「最低で最高な夢」が見られて、本当に幸せだったんです。

 

――先日の座談会で大久保さんが話していたんですが、実際に若松監督の現場にいるときは、ものすごく怒られるから監督の視界に入らないようにしていたんですって。

 

井浦:照明部は存在感が無かったですね!(笑)

 

――『止め俺』の現場でも、途中から井浦さんが若松監督にしか見えなくなって、「新さんの視界に入らないようにしていた」と。

 

井浦:そうですね、記憶に無いですから(笑)。大久保さん、本当に僕の目の前に入ってきてなくて、僕の方からたまに照明部の方に近づいていって「大久保さん、どうですか?」って声をかけたら、「あ、はぁ……」みたいな感じでした(笑)。でも話し込むとめちゃくちゃ熱いんですよね。

 

――師匠である若松監督を白石監督が演出して、井浦さんが演じて、照明を当てて、撮影して作り上げていくという特殊な二重構造が起きていた、という話題も座談会の時に出ていました。

 

井浦:祀り上げるという感じではなくて、特殊です。例えば歴史上の人物を演じる場合、かつて能がそうであったように時として芝居は「神に祈りを捧げる神事」のように感じることもあるんです。でも、若松プロには「神事」はいらないなと思ったし、それをやったら逆に若松監督に失礼だから、僕らは「ギャグ」なんです。

 

――「最高のギャグ」をやることが神事の代わりになるということですね。

 

井浦:そう。それこそが、その時代に生きた若松監督を含めた「レジェンド」と呼ばれる方々や当事者たちに対して、「僕たちが今やっているのは、全部あなたたちのことだからね」って、笑わせてあげることに繋がると思うんです。

 

――なんだったらレジェンドたちに「酷評されたい」くらいの感じだったんですよね(笑)。

 

井浦:もちろんです。本当にもう、ボコボコにされたいですよ。でもいざ蓋を開けてみたら、意外と皆さん『止め俺』を観て喜んでくださってる。「もう、なんだよ!」みたいな感じもあるんですけど(笑)。

 

――でも、『止め俺』撮影中にちょっぴり現場がしんみりする場面もあったと伺いました。満島真之介さんが突然泣きだしてしまったそうですね。

 

井浦:さすがに僕も焦りました。(と、満島さんの当時の様子を自ら再現しながら)「あ、新さんが、若松監督にしか見えない……」って、泣きじゃくって喋れなくなっちゃて(笑)。「やめろよ、お前! 俺は今日まだ撮影シーンが残ってるんだから、あんまり感動させないでくれ!」みたいな感じでした(笑)。

 

――座談会ではそれぞれが「あんなに酷いこともあった!」「こんなに酷いこともあった!」と口々に若松監督との思い出を振り返りつつ、「いい部分も悪い部分も全部ひっくるめて、まさに人間そのものという感じだった若松監督のことが大好きでした!」と皆さん語っていらっしゃいました。若松監督が交通事故で突然亡くなられてしまって、ぽっかり空いてしまった気持ちの整理をつけるために、もう一度若松プロの面々が集まって『止め俺』を作った、というお話も伺ったのですが、井浦さんにとってこの映画はどういった位置づけになりますか。

 

井浦:まあ、僕が向こうに行って若松監督と逢うまでは、気持ちの整理はつかないと思うんです。ただ、僕は今回夢を見れていたんだなと思うんです。それが「よかったな」と感じていて、言ってみれば、僕も「めぐみさん」なんです。若松監督の背中しか見ていなかったし、唯一監督と正面から向き合って、監督と喧嘩ができる時って、現場の最前線で芝居をしている瞬間だけだったんです。そんな風に、ずっと背中を追いかけてきた人が突然いなくなってしまったわけですが、今回それから6年経って、『止め俺』の撮影現場で、僕の中にいろんな若松監督が確かに居てくれたのを、芝居をしながら感じることができたんです。

 

――なるほど。

 

井浦:「若松監督とまた会えた」とか言えたら素敵なんですけれどーー僕の芝居を観てそう感じてくれた人がいたとしたら僕は嬉しいけれどーー僕自身は「会えていない」んです。若松監督が僕の中に「降りてきた」わけでもないですし(笑)。だって、そんな神聖なものは若松プロには似合わないですから。ただ、自分の中にものすごく大きな存在として6年経っても「若松監督が居てくれた」というのを確かに感じることができた。それがそのまま出てきちゃっているんですよ。

 

