自分の頭の中のニューロンとシナプスが、全く関係ない外国のどこかの人とつながっていると感じる瞬間

 

——今野さんは『LAPSE ラプス』の中でSUMIREさん主演の『リンデン・バウム・ダンス』の監督・脚本を担当されています。『LAPSE ラプス』における各監督の役割分担のようなものは、最初から決まっていたのでしょうか。

 

今野:決まっていたのは「未来をテーマに撮る」ということだけで、かなり自由にやらせてもらえました。ただ、脚本を書いている段階でほかの2人がどんなことを考えているのか耳に入ってはいたので、無意識のうちに内容が被らないようにはしていたかもしれないですね。ミュージックビデオと違って1から自分のやりたいことを試せる場でもあったので、ある意味、原点に立ち返れた部分もあります。

 

——デビュー作というと、監督ご自身が慣れ親しんできたジャンルに近いものになることが多い気がするのですが、この作品からはヒップホップの要素は感じられないですよね。

 

今野:そのキーワードで括られることがよくあるんですが、私自身実はそれほどヒップホップにだけドップリ浸かってきたというわけでもないんです。もちろん、いまでも好きなヒップホップはありますし、逆に嫌いなものもあります。その時々で好きなものも変わってくるので、「このジャンルだから絶対に好き」っていうのはほとんどないんですよね。

 

——『リンデン・バウム・ダンス』にはロマンティックな要素が多いことにも驚きました。

 

 

今野:今回は自分の体験がもとになっている部分もあったりするので、作品全体のトーンや美術に関しては「こういう部屋にしたい」とか「ベッドシーツはレースにしたい」といったように、1から10まで細かくイメージはあったかもしれないです。

 

——「安楽死」をテーマにした理由とは?

 

今野:普段ミュージックビデオを作るときは、どうしても流行やファッションを意識せざるを得ないので、そういったベクトルとは少し違うことがやりたいという思いがありました。とはいえ作品のために自分から遠くにある問題にわざわざ寄り添っていく、というやり方はあまり得意ではないんです。なので、実生活で本当に私が考えているものがこのテーマだっただけというシンプルな理由ですね。

 

——SUMIREさんを起用した理由とは?

 

 

今野:(本作の)藤井道人プロデューサーが「脚本のイメージとピッタリの子がいる」ってSUMIREちゃんを推薦してくれたんです。これまで役者を演出した経験が少なかったこともあり、とにかく空気感がピッタリの人を起用したいという思いがありました。SUMIREちゃんのハスキーボイスもすごく気に入っています。SUMIREちゃんはビジュアルだけではなく演技のテンポ感や声もぴったりだなと思いました。

 

——ミュージックビデオと比較して難しかった部分とは?

 

今野:「言葉に対して苦手意識を持ちすぎていた」というのはあるかもしれないですね。「わざとらしい空気感になるぐらいだったら、セリフがない方がいい」と思ってしまう方なので(笑)。でもこの作品を通して「言葉にしてもクサくならないスレスレの感覚」というのが、なんとなく掴めてきたのかなとは思っています。

 

——映画であっても、やはり音楽が占める割合は大きいですか?

 

今野:「音楽がないと書けない」というくらい、音楽の存在は大きいですね。今回は脚本を書きながら聴いていた曲をどうしても入れたくて、割と初めから曲名やタイミングまで細かく書きこんでいました。

 

 

——ビジュアルの美しさも『リンデン・バウム・ダンス』の魅力のひとつですよね。

 

今野:夕日が綺麗だというだけで、わけもなく涙が出たりすることってあるじゃないですか。さらにそこに音楽が組み合わさるだけで人の感情って動いたりすることがあると思うんです。だからセリフで直接的に伝えるよりも、空気感とか光の表現とかで伝えようとしている部分は多いのかもしれません。

 

——やはり脚本から手掛けられる方が、ご自身の世界観をより色濃く反映できますか?

 

今野:ミュージックビデオでも、アーティストの世界観にすごく共感できたら、どんどんイメージが湧いてきます。最初にその音楽を聴いたときに「これ映像化してみたい」と思う衝動が大事だったりしますね。「ビジュアル先行」と言われることが多いのですが「この絵が使いたいから、こういうストーリーにする」というよりも、感情の揺れ動きに合わせてカメラを動かしたり、光を作ったりしていれば自然とそういった映像が出来上がるのかなと思います。

 

——カメラワークも監督ご自身で考えるんですか? それとも大橋さんの提案ですか?

 

今野:大体はお互いの感覚で時と場に合わせて自由にやっているんですが、あまりにもイメージと違った時には「ここはシンメトリーで」とか「俯瞰で撮りたい」とか、具体的に試しながら作っていく感じですね。カメラワークについては毎回結構もめて、時間を割いてしまうことも多いので今回は全てのシーンとカットごとに絵コンテを描きました。もちろん、実現できたところもあれば、叶わなかったところもあるのですが。

 

——良い作品を生み出し続けるために、普段どんなインプットを心掛けていますか?

 

今野:日ごろから色々なジャンルのミュージックビデオや真似できそうな規模感の映画は観ていると思います。映画監督の中ではグザヴィエ・ドランとかが好きです。ドランが好きな監督は一人残らず、私が好きな監督でしたね。自分が本当に惹かれるものは、世界中のどこかで全部つながっているんだなぁと改めて感じました。私はこういうことがよくあるんですけど、自分の頭の中のニューロンとシナプスが、全く関係ないどこかの人の脳につながっていると感じる瞬間ですね。

 

——なるほど。本日はいろいろ教えていただきありがとうございました。ちなみに今野さんは今後も個人名ではなく「HAVIT ART STUDIO」というユニット名で活動される予定ですか?

 

今野:新たにスタッフも加わったので、今後は集団での活動も継続しながら、それぞれの個性も売り出していこうという話もしています。『LAPSE ラプス』の公開をきっかけに、さらにいろいろな可能性を追求していきたいですね。

 


 

今野さんのお話を通じて「HAVIT ART STUDIO」というグループが、今野さんと大橋さんお2人の絶妙なバランスで構成されていることが伝わってきました。いつか大橋さんのお話も伺ってみたいです。

 

(写真:加藤真大)

作品概要

 

LAPSE ラプス』

配給 アークエンタテインメント

製作 BABEL LABEL

 

 

『リンデン・バウム・ダンス』

監督・脚本・撮影:HAVIT ART STUDIO

出演:SUMIRE、小川あん

 

公式サイト:http://babel-film.com/

 

 

©BABEL LABEL

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