こだわり抜かれたヒロシのヒットナンバーと3人の人間性

 

——SABU監督はもともとミュージシャン志望だったということもあって、どの作品も音楽や音響の使い方にこだわりを持たれていますよね。今回は特に演歌歌手が主人公だけあって、「曲作り」というSABU監督の原点とも言うべき要素も入っていると思うのですが。

 

SABU:『jam』に関していうと、尖がっている新しさのある音楽から始めてみたいなと思っていたんです。とはいえ、途中から当然演歌が入ってきますし、『jam』というだけあって都会的でどこか狂ってる感じも出したかったんです。音楽担当の松本さんとはとても気が合うのでやりやすいというのもありますし。今回は、割と脚本を書いているときから頭の中でずっと音が鳴っている感じでしたね。

 

——脚本の段階から「ここで音楽が流れる」といったように、イメージしながら書いていかれるんですか?

 

SABU:そうですね。ヒロシのヒットナンバー『こんばん、ありがとう』なんて、完全に頭の中で鳴ってましたから。自分でも「こんばん♪」って口ずさみながら脚本を書いていたくらいですからね(笑)。オープニング曲じゃないとダメっていうのと、夜だから「こんばんは」で、直球でお客さんに「ありがとう」って言っちゃうヒロシの底の浅さが歌詞にも表れているわけです。でも、最終的に歌い上げると良い曲っていう風にしたかったんです。

 

——確かに。一見浅いけど、深いんですね。歌手にとって、ライブやコンサートで歌う曲順があんなに重要だというのも、この映画を観て改めて思い知らされました。

 

SABU:ヒロシに関して考えるのは、すごく楽しかったんですよ。過去に出したCDのタイトルには、ものすごくこだわりました。いかにもヒロシが考えそうなチープ感があるものにしたかったんです。演歌のタイトルって、「○○海峡」とか「○○宿」みたいに大体パターンが決まってくるんですよ。単なる「ありそうでない」タイトルだけじゃダメなんです。それだとヒロシじゃないから(笑)。『石ころ』とか『チンピラ』なんかは自分でも結構気に入ってますね。

 

あとは、お金持ちの女性が好みそうなフレーズを組み合わせてみたりもしましたね。たとえば「セザンヌが好き」みたいなセリフが勝手に出てきたとしたら、そこにちょっとおフランスのエッセンスを足して「セ・ザンヌ」って、なぜか「・」が入っているのもお馬鹿で良いなと思ったり(笑)。

 

——それは観返すたびに新たな発見がありそうですね。ちなみに、ヒロシの歌唱部分はどのように演出されたんですか? もしやSABU監督が自ら歌って踊ってみせたりすることも……?

 

SABU:歌は割と自分で「もう少し語尾をこういう風に」といったように具体的に伝えましたね。芝居部分は青柳君がちゃんと理解してくれていたので、すごくスムーズでした。普段あんまり現場でアドリブを追加したりしない方なんですが、「3、2、1」のところは現場で急遽作りましたね。

 

——最高ですね。思わずヒロシらしさがにじみ出てしまったんですね。

 

SABU:青柳君は速攻マスターしてました(笑)。

 

——ヒロシ以外のキャラクターも、みなさんハマリ役でした。

 

 

SABU:町田君の役も「純愛」ではあるんですが、ある意味ストーカー的というか、客観的に見ると「ちょっと引く」というような感じを出したかったんですよ。彼女の手にハンドクリームを塗ってあげるところとか、あの辺も「ちょっと気持ちワルい」というところまで持っていきたかったんです。鈴木君の役は、誰からも相手にされていないところが面白いんじゃないかと思って、どんどん孤独になっていく感じを出せるように持っていけたらなと。激しい中にも、切なかったり哀しかったりするところが出せると良いなと思って、『子連れ狼』的な感じで、乳母車の代わりに車椅子を押して戦っているみたいなね(笑)。

 

 

——「型にはまらないような作品にしたい」と最初にお話しされていましたが、群像劇を通して人間のいろいろな側面を描いていきたい、という思いはありますか?

 

SABU:その時その時の思い付きですけどね(笑)。でも、なんとなくいつも降ってくるというか、次やるべきことがぼんやり見えてくる感じがするんです。毎回それを見つけていく作業になりますね。

 

——『jam』には「因果応報エンターテイメント」というキャッチコピーが付いていますが、SABU監督ご自身も何か行動を起こせば、新しいことが起きるとお考えですか?

 

SABU:そうですね。そのためにも常にアンテナを立てるようにはしています。

 

——『jam』はエンドロールが終わったあとも見逃せないですね。

 

SABU:そう。続編の話もあったので、あえて『アベンジャーズ』シリーズ的な終わり方にしてあるんです。きっと『jam』シリーズなら、まだまだいくらでも続けられると思いますよ。

 


 

インタビューの最後に「ちなみにプレスの表紙イラストを描いたのも俺なんです(笑)」とちょっぴりハニカミながら教えてくださったSABU監督。その多才ぶりには目を見張らずにはいられません。

 

 

第31回東京国際映画祭で『jam』が上映された際には、青柳翔さんがヒロシに成りきって満席の客席の後方から登場し、『こんばんわ、ありがとう』を振り付きで熱唱。さらには観客とコールアンドレスポンスを繰り広げるなどして大盛り上がり。

 

 

そのあとの舞台挨拶でSABU監督は、「ヒロシのリサイタルを(舞台挨拶で)行うことまでイメージしていた」とコメントし「『jam2』の方がもっと面白いです」と公言されて、会場を大いに沸かせていました。本作の大ヒットを受け、ぜひとも続編が制作されることを期待しています!

 

SABU監督衣装:Yohji Yamamoto

取材・構成・文:渡邊玲子

写真:加藤真大・渡邊玲子

 

 

『jam』概要

 

『jam』

 

12月1日(土)より新宿バルト9他全国公開

 

・エグゼクティブプロデューサー:EXILE HIRO

・監督・脚本・編集:SABU

・出演:青柳翔、町田啓太、鈴木伸之、秋山真太郎、八木将康、小澤雄太、小野塚勇人、佐藤寛太、野替愁平、清水くるみ、筒井真理子

・配給:LDH PICTURES

・宣伝:フリーストーン 

・スペック:2018/日本/カラー/シネスコサイズ/5.1ch/102分/PG-12

 

 

公式サイト:https://ldhpictures.co.jp/movie/jam/

 

 

©2018「jam」製作委員会

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