「マイノリティーの物語だからこそ、エンターテイメントとして多くの人に観てもらえるものに仕立て上げなければいけない」

 

——監督は以前「想像力が失われているのが、いま一番危惧すべき事」と発言されていましたが、まさにそこにつながるわけですね。その一方で「人は傷つくことで成長する」というお話もされていましたが、もう少し詳しく伺えますか?

 

前田監督:そうですね。魂は傷つかないんですよ。

 

——またしても名言が飛び出しましたね。「魂は傷つかない」とは、どういうことですか?

 

前田監督:魂は磨かれるだけで、傷つかないんですよ。

 

——たとえどんなに辛くても……?

 

前田監督:他人が磨いてくれているんですよ。つまり、世間から辛いと思われるようなことがあればあるほど、本人は光り輝いていくんですよ。

 

——確かにそう思えたら、ものすごく楽になりますね。実は最近『いろとりどりの親子』という、多様性をテーマにした海外のドキュメンタリー作品の監督にもインタビューしたのですが、その際に痛感したことがありまして。たとえ身近にいる人であっても、その人が普段「何を考えているのか」とか「何に苦しんでいるのか」といったことは、意外とわからないと思うんです。でも映画を介してなら現実社会では踏み込めないことにも触れられるし、スクリーン越しに何かに気づくこともできる。それこそが映画の持つ力なんじゃないかという気がしていて。

 

前田監督:わかります。実はこの映画を撮る前に、僕はコンドルズの近藤良平さんが障がい者と一緒にダンス公演するまでの過程を、ドキュメンタリー映画として撮ったんです。その公演を観た人が、「障がい者にこんなことをさせていいの?」って驚いて、そこで初めて「自分も知らぬ間に差別意識を持っていたんじゃないか」って気づくわけですよ。「障がい者なのに」とか「女なのに、男なのに」とか「~なのに」と。一体誰がそんな壁を作るのですか?

 

僕はそういうものは全部取っ払って生きるべきだと思うし、知らぬ間にそういった偏見が生まれているという事は「自分で自分を呪縛しているから」だと考えています。それこそ誰からも頼まれていないのに、自分の中で勝手に壁を作ってるんですよ。そういった壁を、鹿野さんはすべて解放して生きていますよね。というより、24時間誰かが周りにいる環境で、自分から「これしてくれ、あれしてくれ」って言わないと、命に関わるからなんです。それこそが、僕は人間が生きるということの本質をついてるような気がするんですよね。

 

大学で講師を務めていた時に僕が学生によく言ってたのは「ものをつくるっていうのは、自分を解放することなんじゃないのか」ということ。「呪縛は自分自身で勝手にかけているものだから、その呪縛を解く鍵は自分しか持っていないんだよ」って。

 

——まさに、そうかもしれません。

 

前田監督:きっと周りの人は「そんなことで悩まなくていいよ」とか、いろんなアドバイスをしてくれると思うけど、大事なのはいかに自分で作った壁をバーンとぶち壊して、真っ裸で向き合えるかってことですよね。ものづくりにはそういうところが欠かせないんです。いつも真っ裸で「はいどうぞ」「どうしますか」って全部さらけ出した方が、役者も心を開いてくれるし、きっと自分を開放して表現してもらえるんじゃないかなと感じています。

 

——『こんな夜更けにバナナかよ愛しき実話』の鹿野さんも、一見ワガママばかり言っているように見えて、実は周りをどんどん巻き込んでいくことで、不可能と言われた自立生活をし、自分の人生を生き抜いたわけですよね。そしてこの世からいなくなったあとも、こうして映画にまでなって。監督は渡辺一史さんの原作本を読んだときに「鹿野さんは自分と共鳴できる人だ」と思われたのですか? それとも鹿野さんを知って「自分もそうあるべきだ」と思われたのでしょうか。

 

 

前田監督:鹿野さんのそういうところに、みんな魅力を感じて惹きつけられちゃうんだと思うんです。まさにコンドルズの近藤良平さんがそういう人なんですよ。障がいのことを強調したコントや動きをダンスの中に入れたりするんです。それができるのは、彼には障がい者との間に一切壁がないから。

 

この映画においては高畑充希さん演じる安堂美咲がそういったポジションですよね。「何なのあんた。何様?」「障がい者って、そんなに偉いの?」って。それは全く偏見がないから言えることなんです。「同じ人間でしょ」って。そこがこの映画の肝かなと思っているんですけどね。

 

——私もそう思います。あとは、社会に出て生きること。

 

前田監督:そうだね。自立生活という事ね。

 

——支えてくれる人さえいれば、「絶対に無理」だと言われたことですら「無理じゃなくすることも可能なのだ」ということを、改めて知ることができる映画だと感じました。

 

 

