稲垣吾郎さんが朴訥な炭焼き職人に扮し、長谷川博己さんや渋川清彦さんと共に「同級生」を演じていることでも大いに話題となっている映画『半世界』が、いよいよ2月15日(金)から全国公開されます。このたびSWAMP(スワンプ)では、本作で監督&脚本を担当された阪本順治監督に単独インタビューを敢行。

 

「そもそも映画監督や役者とは……?」といった根源的な問いから、『半世界』と豊田利晃監督の『泣き虫しょったんの奇跡』の間に起きた嘘みたいな本当の話、そして阪本監督の映画制作にまつわる「1人妊娠出産!?」話に至るまで、たっぷりとお話を伺いました。

「屋根裏部屋でコウモリと会話していた」阪本監督と映画論

 

——実は昨年、早稲田大学で行われた「ぴあフィルムフェスティバル」総合ディレクターの荒木啓子さんと阪本監督の対談を聴講していたんです。監督の少年時代のエピソードがあまりに衝撃的で、まさに度肝を抜かれました。

 

阪本順治監督(以下、監督):「屋根裏部屋でコウモリと会話していた」とか、「文鎮で自分の頭を殴っていた」とかそういう話でしょう? そんな話を学生が聴いて何の役に立つんだって話だよね(笑)。でも要するに、いったいどんな野郎が「映画監督」という肩書きを身に着けて、偉そうに仕事をしてるのかっていうのを手っ取り早く伝えるためには、そういう話をした方がわかりやすいかと思って。

 

——確かに「人となり」がわかったほうが、親近感は湧きますよね。ちなみに監督はいつも「標語」をご自宅の机の前に貼られているそうですが、いま貼ってあるのは何ですか?

 

監督:確かその時は「楽しく生きよう」だったよね。

 

——はい。「楽し『て』生きよう、にならないように気を付けよう」とおっしゃっていました。

 

監督:それもまだ貼ってあるけど、あとは立川談志の「本当の美談は恥ずかしくて表に出てこない」とかね。標語というより、気になる言葉と遭遇したらそれを自分で書いて貼ってるの。

 

——そうなんですね。荒木さんとの対談で「映画監督の仕事とは、自分の中に他者の居場所を見つけることだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。俳優は他者を演じる仕事だし、監督は他者を演出する仕事ですよね。

 

監督:それを思いついたのは『半世界』の撮影現場だったんだけどね。

 

——では、割と最近の話なんですね。

 

監督:この5年位、『人類資金』で経済やグローバリズムに触れたり、『エルネスト』でキューバに行ったり、『団地』では宇宙に行ったりね(笑)。なんだかいつも「旅支度」をしている感じだったんですよ。今回『半世界』を撮影した三重は俺の地元ではないんだけど、久しぶりに「パスポートがいらない場所で撮影してみよう」と思ったの。

 

——なるほど。

 

監督:それで実際にやってみたら、少し冷静になれたところがあるんだよね。やっぱり海外で撮影するとなると、国によって文化も違えば映画人の気質も全く違う上に、通訳を介すことになるわけだから、常に体温が上がった状態なんだよね。それが『半世界』では平熱に戻れたわけ。そうした時に改めて「俺のやっていることって何だろう」と考えた。

 

そもそも俺の書いているオリジナル脚本には、自分の実体験だったり、あるいはそれをヒントにしたエピソードやキャラクターだったりが、たくさん含まれているものなんですよ。だからそもそも「自分が何者なのか」がわからない限り、「他者」のことなんて絶対わかるわけがないんです。

 

つまり「自分の中に他者を置く」というのは、「他者の中に自分らしさを見出す」のではなくて、あくまで「自分から始まった生理の中に他者を含む」感じに近いというか。

 

——「自分の中の他者と共感する」と言うことですか?

 

監督:まぁ、そうとも言えるね。そんなことを考えながら「やっぱり監督や俳優って面白い商売だなぁ」と思うようになった。結局、監督も俳優も「自分じゃない誰か」のことをずっと考えるわけでしょ。つまりそれは「自分じゃない誰か」が「どんな社会で生きているのか」とか「どんな時代に生きてるのか」といったようなことになるわけだけど。

 

そもそも映画って「人生の途中から始まって、途中で終わる」ことがほとんどなんです。もちろん「オギャー」って生まれた時から、墓場まで描いている映画もあるよ。でも一般的には「人生の一部分」を切り取ったものだからこそ、エンドロールを眺めながら「いったい彼らはこれからどうやって生きてくんだろう」って、「映画では描かれない彼らのその後の人生」についても考えてしまったりするわけじゃないですか。

 

——例えば役者さんが「役作り」をする上では、台本に書かれていないことまで探っていく場合もありますよね。阪本監督は、先日の対談でも「この男は離婚歴があるのか?」と役者から聞かれたときに、さすがに「わからない」とは言えないから「あらかじめキャラクターの経歴は考えておく」とおっしゃっていましたよね。

 

監督:確かに昔は役ごとに履歴を書いて役者に渡したこともあったけど、でも別に「俺が書いたものが正解」と言うわけではないからね。つまりそれを「役作り」の真ん中に置かれても、芝居が堅くなるだけなんだよ。要はそれだけだと単なる「役作り」で終わっちゃう。でも実際には「役作りの向こう側」というのがあって……。

 

——「役作りの向こう側」とは?

