「グリーン・ハウス」とドキュメンタリー映画の良さ

 

——この映画を観ると「一度でいいから『グリーン・ハウス』で映画を観てみたかった」という思いに駆られます。映画館の中に喫茶店「緑館茶房」を開設して「コクテール堂」の豆を仕入れたり、オーナーを招いてコーヒーの淹れ方をじきじきに指導してもらったり、スクリーンの前に生花を飾っていたというのにも驚きました。

 

映画の中で、常連だった女性が当時のリーフレット「グリーンイヤーズ」をテーブルの上に並べながら、図面をたどって館内を案内してくださるシーンにグッときました。『ムーンライト・セレナーデ』が上映前に流れていたというのも素敵ですよね。

 

佐藤監督:あの曲を最初に映画に付けたときは、チケットガールをしていた山崎英子さんから「こんなにパツンって終わらない。だんだんボリュームが小さくなってフェードアウトしてくんだ」ってダメ出しされてしまったんです。もちろん直しました(笑)。久一さんは本当に細部にまでこだわっていたみたいですね。

 

——取材を進めていく中で、監督が新たに発見したことはほかにもありますか?

 

 

佐藤監督:「グリーン・ハウス」は「酒田大火」の火元になったということもあって、皆さん口が重いのかなと思っていたら、予想と全然違ってめちゃくちゃうれしそうにしゃべってくださったんです。ちなみに「ケルン」のマスター・井山計一さんに至っては、インタビューすらしてないですからね(笑)。

 

——それはどういうことですか?

 

佐藤監督:いきなりしゃべりだしたんです。「うわ、カメラ回さないと。やばい、やばい!」って焦りました。ひとしきりしゃべって「じゃあ終わり」って(笑)。

 

——「グリーン・ハウス」について語りたい気持ちはあっても、今までなかなか語る機会がなくて、いざ語り出したら思い出が止まらない、みたいな感じだったんでしょうね。

 

佐藤監督:そういう意味では佐藤久一さんが作ろうとした「グリーン・ハウス」は、今のシネコンとは似ているようで全く違うものだったんじゃないかなと思います。

 

 

——文化を根付かせようとしたことも素晴らしいですよね。映画に対する日本人の熱量が今とは大きく違ったというのもありますが、あんな素敵な環境で映画が観られたなんて、本当に贅沢で羨ましい。香りまで取り入れるとは、ある意味4Dに近いですよね。

 

佐藤監督:確かに「自家製4D」と言えるかもしれないですね。

 

——『世界一と言われた映画館』を上映する時もコーヒーの香りをロビーに充満させてみては?

 

佐藤監督:実は映画祭で上映した際にコーヒー屋さんが出店していたので、映画にちなんで「コクテール堂」のコーヒー豆を仕入れてもらったところ、なんと200杯も売れたんです。

 

——それはすごい! ぜひ全国の劇場でもお願します(笑)。ちなみに次回作の構想はありますか?

 

佐藤監督:もしこの映画が大ヒットしたら、久一さんの「フランス料理篇」を撮りたいです。

 

——次回もまたドキュメンタリーなんですね。監督にとってドキュメンタリー映画の魅力とは?

 

佐藤監督:たとえ時間がかかっても、少人数で作ることができるところです。一口にドキュメンタリーと言っても、幅が広いですよね。本人が「これはドキュメンタリーだ」って言いきってしまえば、なんでもドキュメンタリーになるというか。特に海外の作品には完全にカット割されていて、「これドラマじゃん!」といったものもあれば、逆にカメラを意識しなさすぎて不自然な作品もありますからね。

 

——先が読めないところが面白かったりも?

 

佐藤監督:もちろんドラマにはドラマならではの良さがあるのですが、撮影に入る段階で中身はほとんどできあがっているんですよね。その点ドキュメンタリーは撮っていくうちに「こういう情報もあるよ」って教えてもらうことでどんどん深掘りしていける部分もあるし、ライブ感があって面白いなと思うんですよね。

 

——つまり佐藤監督は全てをコントロールしたいタイプではないという事ですね。

 

佐藤監督:そうですね。あまりガチガチに決めないで撮ったほうが面白いとは思いますね。

 


 

実は取材後、SWAMP編集長も含めて雑談をしていたところ、思いがけない展開があったんです。

 

SWAMP加藤:映画に登場する「ケルン」のマスターも興味深いですよね。ご自身が手掛けた「雪国」というカクテルは「いまや世界のスタンダードになっている」と、さらっとお話しされていましたが。

 

佐藤監督:実は井山計一さんを主人公にした『YUKIGUNI』というドキュメンタリー映画も同時期に劇場公開されるんです。ちなみに撮影は僕が担当しています。

 

——えー!? スピンオフみたいですね。

 

佐藤監督:もともと井山さんには、2年前ぐらいから取材をしていたんですよ。

 

SWAMP加藤:まさか別の映画になっていたとは……! こんなことってあるんですね。

 

——井山さんは「グリーン・ハウス」を語る上で、なくてはならない重要人物ですよね。まさかの展開で驚きました。これこそドキュメンタリーの面白さですね。

 

SWAMP加藤:コクテール堂のコーヒーも気になりますが、「雪国」も気になりますね。

 

佐藤監督:井山さんは92歳の今も現役なので、酒田に来ていただければご本人の作った本場の「雪国」も飲めますから。是非『世界一と言われた映画館』と『YUKIGUNI』を観てから、酒田にお越しください(笑)。

 

『世界一と言われた映画館』概要

 

『世界一と言われた映画館』

2019年1月5日(土) 有楽町スバル座ほか全国順次公開

配給:アルゴ・ピクチャーズ

 

公式サイト:http://sekaiichi-eigakan.com/

 

 

©認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭

 

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