井山さんとの撮影秘話と「BAR」と「映画館」という場所

 

ーーまず『世界一と言われた映画館』を観ていて、最初に井山さんが出てきた時は「よくしゃべるおじいちゃんだなぁ」と思っていたんですが、そのあとでさらっと「雪国」を作られた凄い方だったと判明して驚いたんです。お2人が井山さんと出会われた時の印象はどうだったのですか?

 

渡辺:井山さんは女性には優しんですけれど男性には少し手厳しいところがあって、最初は質問をしても答えてくれない関係性でした。撮影は僕と広一さんの2人だったのですが、井山さんにとっては若造で馴染みもないわけなので、酒田の歴史を全部語ろうという気持ちが強かったみたいで、60年以上ものライフヒストリーを全部話そうと、インタビューが5時間近くになったこともありました。ですから質問しても、ほぼずっと井山さんが思いついたことを喋っていらっしゃるという時間が続きました。

 

佐藤:ははは(笑)。『世界一と言われた映画館』でもインタビューはしていないですからね。勝手に喋り始めたので、慌てて撮影を始めたんです。

 

渡辺映画『YUKIGUNI』の場合は、証言集というより物語を紡ぎ出したいということだったので、聞きながらずっと物語の核となるエピソードを探すわけなので、私も何度もお店に行って、話を聞き続けました。なんど喋り続けても、私がどうも聞きたいことが別にあるのだなということを思われたようで、だったら監督が撮りたいものを撮れるようにと、マスターとの会話のキャッチボールができるようになったと思います。そのあとは質問に的確に答えてくれるようになって、撮影も一気に進みました。通い続けたことで生まれた信頼関係ですね。

 

ーー徐々に関係性ができていったんですね。

 

渡辺:井山さんはお話好きなので、ずっとしゃべっているという感じで撮影が始まったんですが、奥様が亡くなられてご自身の心境の変化が激しくなった時、今まで本人が語ることがなかった感情の吐露をカメラの前で聞くことができるようになったんですね。

 

ーー映画の中でも奥様のことを想っているシーンに感動しました。いろいろある人生の中、いいところもわるいところも混ざり合っているところも素晴らしなと思います。娘さんとの「ケルン」でのシーンも印象的で。

 

渡辺:人生いずれ両親とも必ず別れるわけじゃないですか。それまでわだかまりのあった父との和解というかその1つの象徴的な形として、ああいう形になったのかなと思いますね。

 

佐藤:非常に映画的なシーンだと思いますよ。

 

ーー僕もそう思います。それこそ世界中の人に愛されているカクテルを、実は娘さんは飲んだことがなかったというのも対比となっていますよね。

 

佐藤:「幸せの青い鳥」みたいな感じですね。

 

ーー確かに。「雪国」のミントチェリーが青い鳥だったんですね!

 

佐藤:上手いこと言いますね(笑)。

 

 

ーー最初の方で井山さんが「日本一幸せなバーテンダーです」と語られていますが、全編観ると「幸せ」という言葉の意味を改めて実感できました。井山さんの作る「雪国」もお客様に喜んでもらうためだし、「グリーン・ハウス」の支配人だった佐藤久一さんも映画だけじゃなくてコーヒーやショッピングで楽しんでもらおうと思っていた。BARと映画館、それに関わっている人の気持ちは同じなのではないかと思うので、ぜひ2作品合わせて観て欲しいですね。

 

渡辺:2本立て上映をどこかでやりたいですね。

 

ーーこれほど名画座向きな2本もないと思うんですよ。まずお昼に『世界一と言われた映画館』を観てコクテール堂のコーヒーを飲んで、夜に『YUKIGUNI』を観て「雪国」を飲むと。

 

佐藤:映画と飲み物がどちらも連動していますからね。

 

ーーやっぱり映画を観たあとは、誰かと語り合いたいじゃないですか。

 

佐藤:誰かと一緒に映画館へ行ってTV画面じゃない大きいスクリーンのある空間に身を委ねて、そして語り合うという。今はなんでも1人で過ごせちゃう時代なので、当たり前だったものがだんだん減ってきていますよね。両作をきっかけにして、そういうことを語りたくなるような内容になったのかなって思います。

 

渡辺:最近つくづく思うんですけれど、孤独死一千万人といわれる時代の中「おひとりさま」で食堂や居酒屋に行くとカウンター席に通されるんですよね。そこでは壁と向かい合うことになって、オーダーしたものしか出てこないじゃないですか。BARのカウンターはそれとは違っていて、目の前にマスターが居てその人に合わせてオーダーしたものを作ってくれるので、まったく別物なんですよ。

 

BARのような場所が社交場としてないと人間は孤独で死んでしまうと思うんです。長生きするっていうことは必ず誰かと死別する確率がどんどん高くなるわけで、もし長生きしても誰も自分の周りに居ないと不幸になってしまう。なので、会社と自宅以外の居場所をどこかに作っていかないといけない。そういう体験はカフェもまさしく、そうだと思うんですよね。

 

ーー僕もわりと1人でいることが多いのですが、その場所に誰か他の人がいるということは貴重ですよね。映画館は、たまにほぼ貸切で観ることもありますが……。

 

佐藤:作り手としては冷や汗ですね(笑)。ぜひ美女をはべらせて行ってください(笑)。

 

ーーあはは(笑)。

 

渡辺:それは伊丹十三監督『たんぽぽ』のオープニングの役所広司さんのようですよね(笑)。

 

佐藤:ああいう感じで観に行ってくださいよ!

 

ーー僕はどちらかというと卵の黄身キスがしたいですね(笑)。

 

佐藤:あー、そっちの方がエロいですね!

 

渡辺:あれはヤバイですね(笑)。

 

佐藤:TVで普通に放送していましたからね。家族で観ると「エッ」ってなる(笑)。

 

ーー僕も小学生ながら母親と一緒に観ていて「何を観ているんだろう」と思いましたよ。

 

渡辺:佐藤監督、そういう映画撮りたいんじゃないんですか?

 

佐藤:『TANPOPO』っていう(笑)。

 

ーー『HANA-JI』みたいなパロディじゃないですか(笑)。

 

渡辺:酒田もラーメン屋が有名ですから。ラーメン屋珍道記みたいな。

 

 

■次ページ:たくさんの物語と人との出会いーー

 

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