だから、僕は『止め俺』の撮影期間中、「最低で最高な夢」が見られて、本当に幸せだったんです。心にぽっかり空いた穴が埋まったのかどうかはわからないですし、僕自身は強くありたいと思っているんですけれど、若松監督にはとんでもない影響を与えられ、学びをいただいたわけですから。この作品をやったことによって「監督、これでまた僕は次に行けます!」なんて、そんなにキレイさっぱり言えるような感じではないですが、これからも若松監督の教えをちゃんと背負ってしっかり生きていくための「いい夢」を見させてもらえたのは間違いないです。きっとこの1回きりの夢を見られたことで「これからも、もっと頑張れるな」という想いは、僕の中に間違いなくあります。

 

――大日方さんは若松プロで「肝が据わった」という表現をされていたんですが、それは井浦さんにも通じることですか?

 

井浦:きっと「肝が据わる」というのは大日方さんなりの言い回しなんでしょうね。これは一番危ない錯覚なんですけれど、若松監督の近くに居ると「自分もできるんじゃないか」って錯覚していくんです。そこで本当に錯覚してしまったら、地雷を踏んでしまうというか、ダメになっていくんです。目の前でとんでもない生き様を見せられて、そこからちゃんと学んで、自分なりに生きていくためにはどうすればいいのか、もがきながらもやっているから、大日方さんはきっと、知らず知らずのうちに肝が据わっていったんだと思います

 

皆それぞれ違う言い回しで持っているはずです。そこで妙な自信がついてしまうのは、若松監督が一番嫌うことなんです。ちょっとでも知ったかぶって、出来るようなことをアピールした瞬間に怒りが飛んできますから。それをやっちゃいけないということは皆知っている。そんな中で、若松監督からとんでもない圧をかけられながら皆が必死でもがいていたから、いつのまにかそれぞれに何かが備わったり、感じ取ることが出来るようになったりしているんじゃないですかね。自分にとってそれが何なのかは、まだちょっとわからないですけれど。出会う前とあとでは確かに何かがちがう。もっと強くなりてぇって、出来なかった事、やらなかった事に飛び込んで、若松監督からいつ声がかかってもいいようにスタンバイしているのが、今も習慣になっています。

 


 

今回実現した『止められるか、俺たちを』での座談会+井浦新さんのインタビューという贅沢な企画を通し、多角的な視点から「若松プロ」と若松孝二監督像が浮かび上がってきました。生前の若松監督にはお目にかかることはできませんでしたが、願うべくは若松監督にもこの記事を読んで笑っていただけたらうれしいです。

 

■関連記事

・「あ、あ…新さんが、若松さんにしか見えない……」って泣き始めてーー『止められるか、俺たちを』スタッフ座談会・前編

・「好きだったんですよ、僕たちはーー」『止められるか、俺たちを』スタッフ座談会・後編

 

『止められるか、俺たちを』概要

 

止められるか、俺たちを

2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開

【2018/日本/DCP/シネスコ/119分】

 

門脇麦 井浦新

山本浩司 岡部尚 大西信満 タモト清嵐 毎熊克哉 伊島空 外山将平 藤原季節 上川周作 中澤梓佐

満島真之介 渋川清彦 音尾琢真/高岡蒼佑/高良健吾/寺島しのぶ/奥田瑛二

 

監督 白石和彌

脚本 井上淳一  音楽 曽我部恵一

製作 尾宗子  プロデューサー 大日方教史 大友麻子 

撮影 辻智彦  照明 大久保礼司

美術 津留啓亮  衣裳 宮本まさ江  ヘアメイク 泉宏幸  編集 加藤ひとみ

録音 浦田和治  音響効果 柴崎憲治  キャスティング 小林良二  助監督 井上亮太

制作担当 小川勝美  タイトル 赤松陽構造  宣伝プロデューサー 福士織絵

製作 若松プロダクション スコーレ ハイクロスシネマトグラフィ

配給 スコーレ

宣伝 太秦

 

 

公式サイト:www.tomeore.com

 

 

 

(C)2018若松プロダクション

関連キーワード
映画の関連記事
  • 周防正行監督待望の最新作『カツベン!』現場取材レポート!
  • 『ドント・ウォーリー』に宿るポートランド魂 ガス・ヴァン・サント監督来日レポート
  • 14年ぶりの来日!映画『パパは奮闘中!』ロマン・デュリスさんインタビュー
  • 観た人の心が軽くなるような映画を作りたい。『リアム16歳、はじめての学校』 カイル・ライドアウト監督インタビュー
おすすめの記事