日本のマラソンの発祥といわれる「安政遠足(あんせいとおあし)」をモチーフに書かれた小説『幕末まらそん侍』(土橋章宏・著/ハルキ文庫)を、佐藤健さん・小松菜奈さん・森山未來さん・染谷将太さん・青木崇高さん・竹中直人さん・豊川悦司さん・長谷川博己さんら日本を代表する超豪華キャストと、アカデミー賞受賞歴を持つ世界的スタッフが集結して映画化した『サムライマラソン』が、いよいよ2月22日(金)から全国公開されます。

 

このたびSWAMP(スワンプ)では、アメリカ・イギリス・ドイツと世界をまたにかけて活躍するバーナード・ローズ監督と、日本映画界に欠かせないムードメーカーであり、本作では「隠居前にもうひと花咲かせたい!」と張り切る老侍・栗田又衛門役を務めた俳優の竹中直人さんにインタビュー。竹中さんの軽快な口笛から始まり、「監督と役者の理想的な関係」を巡るお2人のトークは、果たしてどんな展開を迎えるのか……!? ぜひ最後までごゆっくりお楽しみください!

 

「シリアスなアプローチで臨んでも、映画は全然面白くならない」×「Don’t think.Feel

 

——監督の過去作『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』の官能的でゴージャスな世界観に魅了された観客の1人として、新作が「幕末の日本を舞台にした時代劇」だと伺って「一体どんなことになっているんだろう?」と興味津々でした。

 

バーナード・ローズ監督(以下、監督):僕も最初に『サムライマラソン』の企画を聞いた時は「なぜ僕に?」って、ちょっと混乱したんだよ(笑)。西洋人の映画監督が日本の文化を映画化しようとするときには、どうしたって間違った描き方をしてしまいがちなんだ。もはや「地雷源」とでも言ったらいいのか、とにかく失敗する可能性が大いにあった。でも、いわゆる「真の日本映画」を手がけられるということは、僕にとって決して「ノー」とは言えない素晴らしい機会だったし、またとないチャンスだとも思ったんだ。もちろん、今回僕が完璧に日本の文化を正確に捉らえていた、とは言い切れないけどね。

 

——映画の冒頭、開国を求めてダニー・ヒューストンさん扮する海軍総督ペリーが黒船で来航するシーンがありますが、本作の撮影にあたってはローズ監督ご自身もまさしく「ペリー」状態だったと言えますか?

 

監督:確かに、ある意味僕もペリーに近い状況だったのかもしれないね(笑)。でも、この映画を英語のセリフから始められたことは自分にとって大きかったし、これは些細なジョークでもあるんだ。もしこれがアメリカ製作の映画なら、ああいう始まり方をすれば、絶対に最後まで「ペリーについての映画」になると思うよ。ところがこの映画では、冒頭以降にもう二度とダニー・ヒューストンの姿を見ることができない。あの場面で彼とは「さよなら」をするわけだから。

 

——実は『サムライマラソン』を拝見したあとに、竹中直人さんがかつて出演された岡本喜八監督の『EAST MEETS WEST』を改めて観直してみたんです。同じ幕末の時代を舞台にしつつも、あの作品では日本からアメリカに渡っている。竹中さん扮する「侍に憧れた忍者」が、馬に乗って荒野を旅する場面もありますね。

 

竹中直人(以下、竹中):うわぁ〜懐かしい。岡本喜八監督の名前を聞いただけで、思わず胸が震えました。

 

——『サムライマラソン』には、錚々たる役者さんが出演されています。中でも竹中さんは「伝える力」に秀でた俳優であり、映画監督としても活躍されていますよね。ローズ監督も竹中さんも「現場でのコミュニケーションと信頼関係をとても大事にされている」と言う点において、共通する部分があるのではないかと感じたんです。

 

監督:映画の重要な特性は、いままさに目の前で起きている瞬間を積み重ねさえすれば、作り出せてしまえるところにあるんだ。もちろんフィルムの時代はカメラを回すたびに莫大な費用がかかったわけだけど、デジタル化されたことで撮影にかかるコストはかなり下がってきているよね。となれば、役者が初めて演技をするときに、カメラを回さない手はないんだ。映画撮影においては「ファーストテイクが一番いい」というケースはよくあることなんだけど、それは「何かを発見する瞬間」が映っているから。

 

だからこそ、スクリーンに映写したときに観客がワクワクするんだよ。『サムライマラソン』では、カメラのディレクションもほとんど僕が自分でやっているんだけど、それは別に僕がディレクションが上手いからというわけではなくて、役者が演じる初めての瞬間を自分自身の感覚で捉えたいという思いが強いからなんだ。「リハーサルをしない」ことでナーバスになってしまうカメラオペレーターが多いのも、自分でオペレーションするようになった理由の1つと言えるんだけどね。

 

——『サムライマラソン』の現場は、役者である竹中さんにとって演じやすい環境でしたか?