 

監督:ストイックに「役作り」をする俳優さんは「真面目でいいなぁ」とは思うんだけど、やっぱりそれを超えたところに、もう1つの世界があるわけで。

 

——それはまさに『半世界』的なことですか?

 

監督:うん。という風に、佐藤浩市が言ってました(笑)。

 

——ははは(笑)。

 

監督:「役作り」をすること自体は、頑張れば誰でもできるんですよ。でも「役作り」の方法を間違えると、どんどん無駄なものを身に付けようとするんです。

 

——きっと不安になるから、どんどん自分の中に取り入れようとしますよね。

 

監督:でも、本来はそうじゃなくて、自分の中にあるその役に必要じゃないものを、どんどん捨てていくんですよ。邪魔するものを、全部ね。

 

——となると、どんなキャラクターも、自分の中にもともと「ない」ものは演じられないと言うことですか? たとえそれが殺人犯の役だったとしても。

 

 

監督:例えば役者が「僕はこの殺人には、こういう理由があったと思うんですよね」って自分の見解を話すのは構わないんですよ。でも俺が「そうだねー」ってその答えを正解としてしまうと、役者が芝居に迷ったときに、全てそこに立ち戻ることになってしまうんです。でも、実際には人間の行動って、別に1個の理由だけが原因というわけではなかったりするじゃないですか。殺人事件が起きて、新聞記者の取材に精神科医が「彼にはこういうトラウマがあったと思う」と分析したとしても、それはあくまでも「予測」しているだけで、本人にとってはそんな1個の理由だけじゃないでしょ。

 

——「他人に分析されてたまるか」と感じる部分もありますよね。

 

監督:そうそう。殺人者の役をやるときに、実際にその人物を演じながらじゃないと、わからないことってあるじゃないですか。

 

——それは役者が演じている最中に実際に感じる「揺らぎ」のようなものですか。

 

監督:そう。本来は最後にやっとわかったりする場合もあるわけでしょ。

 

——つまり、たとえオリジナル脚本であったとしても、監督の中にあらかじめ全ての答えがあるわけはない、と言うことですね。

 

監督:それはもちろん、キャスティングによっても全然変わってくるよね。たとえ同じ台本であっても、同じカット割りであったとしても。

 

——監督の中には「キャスティングが9割」と言う人もいらっしゃれば、「キャスティングには一切口出ししない」と言う方もいらっしゃいますよね。

 

監督:それはケースバイケースで変わるよね。時には演者があらかじめ決まってから、オファーを受ける場合もあるし、オリジナルの企画でキャスティングから携われる場合もあるしね。

 

——やはり監督ご自身で、キャスティングもスタッフィングも決められるのが理想ですか?

 

監督:う〜ん……。もちろん「オリジナル(脚本)に限る!」と思ってデビュー当時からやってきたわけだけど、結局は「自己模倣」に陥っていくんですよ。

 

——「自己模倣」とは?

 

監督:つまり、ジャンルを変えているだけで、基本的にやっていることは同じだということ。脚本を書いているとどうしても「ABCから始まって、DEを飛ばしてFに行きたい生理」とかがあるんですよ。セリフや場面転換のリズムとかで。

 

——具体的には、どんなシーンですか?

 

監督:例えば「久しぶり」「どないしたん? 浮かん顔して」「いやーさっきな、神社行ってなぁ、おみくじ引いたらなぁ、凶が出たんやー」と言うセリフがあったとする。

 

俺の場合は「久しぶり」「どうしたん? 浮かん顔して」のあとに「凶が出たんやー」って飛ぶわけよ。こういうセリフって、山田太一さんとか倉本聰さんとか、誰が書いているか大体わかるじゃないですか。その場合はもちろん「自己模倣」じゃなくて「作家性」になるわけだけど。

 

——脚本家固有の「リズム」があるということですね。

 

監督:シーンのジャンプの仕方って言うかね。つまり「映画」っていうのは「時間の芸術」なんですよ。「100年後」ってテロップを入れるだけで、次のシーンは「100年後」という設定にできるんだから。それに対して「舞台」は「空間の芸術」なんだけど。

 

——確かに!

 

監督:そうなった時に「オリジナルにこだわり続けることが、自分にとって果たして良いことなのか」と思い始めたわけ。ずっとそうやっていると「自分はどうしてもこうやりたい」みたいなことって、逆に生まれにくくなるからね。

 

——自分の生理にとらわれて?

 

監督:そう。だからあえて「たまには他人の生理で生きてみよう」とか「別の人が書いた脚本でもやってみよう」とか考えながら、この30年間やってきたわけですよ。

 

——なるほど。

 

 

■次ページ:「大事MANブラザーズバンド」のシンクロニシティ

 

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