「音楽で言うとジャズに近いのかもしれない」×「だって、そういう現場の方が楽しくない?」

 

——監督と役者にとって「理想的」といえるのはどんな関係でしょう? 多少の緊張感がある方が、良いものが生まれる場合もあると思われますか? それとも……?

 

監督:おっと! ちょっと待ってくれ。緊張なんて誰の役にも立たないよ(笑)。役者にとって一番重要なのは「失敗してもいいんだ」って感じてもらうこと。そして自分がその作品にもたらしたいと感じるものを「自由にもたらしてもいいんだ」と思ってもらうこと。僕はそもそも映画監督には「教師タイプ」と「デモンストレータータイプ」と「独裁者タイプ」の3種類しかいないと思っているんだ。

 

「教師タイプ」の監督っていうのは、「役者は演技ができない」というところからスタートするから、常に「俺が教えてやるんだ」というスタンスになってしまう。「デモンストレータータイプ」の場合は、もっと最悪だね。役者が監督のパペットになるしかないから。結局は、役者をコントロールしようとする悪い独裁者ではなくて、それぞれの役者に「自由にやっていいんだ」という自信を与えることができる「心の優しい独裁者タイプ」が一番いい監督なんじゃないかな。

 

——とても興味深いです。「独裁者タイプ」にもいろいろあるんですね。

 

監督:僕はリハーサルをするのが好きではないんだけど、もちろんテストのための時間は設けてある。でもその時間は単に台本のセリフをなぞるものではなく、役者がキャラクターを理解するためのものなんだ。なぜなら僕は、役者自身が誰よりも役柄のことをわかっていなければいけないと思っているから。監督がそれに対して何かを言う必要なんて、そもそもまったくないはずだよね。

 

竹中さんとまったく同じことを僕が想像することができないように、それは竹中さんの内側からもたらされるべきものなんだ。そればかりか、監督が頭の中で想像しているものをキャストやスタッフが再現する行為には、作品自体を小さくしてしまう危険性があるからね。

 

——竹中さんは、監督が何を求めているかを常に探って、それに応えていきたいと考えるタイプの役者さんですよね。ローズ監督のように「役者にすべてを委ねるタイプ」の監督に対しては、竹中さんはどのようなリアクションを返されるのでしょうか?

 

竹中:役者はある種の譜面みたいなもので、リズムを刻んでいく感じがするんですよね。それを感覚的に捉えていく。常に監督の求めている音符や譜面のイメージに、自分ならどんなテンポで応えていくかを探っていく感じでした。それに今回は、特に長回しのシーンも多かったので。

 

 

——まさに監督と役者がお互いに現場で「呼応しあっている」と言えますか?

 

竹中:はい。目には見えないエネルギーが、その空間を飛び交っているんだと思います。

 

監督:僕もその通りだと思うね。もし役者に芝居を変えて欲しいと感じた時も、頭ごなしに「変えてくれ」とは絶対に言うべきではないと思うんだ。なぜなら、そうすることで役の中に自意識が生まれてしまって、決してそれ以上いい演技にはならないから。「ここがダメだから、こういう風に演じてください」と言うよりは、何か少し撮影の方法を変えてみるべきだと思うよ。そういった意味では、撮影の合間に役者を褒めることすら、あまり効果的でない場合が多いんだ。

 

——というと?

 

監督:例えば、もしもあなたがこの部屋に入ってくるところから撮影をすると仮定する。1回目は普通に入ってきたのに、「今度は亡くなった祖母のことを考えながら入ってきてください」なんて言われたら、混乱してしまうでしょう?

 

——確かにそうかもしれません。

 

監督:そんな風に演出する監督って、演じる側もやりにくくないですか(笑)?

 

(と竹中さんに質問する監督)

 

竹中:僕は全くそんな事はないですよ。常に許容範囲を広くしておきたいと思っています。

 

監督:でも、時には監督の言葉が右から左に抜けることもあるのでは?

 

竹中:うん、まぁ、そんな監督もいますから、それはあります。でも僕は「監督には従わなければいけない」と常に思っています。

 

監督:例えば、自分の編集したものをほかの人に見せるときに、自分の思っていることと違うことを他人から言われると、やっぱりパンチしたくなるものなんだよね(笑)。もちろん僕も大人なので、その場では笑顔を浮かべながら「そうかもしれないね。ありがとう」とは言うんだけれども、結局は全部自分のやりたいようにやるからさ(笑)。だからきっと、役者の場合も同じなんじゃないかなぁ。

 

——そういえば、先日TVの対談番組で、周防監督も同じようなことをおっしゃっていました。

 

竹中:そうそう。周防監督も昔は全然まわりの言うことを聞かなかったんだけど、最近はみんなの意見を聞くように努力されている、という話ですよね。

 

監督:人間っていうのは、そもそも本能的に人から何かこうやれって言われたら、絶対に従えない生き物なんだよね。だから映画を作るときに一番良いのは、素晴らしい役者を起用して、自由に演じてもらうこと。まさに、それに尽きるよね。

 

——監督を務めるときの竹中さんも、ローズ監督と同じお考えですか? 過去のインタビューでは「キャスティングが9割」だと発言されていらっしゃいましたが。

 

竹中:キャスティングで大体が決まっちゃいますからね。だから僕は「役者に役作りは必要ない」って、いつも思いますよ。

 

——竹中さんの『役者は下手なほうがいい』という著書の中にも、そのお話は詳しく書かれていますよね。

 

竹中:芝居が上手すぎる役者は、やっぱりつまらないでしょう。

 

監督:でも、役作りに関して言うと、演じるキャラクターのバックストーリーを役者自身がクリアに把握している事は、役者にとっても必要なことなんじゃないのかな?