 

竹中:とても楽しい現場でした。監督あっての役者ですから、やりやすいとかやりにくいっていうのは基本的にはないんが、「テストなしのすぐ本番」というスタイルは楽しかったですね。監督から「台本通りやらないでくれ」って言われるのが嬉しかった。その場で生まれるものを撮ろうとしているローズ監督の姿に、毎日興奮していましたね。即興の芝居に、思わず笑っちゃったりしたこともあったりして。

 

監督:それこそまさに演じ手の「やりがい」とも言えるよね。僕にとって「テイクを失敗してしまうこと」は、別に怖くもなんともない。だから役者には「自分の好きなように演じて欲しい」と言っている。でも、もし自分が撮影部の一員で監督からそんな風に言われたら、きっといつも以上に緊張してしまうだろうけどね(笑)。

 

——実は昨年、竹中さんが出演されている周防正行監督の新作映画『カツベン!(仮)』の撮影現場にお邪魔したんです。シーンとシーンの合間も見学をさせていただいたのですが、竹中さんはこの取材がはじまる直前もそうだったように、撮影の直前まで口笛を吹かれていて。

 

監督:『サムライマラソン』の撮影中は、フランク・シナトラの曲も歌ってくれたよね。

 

(と、ここでも歌を口ずさむ竹中さん)

 

——素敵です(笑)。竹中さんはきっと役に入る瞬間にとてつもない集中力を発揮されるのだと思うのですが、まさに直前までご自身を解放していられることに驚いたんです。『サムライマラソン』撮影中の竹中さんは、ローズ監督の目にどんな風に映っていたのでしょうか?

 

 

監督:実際にはどんなことが竹中さんの胸中を去来しているのか僕には計り知れないけれど、近くで竹中さんを拝見していて思うのは、「怖がらなくていいんだ」って自分に言いきかせるために、ある種の自由さを持って現場に臨んでいるんじゃないか、ということ。英語では役を演じることを「Playする」と言うんだけど、「Play」には遊びという意味もある。「すべてに対してシリアスなアプローチで臨んでも、映画は全然面白くならない」というのが僕の持論なんだけど、竹中さんはどうですか?

 

竹中:監督は僕がちょっと抑えた芝居をすると「もっともっと!」とけしかけてきて、僕が芝居のテンションを上げれば上げるほど、喜んでくださるんです。

 

——竹中さんの中から「監督を喜ばせたい」という想いが湧き上がってくるわけですか?

 

竹中:僕の中にあるのは、その想いだけですね。あくまでも僕にとって最初の観客は、監督なので。もちろんスタッフもそうですが、監督が喜んでくれるのが一番嬉しい事ですからね。

 

監督:それこそ、竹中さんぐらい表現力があってコメディー感覚が備わっている方には、「失敗するくらい好きに演じられる自由さ」を明け渡したいと思っている。もしそれが自分の意図とピッタリはまらなかったとしても、大した事じゃないじゃないだろう? どうしても気に入れなければ、またやればいいだけなんだから。そもそも映画作りには「失敗」なんてないと思うんだよ。だってそれこそが映画作りの醍醐味だから。

 

——「失敗はない」というのは、監督ならではの考え方ですね。

 

監督:どの俳優も割と抑え気味の演技をするのは、TVの影響なんじゃないかと僕は思っている。例えば映画史に残るジェームズ・キャグニーのような名優たちは、大きめの芝居をしていたものだよ。キャラクターの感情にしっかり寄り添っていて、そのエネルギーを正しく捉えているのならば、たとえ演技が大げさでも観客にしっかり伝わるはずなんだ。もちろん役者にもよるから、一概には言えないけどね。例えば、『サムライマラソン』で「隠密」の唐沢甚内役を演じた佐藤健さんは、何を考えているかを周囲に悟られてはいけない役柄だったから、その場合はまた少し別のアプローチが必要になってくる。

 

——なるほど。ちなみに『サムライマラソン』において、竹中さんご自身は監督からどんな役割を求められていると感じていましたか?

 

竹中:僕はそういうことはいつも考えたことがないんです。もうとにかく監督と共演者とどんな芝居ができるかという、そのことだけですね。あとは監督が作るわけですから、現場でできる精一杯のこと…こうして言葉にしてしまうとなんだか嘘みたいになってしまうんだけれども…その時に現場で感じている事がすべてです。まさにブルース・リーの「Don’t think.Feel」です。いつもそうですよ。

 

 

■次ページ:「音楽で言うとジャズに近いのかもしれない」×「だって、そういう現場の方が楽しくない?」

 

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