前田監督:そう。いま盛んに「自己責任」とか「生産性」とか言われているけど、「人に頼って何が悪い」っていうことですよ。すべての人は赤ん坊の時は親の世話になり、年老いては誰かの世話になることがある。映画の中にも「人はできることよりできないことの方が多いんだぞ」という鹿野さんの言葉が出てくるけれども、自分でできないことは遠慮せずに人に頼んでもいいんですよ。でも、誰かが困っている時は手を差し伸べる人間であるべきだと思うし、僕はそういう風に生きたいなと思ってる。みんながそうすれば、世界中ハッピーで平和になるはずなんですよ。

 

——確かにそうですね。つまり、監督は映画を通じてこれからもそういったメッセージを観客に伝えていきたい、ということですね。

 

前田監督:そうですね。でもそれは必然ではないんです。もちろんお土産として何らかのものを持ち帰ってもらえたら嬉しいですけど、まずはあくまで「映画として面白いものを作りたい」という気持ちがありますね。「ハハハ」と笑わすとか「なんかわからないけどグッときた」って言わせるとか、観客をそういう気持ちにさせることが一番大事。だってそもそも「ハラハラドキドキするわ〜」っていうのが映画の基本なわけだから。

 

「すべての映画はサスペンスであり、恋愛映画である」と言われる所以はそこですよね。それは僕の持論です。だって「この2人くっつくの?」っていうのと「このあとどうなるの?」っていうのは同じですからね。だからどんな題材であろうとも、そういった要素は欠かせないと思うし、映画は最後まで観客が見飽きないように作るべきなんです。

 

エンドマークを見て「あ〜良かった」と思ってもらえればいい。「何かしらのメッセージを感じてもらう」っていうのは、あくまでおまけみたいなもの。でも中にはこの映画に出てくる「え? 嘘を本当にしちゃえば良いんだよ」っていう鹿野さんの言葉が「一番響いた」って言う人もいるわけです。

 

——まさに私もその1人です。そんな発想、これまで自分ではしたことがなかったから。

 

前田監督:その一方で「お前、正直に生きてんのか?」という言葉が響いたという人もいる。要は人によってグッと刺さる言葉って違うんですよ。初めから全く狙っていなかったわけでもないけど、結果的にそういう映画にできた事自体は良かったなと思います。でも、あくまで合言葉は「まずは映画として面白いものを作ろう」っていうことですよ。

 

僕の場合は、どうしてもドキュメンタリーっぽい方向に寄りがちなんだけど、そういう経験値があるからこそ、今回はうまくバランスが取れたんだと思うんですよね。『ブタがいた教室』という実験的な作品を踏まえて、「今回は王道で行くぞー」「エンターテイメントであり続けるぞ!」って、脚本家はブレずにシナリオを貫いてくれたし、最後までプロデューサーが言い続けてくれたんです。ちゃんと伴走者がいたからこそ、実現できたことだと思います。「マイノリティーの物語だからこそ、エンターテイメントとして多くの人に観てもらえるものに仕立て上げなければいけない」という、強い使命がありましたから。

 


 

こちらが予想していた以上に次から次へと名言が飛び出し、まさに大学で受ける映画の講義さながらの取材でした。しかも取材後には、前田監督自ら本作のラフスケッチや企画段階の覚書まで見せてくださったんです。

 

 

前田監督:まさにここからすべてが始まったんですよ。真ん中に鹿野さんがいて、その周りに学生がいて、ヒロインがいて。美咲のキャラクターを決める前から、「あんた何様? 障がい者ってそんなに偉いの?」ってセリフを言わせたいという気持ちがあった。それも全部メモに書いてありますね。

 

「こんな貴重なものまで見せていただけるとは……!」と恐縮していたら「僕は全て開放してるから、いつでもマッパですよ。『それが問題だ』って言われる時もありますけどね」と笑う前田監督なのでした。

 

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』概要

 

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』

12月28日(金)全国公開

大泉 洋

高畑充希 三浦春馬

萩原聖人 渡辺真起子 宇野祥平 韓英恵 /竜 雷太 綾戸智恵/佐藤浩市/原田美枝子

監督:前田哲 

脚本:橋本裕志 

音楽:富貴晴美 

原作:渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(文春文庫刊)

主題歌:「フラワー」ポルノグラフィティ(SMEレコーズ)

配給:松竹  

 

公式サイト:http://bananakayo.jp/

 

 

©2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

関連キーワード
映画の関連記事
  • 周防正行監督待望の最新作『カツベン!』現場取材レポート!
  • 『ドント・ウォーリー』に宿るポートランド魂 ガス・ヴァン・サント監督来日レポート
  • 14年ぶりの来日!映画『パパは奮闘中!』ロマン・デュリスさんインタビュー
  • 観た人の心が軽くなるような映画を作りたい。『リアム16歳、はじめての学校』 カイル・ライドアウト監督インタビュー
おすすめの記事