これまでにもSWAMP(スワンプ)にて記事をお届けしてきた、現在公開中のドキュメンタリー映画『YUKIGUNI』『世界一と言われた映画館』。両作とも山形県酒田市を舞台にしており、スタンダードカクテル「雪国」の生みの親にして、90歳を超えた今も現役のバーテンダーとして喫茶「ケルン」に立ち続けている井山計一さんが出演されています。

 

このたび『YUKIGUNI』の渡辺智史監督と『世界一と言われた映画館』の監督にして『YUKIGUNI』の撮影も担当している佐藤広一監督のダブルインタビューが、ドキュメンタリーさながらのライブ感で実現! お2人の出会いのきっかけから、両作の制作にまつわる珠玉のエピソードをお楽しみください。

 

リミックスの達人がたくさん居る山形県という土壌

 

ーーインタビュー前に『YUKIGUNI』の舞台挨拶も拝見させていただきましたが、お2人の軽妙なトークがとても面白かったです※1。そもそもの出会いのきっかけは何になるのでしょうか?

 

※1:『世界一と言われた映画館』の初日舞台挨拶取材後に、翌日『YUKIGUNI』の舞台挨拶がポレポレ東中野であることを知ったSWAMP編集長がその取材を打診。そこから渡辺監督と佐藤監督に、舞台挨拶後お時間を頂戴してインタビューさせていただくことになった。

 

渡辺:2011年に公開した『よみがえりのレシピ』の制作時に、現場の撮影ができる経験者を探していて「山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下、YIDFF)」事務局長の高橋卓也さんを通して(佐藤さんを)紹介してもらったんです。

 

佐藤:その前にも「YIDFF」で、ちょっとだけ面識はあったんですよ。

 

ーー「YIDFF」が最初のきっかけだったんですね。

 

渡辺:そうですね。ここ最近一番仲が良くて、信頼がおける仕事仲間であり気の置けない友人でもあって、本当に頼れるアニキです。

 

佐藤:アニキとか思ってないでしょ(笑)。毎日のようにメッセンジャーのやり取りをしていますけど。

 

渡辺:その量が半端なくて、1ヶ月前に遡るのが面倒になるくらいなんです(笑)。

 

佐藤:前に送ったでしょっていう内容も、「また送って」という(笑)。

 

ーー恋人みたいですね(笑)。改めてですが、山形県酒田市を舞台にしたドキュメンタリー映画が同時期に2本公開されていて、非常に興味深いです。

 

 

渡辺:狙ってこの2本が作られたわけじゃなくて、なるべくしてこうなったというか。

 

佐藤:公開時期もたまたまなんですよね。

 

ーーそう聞くと、まさしくドキュメンタリーだなぁと感じます。

 

佐藤:何かの巡り合わせなのか、公開している映画館同士でバーターで予告編を流したり、お互いの監督作の舞台挨拶に行くという※2。

 

※2:『世界一と言われた映画館』は東京では有楽町スバル座、『YUKIGUNI』はポレポレ東中野とアップリンク渋谷で現在公開中。

 

渡辺:面白いですよね。

 

ーー僕もこういう巡り合わせが続いた取材は初めてなので、ここに至るまでの経緯も改めてお聞きしたいです。

 

渡辺:先に『YUKIGUNI』となる企画を立ち上げていたんです。そのあとで『世界一と言われた映画館』のプロデューサーも務めている高橋さんが、ずっと撮りたいと思っていた佐藤久一さんの映画を企画したのですが、(佐藤久一さんの人生は)映画として作るにはあまりにも膨大な情報量でして。90分程度に収まるドキュメンタリー映画として撮るために1人に絞るなら、僕自身お酒も好きだったので井山計一さんかなと思って今の形になりました。

 

同じ頃に、高橋さんが「グリーン・ハウス」を題材にして撮りたいということになり、『世界一と言われた映画館』という別の映画が作られたという経緯です。

 

ーーなるほど。以前の佐藤監督のインタビューでお聞きした内容とつながりました。

 

渡辺:(『YUKIGUNI』の撮影で)現場での人間関係もできていたので、映画としてはラッキーだったんじゃないかなと。

 

佐藤:最初は共通の知り合いで「YIDFF」のボランティアをされている怪談作家の黒木あるじさんが関わるっていう話だったんです。実際に始まったら僕だけ関わることになったんですが、『世界一と言われた映画館』を山形美術館で最初に上映したときも黒木さんがボランティア受付をされていて、(受付をしながら)その場で怪談を書かれていたんです(笑)。

 

ーーそのエピソードもドキュメンタリーになりそうなくらい面白いですね!