 

竹中:僕の場合は、バックストーリーも含めて監督のイメージを感じるだけですから。

 

監督:確かに竹中さんの場合は、役柄についてディスカッションするというよりも、リハーサルの中で役柄になっていただいて、その場でいろんな動きをやりながらキャラクターを作っていく感じだったね。

 

竹中:「監督と一緒に現場で積み重ねた時間が、そのまま役になる」という感じですね。

 

監督:僕も全くその通りだと思うよ。例えば音楽家をたくさん集めて、どんな風にその曲を演奏するか延々とディスカッションすることはできるけれども、一旦演奏し始めちゃったら、正直そんな話なんて吹っ飛んじゃうよね。最後まで何とか演奏し通すことの方が、ディスカッションよりよっぽど重要なんだから。

 

竹中:ある意味、音楽で言うと「ジャズ」に近いのかもしれないです。

 

監督:まさにその通り!

 

——お2人のお話を伺っていて、私もそう感じました。セッションしながら一緒に作り上げていく感じなんですね。

 

監督:全くその通りだね。しかも、ジャズは最もレベルの高い演者同士でしか演奏できない音楽である、とも言われているよね。平均的な力しかない音楽家には、ジャズは演奏できない。一人ひとりが担う責任が大きいから。

 

——そういう意味では、今回の『サムライマラソン』では、レベルの高い役者をそろえて、素晴らしいジャズが演奏できたと感じていらっしゃいますか?

 

監督:もちろんそうだね。それから僕が「いいな」と思ったのは、それぞれがみんな本当に違うタイプの役者だったということ。人によって演技のスタイルもまったく違うし、必要なものすら変わってくる。中には「早起きしたくない」という役者もいるし、ファーストテイクが最高の役者もいれば、10テイク重ねないと良いものが出てこない役者もいる。だから映画監督の重要な仕事としては、まずは誰がどういうタイプなのかを正しく把握して、「どういうスケジュールを組めば、いかに効率よく撮影できるか」を考えることだとも言えるよね(笑)。

 

——なるほど! 竹中さんにとっても「同じ現場は2つとない」と言えますか?

 

竹中:『サムライマラソン』の現場は、特にそうでした。普通は台本通りやるのが当たり前だし、「ここはこうでしょ」ってあらかじめ段取りが決まっているものなのに、『サムライマラソン』にはそれがないんですから。「お前ら、ここからは即興で行くからな」「さあ、どうする?」という現場は、僕にとってはまさしく理想的でしたね。

 

——大変そうではありますが、ものすごく贅沢な現場のようにも思えます。

 

監督:だって、そういう現場の方が楽しくない?

 

——「あらゆることを楽しめる」というのが、監督と竹中さんに共通するポイントであるような気がしました。目の前で起きることを、すぐに映画の中に取り込んでいけるお2人には、「8ミリカメラをきっかけに、映画を撮る楽しみに目覚めた」という共通点もありますよね。監督も9歳の頃から8ミリカメラを回していたと伺っています。

 

監督:あなたの言うように、最初にカメラを回した瞬間から「僕にとっての映画を撮る喜び」は変わっていないんだ。撮影現場では天候ひとつとっても、計画通りにいかない事は山ほどある。でも僕は。もし撮影の途中で雨が降りだしても「太陽が出ている時に再撮影しよう」とは言わないタイプなんだ。だって、雨なら雨のシーンを撮ればいいんだから。雨の中で水着で傘をさしている方が、面白いシーンが撮れるかもしれない。そもそも僕の脚本には、天候を書き込まないようにしているんだよ。現場では常に臨機応変に対応していかなければいけないからね。

 

——なるほど。まさに竹中さんも「監督から現場でどんな球が飛んできても、応じる準備はできている」ということですね。

 

竹中:そうですね。やっぱり僕は即興劇の方が好きですし。

 

監督:竹中さんのアドリブは、まさしく天下一品の代物だからね!

 


 

一見すると「対極」であるとも思える「監督と俳優の理想的な関係」を巡るお2人のお話が、思いもよらない旋律を奏でながら最終的には同じところに行きつく様は、とてつもなくもスリリングで、まさしくジャズのセッションを目の当たりにしているような感じがありました。

 

 

インタビュー後に行われた完成披露イベントのステージ上でも、映画に登場する奇天烈な「ナンバ走り」を見事にアドリブで再現して、会場を沸かせていた竹中さん。「監督と役者の関係」の面白さを改めて感じることができた取材でした。

 

(取材・文:渡邊玲子、写真:加藤真大)

『サムライマラソン』概要

 

『サムライマラソン』

2月22日(金)TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー

 

出演:佐藤健 小松菜奈 森山未來 染谷将太

青木崇高 木幡竜 小関裕太 深水元基 カトウシンスケ 岩永ジョーイ 若林瑠海/竹中直人

筒井真理子 門脇麦 阿部純子 奈緒 中川大志 and ダニー・ヒューストン

豊川悦司 長谷川博己

 

監督:バーナード・ローズ

原作:土橋章宏「幕末まらそん侍」(ハルキ文庫) 脚本:斉藤ひろし バーナード・ローズ 山岸きくみ

企画・プロデュース:ジェレミー・トーマス 中沢敏明  音楽:フィリップ・グラス  衣装デザイン:ワダエミ 配給:ギャガ

 

公式サイト:https://gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON/

 

 

©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

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