKが出てしまった(笑)。「重要なモチーフをぶった切るなんて」と怒られるんじゃないかと思っていたので…全部理解してくれていたんだと思います。

 

——エキセントリックな大人たちに囲まれて育った監督にとっては、寧子のようなタイプの女性も、それほど珍しくないと言えますか?

 

 

関根:「珍しくない」とは言いませんが(寧子ほどではないにしても)確かに自分の周りにもそういうタイプの女性はいましたね。ただ自分も含めて、「普通」に見えている人ほど意外とヘンだったりするじゃないですか。むしろ「自分こそ普通だ」と思っている人ほど、実際にはぶっ飛んでいたりもするし、ユニークな部分というのは誰にでも絶対にあるはずなんです。そういった意味では、この映画は一見「特殊な人たち」の話をしているようで、実はすごく普遍的な人間の話をしているとも言えるんです。

 

——よく見ると、登場人物それぞれにヘンなところがありますよね。

 

 

関根:そうなんですよ。田中哲司さん演じるマスターの村田も、西田尚美さん扮する妻の真紀も、すごくあったかい人たちのように見えるけど、実は彼らの発言が一番歪んでいたりもするんです。

 

——最後に、関根監督がクリエイティブを通じて一番伝えたいこととは?

 

関根:僕にとって一番大事なのは、受け取る人に何らかの爆発を起こさせるものでありたい、ということなんです。ただ単に僕自身の考えを押し付けるのではなく、常に「問いかけ」を残すようには心がけていますね。たとえそれが、ネガティブなものであってもポジティブなものであっても、別に構わないと思っていて。

 

——そう言われてみると、この映画の結末の捉え方も、観る人によって違うとも言えそうです。

 

関根:スタッフの中でも、男女によってはっきり見解が分かれて面白かったですね。僕自身としては、30%くらいの割合で希望を感じられるように意識はしましたが、2人の未来をどう解釈するかは、あくまで観る人に委ねています。

 


 

 

時にはフィクションの映像も盛り込みながら、あえてナレーションを使わず、基本的にはインタビューを中心に構成されるドキュメンタリー映画『太陽の塔』と、生身の人間の抱える剥き出しの感情を、インパクトのあるエモーショナルな映像と音楽で綴った『生きてるだけで、愛。』。

 

一見すると正反対のようにも見えるこの2作品を、1人の監督がほぼ同時期に手掛けていると聞いた時、その振り幅の大きさに驚くと同時に、非常に興味深い才能が日本の映画界に登場したことに映画ファンとして喜びを感じました。関根監督の生み出す独自の世界観に、今後も注目していきたいです。

 

 

■関連記事
・太陽の塔とは何なのか? 長編ドキュメンタリー映画『太陽の塔』で語られるアートの輝き

『生きてるだけで、愛。』概要

 

『生きてるだけで、愛。』

 

11月9日()新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:趣里 菅田将暉 田中哲司 西田尚美/松重豊/石橋静河 織田梨沙/仲 里依紗

原作:本谷有希子『生きてるだけで、愛。』(新潮文庫刊)

 

監督・脚本:関根光才

製作幹事 :ハピネット、スタイルジャム

企画・制作プロダクション:スタイルジャム 

配給:クロックワークス

 

 

公式サイト:http://ikiai.jp

 

 

 

©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

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