第35回大宅壮一ノンフィクション賞・第25回講談社ノンフィクション賞をダブル受賞した渡辺一史氏のノンフィクション『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』をもとに、大泉洋さん主演で映画化した『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が、12月28日(金)より劇場公開。

 

前編に続き、前田哲監督インタビューの後編をお届けします。前田監督の映画制作論から本作の制作秘話について、たっぷりと語っていただきました。

 

■前編はこちら

映画監督なんていうのは、何1つ思い通りにいかないんですよ。でも「それをどれだけ楽しめるか」ということです。

 

——過去のインタビューで前田監督が「自分は竹を割ったような性格ではなくて、餅をついたような性格だ」と答えていらしたのがとても印象的でした。

 

前田監督:よく覚えてるね、俺の名言を(笑)。

 

——ははは(笑)。でもインタビューを読むと本当に名言だらけで、一体どんな方なのかお会いするのが楽しみでした。今こうして取材をしていても、とてもそんなタイプには思えないですし、ましてや「後ろ向きで全力疾走している」ようには見えないのですが(笑)。

 

前田監督:こんなに面白い人を、日本映画界は4年もほったらかしにしていたんですよ(笑)。そう考えると、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』を企画・プロデュースしてくれた石塚(慶生)さんは、本当によく頑張ってくれましたよね。

 

——前田監督の場合は、いわゆる「原作モノ」といっても『ブタがいた教室』しかり、自分から「これがやりたいんだ!」と提案されていらっしゃることが多いですよね。

 

前田監督:あの作品は、実現するまでに13年かかりましたからね。ちなみに『王様とボク』は5年かかりました。とはいえ、四六時中その作品のことだけやっているというわけではないですけどね。

 

——たとえどんなに時間がかかっても「絶対に映画化してみせる」という信念を貫ける理由はなんですか? 「映画という手段で伝えたい」と思う理由が知りたいんです。

 

前田監督:つまり「なぜ映画なのか」ということだよね。それは実に簡単なことですよ。もし僕が小説家だったら小説で発表するし、写真家だったら写真だし、詩人だったら詩として出すわけだけども、なんといっても映画は総合芸術だから、広く大きく伝わりやすいと言えるしね。そもそも映画監督っていうのは、何もできない人なんですよ。撮影はできないし、演技することもできないし。書くこともたまにはありますけど、基本的には脚本家が書きますよね。僕自身「自分は凡人だ」っていう自覚があるから、誰より努力することをいとわないし、餅をついたようにいつまででも粘るんです。「あきらめることを知らない」と言えるのかもしれない。

 

——とても興味深いです。

 

前田監督:小さい頃からプラモデル1つ満足に完成させられたことがなかったんですよ。でも「どうして映画だけはできるんだ?」って、本当に不思議ですよね。つまり、映画は僕1人で作るわけじゃなくて、皆の力で作るものだからなんです。映画って、たった1人の情熱から始まる不思議なメディアなんですよ。その情熱が強ければ強いほど、次々にいろいろな人が巻き込まれて、時には1000人もの人が一緒に作っていくわけです。だから、映画監督は情熱だけは誰にも負けないと思いますね。本来僕は1人っ子だから、1人でやる作業が好きなはずなんですが、結局はいろんな人とコラボして生まれるものが好きなんでしょうね。

 

ーーなるほど。

 

前田監督:いくら自分のイメージしたものを具現化しても、最初から自分が想像していたものに過ぎないですよね。僕は、自分自身が驚くものや自分の想像を超えるものを作りたい。そのためには、誰かと一緒にやる必要があるんです。「所詮、お前1人の頭だろ。100人スタッフがいたら100の頭が使えるんだぞ」って、相米慎二監督もよく言っていました。

 

映画監督なんていうのは、何1つ思い通りにいかないんですよ。でも「それをどれだけ楽しめるか」ということです。「えー!? ここでこんな顔する?」「おもろいじゃん! それでいきましょう!」っていうことじゃないですか。「えー!? こっちから撮るの?」「じゃあこっちからいきましょうか」って、とにかく映画が面白くなればいいんですよ。それが面白いかどうかを決めるのが、映画監督の仕事なわけだから。実にシンプルですよね。

 

ーーたしかにそうですね。

 

前田監督:自分は昔から映画だけでなくいろいろな表現に驚かされてきたから、自分でもそういうものが作りたいって思うんです。映画に限らず「自分の想像を超えるものを作る」ことこそが、全ての「ものづくり」における基本でしょう。中でも映画は生き物だから、どんどんどんどんメタモルフォーゼしていくわけです。シナリオはあるけど、現場のスタッフの意見とかキャストの意見とかで、どんどん変化していくことをいとわない。それが楽しいわけですよね。

 

 

■次ページ:「マイノリティーの物語だからこそ、エンターテイメントとして多くの人に観てもらえるものに仕立て上げなければいけない」

 

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