 

渡辺:黒木さんはもともと映像制作をされていたので、僕も大学を卒業して自主映画撮影をしていた時に、編集ソフトの使い方など教えていただいたんです。

 

佐藤:今では怪談界のホープですよね。

 

渡辺:それでも「YIDFF」のボランティアを忙しい時もずっとやられているという

 

ーーしかも、その場で怪談を書かれている。

 

渡辺:山形ってそういう意味ではーー井山さんもそうですがーー個性的な方が多いですね(笑)。黒木さんもそのまま映画になるんじゃないかな。

 

佐藤:確かにね(笑)。

 

渡辺:山形出身の作家の方も多くて、「YIDFF」もやっているので独特の文化の混ざり方があるというか。僕も「YIDFF」の影響でドキュメンタリーを撮り始めたんです。

 

ーーそのきっかけも「YIDFF」だったのですね。

 

渡辺:そうです。なので、あんまり「ああしよう、こうしよう」というより、自発型なんですよね。どこかの会社で予算があるから映画を作ろうというよりも、地元にいる人たちが「これ面白そうだから映画撮ろうよ!」ってお金を集めて撮るみたいな。僕の前々作の『よみがえりのレシピ』と前作の『おだやかな革命』※3も自主映画なんですが、そういうノリで映画を作り続けていく土壌があるんです。

 

その中で『YUKIGUNI』と『世界一と言われた映画館』の両作が生まれてきたという背景がありますね。それは、ドキュメンタリー映画祭の高橋卓也さんからの影響が強い。高橋さんが、過去に恩地日出夫監督の『蕨野行』のお金集めで劇映画の制作費の半分近くを集めたという経験があり、そういう土壌が山形にはあったと思いますね。

 

※3:『おだやかな革命』も撮影は佐藤広一さんが担当。

 

佐藤:(『YUKIGUNI』の制作期間は)2年半で、こちらは2ヶ月半とだいぶスケジュールは違いますが(笑)。

 

ーーしかも最初は短編だったのが、撮っていくうちに長編になったんですよね。

 

佐藤:一応、事務局には断りましたけれど(笑)。

 

ーーそこもドキュメンタリーならではですよね。

 

佐藤:(映画に)出てくれる人の話を次々に聞いていくという形だったので、ライブ感がありました。あんまりガチガチに決め込まないで、この人はこういう役割というゆるいくくりで撮っていったので、編集している時もDJみたいな感じでしたね(と、DJのスクラッチっぽい仕草でバイブスを上げる佐藤監督)。

 

一同:(爆笑)

 

渡辺:普段全然DJっぽくないのに、なんでいきなり自分を例え始めたの(笑)。

 

佐藤:ははは(笑)。「ここはこの話をここから持ってこようZE!」みたいな。

 

渡辺:そんなノリだったんですか(笑)。

 

ーーそのお話を聞いたあとに観ると、また違った観方ができそうですね(笑)。

 

渡辺:そういう意味では、井山さんもご自身の思い出グラフィティをいっぱい持っているんですよ。「ケルン」に行くといきなりカセットやDVDを出してきて再生し始めたり、ときどき自分の好きな曲をかけてDJっぽいこともしていますよ。

 

ーーおしゃべりも流暢なので、それもビートを刻んでいるみたいですね(笑)。

 

渡辺:そう考えると、山形にはいろんなDJが居るんですね。映画監督DJとバーテンダーDJに、黒木さんもホラーストーリーをかき集めてきてリミックスしていますし。

 

ーーDJ大国ですね(笑)。かき集めるというのは?

 

佐藤:本屋さんや出身校の学園祭とかで、怪談エピソードをほかの人から買っているんですよ。

 

渡辺:民俗学的アプローチで、実際にあった心霊体験を集めてご自身の中でリミックスして本にしているんです。

 

ーーへぇー! まさしくDJですね。実際にあったことを掛け合わせて。

 

渡辺:カクテルもそうですよね。『YUKIGUNI』をてがけてくれたオーディオスタジオの方も、(音響作業は)カクテルと一緒だと言っていて。しゃべっている人のセリフを立たせるのか、音楽をたたせるのか、その微妙なバランスをチューニングしていく作業なので、世の中すべてのことはリミックスと言えるかもしれません。

 

ーー記事もまさしくそうですね。

 

渡辺:個性的なリミックスの達人が、山形にはいっぱい居るというか。

 

 

ーー井山さんが「雪国」を作られた時も、完成形を思い浮かべてというよりは、そこにあるものをミックスして物語はあとからつけるんだと語られていますよね。『YUKIGUNI』という作品自体も、構成自体は撮りながら考えていかれたんですか?

 

渡辺:最初はスタンダートカクテルを作った井山さんを軸にして、いろんなバーテンダーの人が登場していくという形を考えていたんですが、酒の世界って奥が深いといいますか、とても専門的な領域で、「ウォッカ」1つとってもいろんな「ウォッカ」があってだんだん説明が増えていくんです。そうなっていくと映画としてどうかなと思い悩んでいた時に、成田一徹さんの「BARは人なり」という言葉に出会って、これだなと。

 

そこからBARはマスターに会いに行く場所なんだと考えた時に、井山さんの人柄・人生を通してカクテルだったりBARを考える映画になれば、普遍的というかBARに限らず酒場の映画として楽しんでいただけるんじゃないかなということに、たどり着いた感じですかね。

 

ーー『YUKIGUNI』というタイトルも、カクテルの名前でもあり井山さんがいる山形という場所のことでもあるので、素晴らしいです。

 

■次ページ:井山さんとの撮影秘話と「BAR」と「映画館」という場所

 

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