トーマスにとっての愛の形とはーー

 

——この映画は、愛について様々な解釈が出来る物語だと思うんです。オーレンの死後、トーマスは自分の正体を隠したままオーレンの家族に近づきますよね。恋人だったオーレンの死を知ったトーマスが、オーレンの家族に会いに行ってみたいという心境に至った理由が知りたくて。一般的には不倫関係にあった人の家族に、わざわざ会いに行く気は起きないのではないかと思うのですが。

 

タミール:要するに、彼はスパイをしに行ったわけですよ。ちょっと気持ちが悪いですよね(笑)。

 

 

——彼の行動は、恋人の家族に対する償いのような気持ちによるものなのか、それとも単なる好奇心によるものなのかはわかりませんが、実際にアナトに会ってみたら、同じ哀しみを共有する者同士として、彼女を助けたくなってしまったのではないか、と感じました。タミールさんは、トーマスの中でどのような心境の変化があったとお考えですか?

 

タミール:そうですね。これはあくまで個人的な見解にはなりますが、トーマスはオーレンのことを知りたくてイスラエルにやってきたんだと思います。でも、最終的には自分の正体を明らかにして、彼の家族に入り込みたいと思うようになる。トーマスという男性は、すごく独特の性格をしているんです。祖母に育てられたということもあり、すごくシャイな一面もあわせ持っている。そもそも最初にトーマスを誘惑するのは、アナトの方なんです。

 

——そう言われてみたら、そうですね。

 

タミール:ベッドの中でオーレンがトーマスに、自分の妻のアナトと息子の写真を見せながら話すシーンがありますが、その流れでトーマスは「奥さんとはどんなふうに夜の営みをしているのか」と尋ねますよね。つまりトーマスにとってアナトはオーレンの一部であると言えるんです。だからこそ、彼も彼女を自分のものにしたくなったんだと思います。

 

——なるほど! そういう解釈もできますね。では最後に、イスラエル映画のプロデューサーとしての見地についてもお聞きしたいのですが、タミールさんは世界中に居るアート系の映画が好きな観客にとって、どのようなストーリーやビジュアルが響くと考えて映画制作をされていますか?

 

タミール:それは逆に、私の方が訊きたいです(笑)。

 

——ははは(笑)。確かにそれはそうですね。まさに『彼が愛したケーキ職人』のような映画だと思います!

 

タミール:OK(笑)。アリガトウゴザイマス。

 


 

 

第31回東京国際映画祭で本作が上映された際のQ&Aも拝見したのですが、まだ幼い息子さんたちも一緒に登壇されていて、とても可愛らしかったのが印象的でした。

 

 

インタビュー中にそのことに触れると「家族みんな日本が大好きなんです。私の妻はアーティストなんですが、一昨年の春に彼女の展覧会に合わせて家族で初めて日本を訪れ、その時は東京と京都に1週間ずつ滞在しました」とのこと。

 

そしてインタビューを終えたあと、タミールさんに「これからも素敵な映画をぜひ沢山プロデュースしてください」とお伝えしたところ「ちょうどいま、グレイツァ監督が新作の脚本を書いているところなんです」という嬉しいコメントが!

 

次回作では、果たしてどのような愛の物語が綴られるのか。いまから完成が待ち遠しいです。

 

取材・文:渡邊玲子

写真:加藤真大/渡邊玲子

『彼が愛したケーキ職人』概要

 

『彼が愛したケーキ職人』

 

監督・脚本:オフィル・ラウル・グレイツァ
出演:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー(『運命は踊る』)、ロイ・ミラー、ゾハル・シュトラウス(『レバノン』)
2017|イスラエル・ドイツ|ヘブライ語・ドイツ語・英語|スコープサイズ|カラー|5.1ch|109分

12月1日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
配給:エスパース・サロウ

 

 

公式サイト:http://cakemaker.espace-sarou.com/

 

 

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